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どうやら、宿での食事らしい

 ご飯たーいむ!

 グギュルゴゴゴゴ……


「ぎなぅ……(何か、凄ぇ美味そうな匂いがする……)」


 周囲から漂う料理の匂いに、ブサが爆音を響かせながら目を覚ましたのは、日もすっかり暮れた頃だった。

 ギルドを出た時にはまだ太陽の光も残っていたが、今となってはそれもすっかり無くなり、宿の外は暗く闇に沈んでいた。とはいえ、そこらの家から漏れる明かりがあるおかげで全く周囲を見通せない訳では無い。

 それにそこかしこから聞こえる人のざわめきが、決して闇を不安に感じさせる事は無い。


「うちの店で暴れるってぇんなら、わぁ(・・)が相手しちゃるわい! おるぁ! 坊主(ぼんず)もっと根性見せんかぁい!!」「す、すみませ……っ! もう……っ、許し……ぐふっ!」

「おー、今日二回目かぁ? おっさんも相変わらずだよなぁ」

「んー? あいつら見た目はギルド員っぽいが、見ねぇツラだナ。動きもまだまだだし、憧れの王都に来てはしゃいじまった感じカ?」

「よりによっておっさんの店でっつうのが気の毒な話だよな」

「そもそも店で暴れる方が悪いでしょうに。それより……ブサ、やっと気が付きましたか。もう夜なんですが、何か食べますか?」


 とある場所では、別の意味で不安にさせる騒ぎが起こっていた。そこは月猫亭に併設されている食堂『星猫亭』である。もちろん、こちらも経営者はフランシスだ。

 食堂としてはどの料理も美味いが特に鳥料理が名物で、さらに運が良ければ(悪ければ?)間近で店主の乱闘を見る事が出来るだろう。なお、フランシスが乱入した後は店の設備にも、客にも――暴れた客を除くが――被害を出した事は一度も無いのが自慢だ。……自慢、して良いのだろうか?

 ロラン達が到着した際にも一悶着あったばかりだが、今この瞬間にも一悶着起こっているようだ。酒に酔って暴れたらしいその男は、もはや戦意喪失し、息も絶え絶えである。すでに相方の男はうつ伏せに顔を床に埋めながら、尻を高く突き出した格好で気を失っていた。

 近くに座っていた客が、気絶した男の尻に空になった皿を乗せる。見事なバランス。ピクリとも動かない男のおかげで皿は水平を保っていた。皿を乗せたテーブルの客達がハイタッチを交わす。とても楽しそうだ。この酔っ払い共め。


「す……すみません! すみません!! もう暴れませんので……っ「当たり前じゃろがぁ! こんボケェッ!!」げぅ……っ!!」


 ついにもう一人の男もノックアウトされたらしい。腹に一撃食らってグッタリと倒れこんでいった。

 それを見た食堂の客が一斉にドッ! と沸く。


「ヒューッ! さっすが、おやっさんだぜぇ! ついでにビールもう一杯頼まぁ!」

「けっ! おだてたって何もねぇわい! おら! 注文のビールじゃい! こっちのつまみはサービスだけんなぁ! この坊主(ぼんず)みてえに飲み過ぎて暴れんなら容赦しねぇぞぉ!」

「よっしゃぁ! 流石おやっさん、おっとこ前ぇー!!」「うるせぇわいっ!」


(え、何このカオス)


 目を覚まして初めに視界に入ったのが、目の前で殴り飛ばされて床に倒れこんだ男である。

 思わずガン見していたら……あ、目が合った。と思ったらそのまま白目を剥いて気絶したようだ。時折びくびくと痙攣している。……大丈夫か、この男。口から泡を吹いている。……本当に大丈夫なのか、この男。


(え、何このカオス)


 大事な事なので二回言いました。


 思わずキョロキョロと周りを見回すも、誰も倒れた男の事など気に掛けていない。それどころか、店にいる客全員が、酒を飲んで飯を食って楽しそうだ。もちろん、倒れ伏した二人はそこに含まれない。


(飯!?)


「ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!(てめぇらだけ食ってんじゃねぇぇぇぇぇ!!)」

「ぅるっせぇぞ、ごるぁぁぁぁ!! だみ声で騒いどるんはどいつじゃぁ!? おまぁもぶちのめしたろかぁい!?」

「ぴっ!?(ひぃっ!?)」

「おっさんが一番うるせえヨ。つか、あの皿放置していて良いのカ?」「あん?」


 ロラン達が乱闘を眺めながら、モグモグと何やら美味そうな物を食べているのを目敏(めざと)く見つけ、ブサが抗議の奇声を上げる。次の瞬間、乱闘の興奮冷めやらないフランシスに恫喝され、全身の毛を逆立てて硬直する羽目になったが。

 血走った目でグリンッ! と勢い良く振り向くフランシスに、特に慌てる様子も見せずにリュシアンが先に倒れ伏していた男の方を指し示す。正確にはその尻の辺りを。

 リュシアンに指し示された方向を振り向き、男の尻に詰まれた皿に目を留める。クワッ! とフランシスの瞳孔が開く。皿を積んだ犯人達は『あ、やべ』みたいな顔をしつつ、引き攣りながら愛想笑いを零していた。


「あ、あ~……おやっさん、そろそろ俺ら帰るんで、勘定を……「その前に何か言わにゃかん事があるんじゃねぇけ!?」全力ですんませんっした!!!!」

 

 まさかの揃って飛び土下座である。


 ――『飛び土下座』……それは椅子に座った状態から瞬間的に空中へと舞い上がり、地面に落ちつつある中で体勢を整えながら着地と同時に土下座をするという、非常に高度な技である。これを土下座に慣れていない者がやると、着地の際に膝を強打したり、バランスを崩して頭から地面に突っ込む事になるので気を付けて貰いたい。

 なお、似たような技に『ジャンピング土下座』や、派生形として『スピン土下座』『スライディング土下座』『バク転土下座』などがある。どれも高度な技故に危険を伴う事があるため、慣れない者は普通の土下座から練習した方が良いだろう。


 ちなみに、土下座の変形として『土下寝』というものもあるが、こちらは土下座を見慣れていない者にはいきなり目の前で寝始めた、だと!? などと思われ余計に怒りを買う事もあるので、土下寝をする相手はきっちりと見極めるようにして貰いたい。なお、土下寝をする際には、顔もしっかりと地面に密着させるのが礼儀である。ここで、少しでも汚れぬように顔を浮かせるなどすれば、相手からは二度と許して貰えなくなるであろう為、特に注意して貰いたいものである。――


「……ちっ、そこまでされちゃぁ怒る訳にもいかんめぇよ。……次やったら叩き出すから、きっちり頭に叩き込んどけぇ!」

「「「はいっ! すんませんっした! 美味しい食事、ありがとうございましたっ!!」」」


 ぴしっ! と揃って土下座をしつつ、食事の礼をする面々。

 気が付けば、いつの間にか食事の代金の清算されてフランシスからお釣りが差し出されていた。彼ら全員土下座をしていた筈なのに、何時の間に代金を差し出したのか。

 しっかり見ていた筈なのにその瞬間がどうしても思い出せず、ブサは頻りに首を捻っていた。……考えたら、負けである。この店に普通は存在しない故に。


「ふぅ……んだらぁ? お、ようやく目を覚ましたのけ。おめぇも腹ぁ減ってんだろう。今、おめぇの分の飯を持ってきちゃるけぇ、ちぃと待っとれよ」


(飯!!)


 カオスな光景にドン引きしていたブサだが、自分にも飯が貰えると分かった瞬間にご機嫌になっていた。尻尾をぴーん! と高く掲げ、ぴしっとお座りをしながらも首がニューンと伸びている。ついでにフスフスと鼻も動く。そんな様子を鼻息荒くアンリが見つめる。


 フスフス、ニューン、フスフスフス……


「おぅ、待たせたな。ほれ、飯だ。たんと食いねぇ」


(よっしゃ、飯じゃー! いただっきまー……あ?)


