どうやら、一悶着あるらしい
バトルシーンはっじまーるよー。
ゴトッ、ゴトゴト、ガダッ……ガヅッ!
「ぎにゃ!?」
馬車の隅で寝ていた猫だが、馬車の激しい揺れとその反動で頭をぶつけた事により目を覚ます。
その様子を見て、テオドールが目を大きく見開いていた。
「ぅー……(いってぇ、何なんだよ一体……)」
低い声で唸りながら、何気無くテオドールの方を見る。寝起きの為か、その目は据わっていた。
その様子を見て、テオドールの目が更に見開いていく。
「テオドールさん、すまネェッ! 賊ダッ!! ちっと煩くなるが、我慢してくださイ!!」
今度は猫の目が見開く。この馬車は、盗賊も避けるのでは無かったのか。
「馬車自体はアンリが守りまス。テオドールさんは念の為に中に居ててくださイ! これから俺とサミュエルが打って出るかラ、おい、猫! お前も大人しくしていろヨ!」
やはり意外な真面目さだ。護衛だから当然だろうが、先に三人を見ているので言葉に困る。
しかし、猫にまで声を掛ける辺りが何とも反応に困るところだ。
猫は目を見開いたままだ。
ふと、ゴゴゴゴゴゴッ! と地響きを感じた気がする。その違和感に猫が音が聞こえたであろう方を見ると
修羅が降臨していた。
「君たちが出るまでもないとも。ここは私に任せて貰おうかねぇ」
「ッ!? いやいヤ! 俺ら護衛ですからネ!? 頼みますから、ここは俺らガ……!」
ズゴゴゴゴゴ……
「いやいや、ここは私に任せて貰うとも。少々、体も鈍っていてね。少し動かしたい気分なんだよ」
「いや……俺ら護衛デ……」
「ダメかな?」
「ドウゾドウゾ」
護衛が依頼人に負けてどうする。一応は頑張ったようだが、テオドールの放つ殺気というか、覇気というか……そういったものに打ち負けたらしい。
肩を落とした姿が何とも哀れである。
「すまないね。すぐに終わらせるから、少しだけ待っててもらえるかな?」
と、言い負かしたリュシアン……ではなく猫に声を掛ける。声を掛ける相手が違うのではないだろうか。
リュシアンの方を見る事もせず、堂々たる態度で馬車の扉を開ける。いつの間にやら、馬車は止まっていたようだ。周囲には取り囲んだ盗賊らしき男達が見える。
「っ!? リュシアン! 何で、テオドールさんが外に出てやがるっ!?」
「うるせェッ! お前が止められるんなら止めやがれってんダ!!」
盗賊を前にしての責任の押し付け合いである。見苦しい。
アンリの冷たい視線に気付かないのだろうか? 恐らく、二人とも後で一言あるのだろう。リュシアンは一応、頑張って護衛としての役目を全うしようとしていただけに、何とも気の毒な話だ。
「さて、君達は少し下がっていてくれるかな。うっかり巻き込んでしまうのは申し訳ないからね」
巻き込んでしまう『かも』ではなく、巻き込んで『しまう』だ。その辺りはテオドールの中では確定事項らしい。
周囲を囲んでいる盗賊がその言葉を聞き、いきり立つが一部の盗賊はテオドールの外見を見て腰が引けている。
当たり前だ。今のテオドールは修羅である。まともな感覚をしているのであれば、敵対しようなどとは思わないだろう。
だが、この盗賊達はまともではなかったようだ。もっとも『まとも』であれば、盗賊などにはならないのだろうが。
「てめぇらっ! どうせ武器も持たねえ、見掛け倒しの肉ダルマだ!! さっさとブチ殺して積荷を奪えぇっ!!」
盗賊のリーダーらしき人物が声を張り上げる。それを聞いて、テオドールの外見に怯んでいた者達も武器を振り上げ、声を上げる。
