どうやら、今日だけでは終わらないらしい
ブーメラン、ブーメラン。
「……出来る限り待遇を良くすると保障しろ。あくまでもオレ達は『容疑者』だろうが。オレ達は人としての人権を主張する!」
この後に及んでまだ屁理屈をこねる男だが、それが益々審問官達の心証を悪くしているのだとは気付かないのだろうか。
わりと空気を読まない事の多いブサだが、それでもその気になれば年齢なりにある程度状況を見る事は出来る。そのため、自分で墓穴を掘り、その上で土を被せているかのような男の行動に、ひどく呆れたような視線を向けていた。
――この件には全く関係無いが、猫の見下したような目は一部の人間にとってはご褒美である。本当にありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します――
(ありゃ、どうしようもねぇな。救いようの無いバカだ)
「『容疑者』ですか、妙な言葉を使いますがあなた方にそれは当てはまりません。すでに罪人である事は確認出来ていますので。それと『人権』と仰いますが……あなたは他者を不当に貶めたり、傷付けたりする人間にそれが適用されると考えますか? 無抵抗の相手に武器を振るう人間や、謂れの無い言い掛かりを付けてくる人間には??」
「はぁ!? そんな相手に人権なんざ必要ねぇだろう!」
「では、あなた方にも必要ありませんね。それでは、私達は本日はこれで失礼させて頂きます。……ギルドマスター殿、申し訳ありませんがこういう話となりましたので、あの男の仲間達もこちらの部屋の牢へ移動をお願い致します。それと、先程言った処置も」
「むぅ、仕方ないな……。承知した。手数をかけて申し訳ないが、この件が片付くまではよろしくお願いする」
「いえ、こちらこそ余計な手間を増やして申し訳ありません。それに、この件については上からも申し付けられておりますのでご心配無く。最後まできちんとお付き合いさせて頂きます」
審問官達は男の主張をあっさりとかわし、さっさと話を打ち切った。
そして、そのままの流れでセヴランと会話を始める。背後でがなりたてる男を完全に無視して。流石の胆力である。
同じく男を完全に無視しているセヴランも、ギルドマスターにふさわしい精神力の持ち主と言うべきだろう。時々ぶれたりもするがその辺りは……まぁ、ご愛嬌という事で。
完全に男を無視したセヴランと審問官の会話中、ロラン達は笑いを必死に堪えていた。
あまりにも見事なブーメランであった。しかも、自分で堂々と『人権は必要ない』と言ってしまったのだから、もちろん、審問官やギルドが男達に配慮する必要は無い。最低限の待遇で十分だろう。
もちろん、審問官達が指していたのは当然男達の事である。少し考えれば気付きそうなものだが。
(ざまぁ! 超ざまぁ!)
ブサは抱き抱えられていなければその場で小躍りしたいくらいだった。相変わらずハーレムは敵である。
もっとも、ハーレムを作るのが自分だったら何も文句は無い……というのは大多数の意見ではなかろうか。
がなり続ける男を無視して、審問官達と真偽官が部屋から出て行く。その際、一番最後に出た真偽官はロラン達を見て小さく会釈をしていた。気付くか、気付かないかの僅かな動きだったが。
思いがけぬ真偽官の行動に動揺するロラン達。ロラン達は真偽官と面識は無い。何故、自分達に会釈をしたのか分からずしばらく混乱する事となった。
(……今、何か俺の方を見てた気がするが……)
まさか、そんな事がある筈無いだろう。審問官による尋問中は彼らに姿を見られないようにしていたのだから。
現に、今もロラン達による肉壁が形成中である。もっとも、完全に姿を隠せるという事は無く、ほんの僅かブサの視点からだと審問官達の様子が見えるくらいの隙間は空いていたが。
とはいえ、自分の頭では考えても仕方ない、とブサはあっさりと思考を放棄する。……少しくらいは気にしたほうが良いと思わないでも無い。
「ん? どうした?」
「あ、あぁ。いや、その、ちょっと気になる事があってな……」
「すみませんが、この事については後でお話しします」