 コトリ、と音を立てて床に置かれた皿の中身は、ほぐした魚の身と刻んだ野菜をオートミールのようなものに混ぜ込み、ミルクとチーズをかけた……いわゆる猫まんま的なものだった。それにしては手も込んでいるし、中身も豪華だが。普通にリゾットっぽい。

 だが、ブサは自分の皿の中身と、ロラン達の食べている物を見比べる。


 自分……猫まんまのみ。

 ロラン達……香辛料などをまぶして皮はパリッと、中はジューシーに焼き上げた鳥肉。表面カリッと中はモッチリと焼けたパン、刻んだチーズの振りかけられた野菜たっぷりサラダに、ごろっとした根菜とベーコンのようなものが入ったポトフ的なスープ。それ以外にも酒のつまみと思しきソーセージやら、チーズの燻製やら、干した果物やら……と多種多様な美味そうな物が並んでいる。

 そして何より、酒である。 酒! SAKE! YES!


「みぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!(俺にもそっちを寄越せぇぇぇぇぇ!!)」

 土下座バリエーション書いてて凄く楽しかったです。


~ジャンピング土下座~

 飛び土下座と似てはいるが、こちらは空中ですでに土下座の体勢を取っている。着地の際に土下座姿勢を取る『飛び土下座』とは異なるため注意が必要。

 なお、空中で土下座姿勢を取るために、飛び土下座よりも高い飛距離が必要となるので室内にて行う際には頭上に注意である。勢い良くジャンプするため、うっかりすると天井に刺さる。プラーン。


~スピン土下座~

 こちらは地面に立って状態からその場で高速回転をしつつ、土下座体勢に移行するというものである。慣れぬ者は回転中によろけて倒れたり、土下座した際の方向を間違えてあらぬ方向に向かって土下座してしまう事にもなりかねない。

 これは、スピンの停止と同時に謝罪する相手に向かっていないといけないため、土下座の中では難易度が特に高いものとなっている。ちなみに、方向を間違わぬようにするため、回転を遅くするなどは言語道断である。


~スライディング土下座~

 遠くから走り寄りながら、その勢いでもって土下座しつつスライディングし、謝罪相手の目の前で停止する土下座である。

 他の土下座パターンよりは習得が容易なため、土下座にある程度慣れた者はこちらも練習すると良いだろう。だが、うっかりするとスライディングの勢いがあり過ぎて謝罪相手を通り過ぎてしまったり、逆に勢いが足りず途中で止まってしまう事もある為に適切な距離感を測るには練習が必要である。


~バク転土下座~

 椅子に座った状態からの土下座形で背もたれを跳び越すようにしながらバック転をしつつ、着地と同時に土下座をするというものである。

 失敗すると椅子を巻き込みながら倒れて大怪我をしかねないため、注意が必要。一応、椅子が無い状態からのバク転土下座も可能だが、謝罪の信頼度としてはかなり下がる事になる。

 後ろに跳び下がる関係上、謝罪相手からはどうしても離れがちになる為、着地と同時にスライディング土下座で謝罪相手に近付くようにするとなお良いだろう。ちなみに、その際には椅子をどけて貰う協力者が必要となる為注意して貰いたい。そこまですれば、感嘆の言葉と共にきっと許して貰える事だろう。


~土下寝~

 うつ伏せになり、腕を体の真横にぴたりと付け、全身を地面に密着させた、ある意味究極の土下座である。だが、土下座の習慣の無い地方などでは、本文中にも記載したように謝罪と思われず、逆に怒りを買う事になりかねないので相手の見極めが必須である。

 この状態をするには、地面が汚れていれば汚れている程望ましいとされている。綺麗な床の上でやっても、真剣味をあまり感じ取っては貰えないだろうから、状況の把握も必須となる。




 なお、このような事実は実際には無く、謝罪時に上記の内容をしたところでふざけていると思われるのがオチであるため注意されたし。

 実行したが、怒られた! という事があっても、当方では一切の責任を負いかねますのでご注意下さい。


 土下座説明文が楽しかった!(`・ω・´)b

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