そのまま怯んでいれば良かったものを。選んだのは盗賊達だから同情の余地はない。
この時、護衛をしているロラン達はと言うと
「何を依頼人の前で見苦しく言い合いなんてしているんですか、時と場所を考えるべきでしょう。貴方達二人が見苦しいと、私達まで同じように思われるんですよっ!?」
お話しの真っ最中だった。
だが、その内容がブーメランしている事には気付いていないのだろうか。
「ぎなぅー(お前もなー)」
突っ込みを入れるのはやはり猫だった。
さて、見苦しいお話し合いから視線を変えると、今まさにテオドールと盗賊達がぶつかろうとしている瞬間だった。
「てめぇ……丸腰の野郎一人で俺らを相手にしようってのか……? あんまり人を舐めてんじゃねぇぞ……っ!」
「武器はね、苦手なんだよ。何度か使ったけどすぐに壊れてしまうんだよね。……それと、君達なんて舐めないよ。飴を舐めた方が余程良い」
ブチッ
「てめぇ……! もう容赦しねぇぞ、ごらぁ! ぶっ殺してやる!!」
「やれやれ、最初から容赦する気なんてないだろうに。それにしても、君達はこの辺りに来たばかりなのかな? 私の事を知らないみたいだしね」
「あぁん!? 何寝ぼけた事ばかり言ってやがるっ! てめぇら……ブチ殺せぇっ!!」
テオドールの言葉に完全に切れた盗賊頭(仮)が先陣切ってテオドールに襲い掛かる。
……集団の頭がいきなり敵に突っ込むのは良くないのでは、と思うがそれを言うとテオドールはどうなのかと言う話に変わるので言及は控えておこう。
手に持った剣を振り上げると僅かに刃の角度を変え、一気に首を狙う……っ!
「それは良くない手だ」
軽く上体を逸らす事であっさり避けたテオドールが独りごちると、テオドールの腕が伸びる。
パンッ!
何かが破裂するかのような音を立てて、真っ先に盗賊の頭らしき男が崩れ落ちた。
「「「「頭っ!?」」」」
盗賊達の声が一斉に方が揃う。意外とこの男は慕われていたのだろうか。声を上げなかった残りの盗賊達は言葉も出ない様子だ。
「安心しなさい。まだ死んではいないから」
何を安心すれば良いのか。『まだ』という事はその内死ぬのか。
盗賊達もそこで逃げれば良いものを、各々の武器を手にテオドールに一斉に襲い掛かる。
「うん。ある程度の気概はあるようだね。大変よろしい」
一人軽く頷いて、前に出る。
次の瞬間、テオドールの右側に居た賊が宙を舞った。
「っ!?」
肩を掴まれている。テオドールが男の体に触れているのは其処だけだった。
ただし、その握力は恐ろしい事になっているのだろう。現に男の肩の骨は砕け、最早剣を持てるような体ではない。そもそも、完全に握り潰された肩が元に戻るかも不明であった。
肩を掴まれ振り回されたその盗賊は、別の盗賊を巻き込んで投げ飛ばされ、地面に叩き付けられる。巻き込まれた盗賊がヨロヨロと起き上がるも、肩の砕けた盗賊は動こうともしない。と、言うより動く事も出来ない。
其処からはテオドールの独壇場である。
避けて、殴って、掴んで、投げて、時々蹴りを入れる。盗賊達からは悲鳴しか聞こえない。
此処まで誰一人として死んではいない、という事実がまた恐ろしい。更に、テオドールは一切武器を使っていない。使っているのは自分の肉体だけだ。
「「「「「…………」」」」」
それを眺めている護衛()達は、猫を含めて皆無言である。そのまま無言の時間がしばらく過ぎ、リュシアンが口を開く。
「なぁ、俺ら雇われる必要あったのカ……?」
それは言ってはいけない事なのだろう。多分。
次話までバトル中です。