「ふむ……」
様子のおかしいロラン達は気になるが、アンリの言葉にひとまずこの場での追求はやめてくれたようだ。
「お前達には面倒を掛けてしまったな。すまん」
「いやいや、俺らもギルドにゃ世話になってますんで、この位はまぁ、構いませんよ。頻繁には勘弁して貰いたいですけどね。……もっとも、今日は無駄に疲れたんでさっさと飯食って休みたい気持ちで一杯ですよ……」
「全くダ。依頼中よりも、町に着いてからの方が疲れるって何だろうナ……」
「「「「「ハハハハハ……」」」」」
リュシアンの言葉に全員が乾いた笑いを浮かべる。背後で男のがなる声が響き続けているのが何とも虚しい。
アゴで退室を促したセヴランが、部屋を出る前に何らかの魔道具を起動させる。
途端に男の声が消えた。突然自分の声が聞こえなくなった男はさらに何かを叫んでいるように見えるが、口がぱくぱくと動くばかりでその喉からは何の音も聞こえては来ない。
驚いてロラン達も声を上げたような動きをするが、やはり彼らの声も聞こえない。
明らかに口は何か話しているように動いているし、息継ぎをする度に胸も動いている。どうやら『声』がその部屋から聞こえなくなったようだ。
眉をしかめたロランが、何かを確かめるように壁を軽く叩く……が、やはり何の音もしない。次に咳払いをしてみるが、それでも同じく何の音も聞こえなかった。
男から見えないように背を向けて息を強めに吐き出すが、それも同じく。極々弱めに息を吐いてみたら、意識を研ぎ澄ました状態でやっと聞こえるか聞こえないか位の微かな音が聞こえた。ただし、他の者達にはその音は聞こえていないようだ。唯一、猫の聴覚を持つブサを除いて。
これでは例え小声であっても会話は不可能だろう。囁き声すら聞こえないのだから。
先程の判断を訂正しよう。どうやらセヴランの起動させた魔道具には『ある一定以上の音が聞こえなくする』効果があるようだ。
一つ頷くと全員で部屋を出る。
扉を出る時にチラリと後ろを振り向くが、相変わらず男は激しく暴れながら喚き立てているようなのに、ロラン達の耳には何の音も聞こえては来ない。動きは激しいのに全く音の聞こえていないこの光景は、若干不気味に思いつつも何となく笑えてくる。
ロラン達は顔を見合わせて苦笑いを浮かべると、正面へ向き直り、未だに喚いている様子の男を完全に無視して扉を閉めた。
外へ出た途端に一斉に大きく息を吐く。
(……正直、俺が居た意味何も無かったな。こいつらもただ驚いていただけだし)
各々疲れた体をほぐすように肩を回したり、首を回したりしているロラン達の様子をブサは半目で見つめる。
結局、ブサが男が入れられている牢のある部屋でしていた事は、ひたすら無言を貫き通し、リュシアンの腕に締め付けられて色々なものが出そうになっただけである。後は何もしていない。
何とも骨折り損のくたびれ儲けだ。うっかりしたらそのまま本当に肋骨の1本や2本位は折れていた可能性もあった。もっとも、治癒術があるので治すのは簡単だが。
一応言っておくが、ロラン達は何もしていなかった訳では無い。セヴランに言われ、審問官達とは違う目線で男を観察していたのだ。それに『真偽官』についてほとんど知識が無いと気付き、セヴランに告げたのもロラン達である。
本当の意味で何もしていなかったのはブサだけだ。……まぁ、ロラン達が上記の件について気付くきっかけにはなったかもしれないが。
勘違い男+仲間達は牢にてお泊り確定です。
現代日本の考え方が異世界で通用するとは考えないように。
それはそうと、一日の出来事が濃すぎる……が、ラノベだとこんなもの?
おや? 真偽官の様子が……。
~一応時系列~
早朝:王都到着・門前騒動
午前中:詰め所・宿取り
午前中~午後:ギルド+騒動
午後~夕方:テオドールの店に移動
夕方:再びギルドへ
夜:今
ざっくりこんな感じです。
なお、明日は猫又更新日のため、こちらはお休みです。
ちなみに明日の猫又は22日で2時と12時の2話更新となります。2話目は番外編。良ければそちらもお楽しみ頂けると幸いです。




