どうやら、根本的に違うらしい
「完全に平行線だな……」
「普通なら、真偽官が出て来た時点で無駄な弁明を諦めるんですけどね。例えその時点で諦めなくても、真偽官の判断が下った時点で終わるんですが」
「あいつぁ、真偽官が出て来ても寝言ほざいていやがったしなぁ?」
全く終わる様子を見せない問答に、ロラン達はウンザリしたように愚痴を漏らす。先程のセヴランの気持ちが良く分かった。これは辛い。
一人だけ口を噤んだまま何かを考え込んでいるリュシアンに、ロランが声を掛ける。
「リュシアン、どうした? 何かあったか?」
そう言いながらもチラリとブサを見るのは何なのか。日頃の行いは大事だと思う瞬間である。
だが、ブサとロラン達は出会ってから、そう日数が経っている訳では無い。
それなのにこうなのだから、ある意味ブサはロラン達から物凄く信頼されていた。もちろん、悪い方の意味で。
「んー、いや、ナ? ひょっとするとなんだが、あのアホは真偽官の事知らねえんじゃねえか、と思ってナ?」
「「「ハァ!?」」」
リュシアンの発言にロラン達の声が揃う。驚きのあまり、つい声が大きくなってしまい、部屋に居た全員の視線を集める事となってしまった。
顔を引き攣らせながら各々謝罪をすると、突然妙な事を言い出したリュシアンに鉄槌を下す。特に脇腹にイイのが入ったらしく、身を捩りながら悶えていた。
そんなリュシアンを放置したまま、小声でワチャワチャと言い合いを始める。
「何言い出すんだ、お前は!」
「うぐ……ぐ、ヌ……! いや、その、すまン。そこまで驚くとは思わなかっタ」
「驚かない訳無いでしょう。常識ですよ? どんな田舎の子供だって知ってます。『嘘を吐くと真偽官が〜』というのはどの親でも躾に使う程ですよ? 私だって子供の時には言われたんですから」
「てめぇのガキの頃が想像出来ねぇ……。いや、それはともかく、アレがどんな超級のアホでも流石にそれすら知らねぇなんてこたぁ……あん? いや、あるかもしれねぇなぁ……」
「あん?」「は?」
ロランとアンリがリュシアンの言葉を否定する中、サミュエルも同じように否定していたが、途中で言葉を切ると少し考え始めた。すぐに考えは纏まったようで、今度は先程とは間逆の意見で、リュシアンの言葉を肯定する。
急に意見を変えたサミュエルに、ロランとアンリが訝しげな声を上げる。
「お前まで一体何を言い出してんだよ……」
「全くですよ。そんな事あるはずが「いや、待ってくレ。現に真偽官を知らねえ奴が、此処にいるだろウ」……いえ、ですが、それは……」
「そりゃ、ブサの事だよな? 確かにこいつはそんな事知らねえだろう。だが、アレは少なくとも十年近くこっちで暮らしてんだろう? それなら知らねえはずは……」
「あぁ……っ、そういう事ですか……」
「あん? アンリ、何か気付いたのか?」
リュシアンの言葉にアンリが何か気付いたらしく、小さく声を上げる。
唯一、未だに気付いていないロランは不満そうだ。若干不貞腐れるようにしながら、自分より先に気付いたアンリに問い掛ける。
「はい、アレの中身が入れ替わったのは七才の時でしたよね? そこまで成長していれば、真偽官について改めて説明するでしょうか? 嘘を吐くと真偽官が来る、と言っても真面目に受け取らなかったのでは……?」
「……そうか。アレは自分に都合の良い事しか信じないタイプの男のようだしな。実際、村の長老が言った『お前は大成する』とか言った言葉は信じたんだったか。んで、今まさに罪人として審問を受けているが、それに関しては全く聞く耳を持たない、と……。それなら、その可能性は十分ありそうだな……」
ようやくロランも納得がいったのか、頻りに頷いている。
ロラン達の予想通り、あの男は真偽官の事を全くと言って良い程知らなかった。村に居た時に言われた事はあるが、どうせ大人が子供を脅しつける為に大袈裟に言っているだけだろう、とたかをくくっていたのだ。ロラン達の予想は当たっていた。
そのために、今の年になっても真偽官の事を知らず、仲間達も改めて説明する事は無かったために、こうしていつまでも罪を認めず平行線になっているのだ。
「だが、どうすんだぁ? 俺らがそれに気付いたところで、審問官が気付かねぇと意味ねぇぞぉ?」
「私達が彼らにそれを教えるのは反対ですね。間違いなく、何故そう考えたかという疑問に至るはずです。そうなれば、ブサの事が隠せません」
「確かにそうなんだけどナ。ギルドマスターには世話になってるから、出来れば教えて少しでも恩を返したイ」
「ん? なら、ギルドマスターだけに話せば良いんじゃねえか?」
「「「あ(ア)」」」
物事の解決法は、以外と単純だったりするものである。
自分達が思い付いた推測をセヴランに相談するために、セヴランの注意をこちらに惹かせ、近くへと呼び寄せる。
話しを中断させられたセヴランはホッとした表情を見せつつも不機嫌そうだが、自分達の推測が正しければ問題の解決にも若干の手助けとなる可能性があるのだから、その辺りは我慢して貰いたいものだ。
もしも解決には繋がらなかったとしても、視点を変える事で何らかの進展があるかもしれない。
早くあのハーレムパーティーとは縁を切りたいロラン達にとっても是非、解決に役立てて貰って自分達を解放して欲しいと思う事頻りであった。
「ったく、何なんだ? 役に立つ話ならともかく、くだらない話なら職務妨害で牢にぶち込むぞ?」
「ちょ、ギルドマスター、勘弁して下さいよ。俺らだってそんなのはごめんです。……で、呼んだのはちょっと思い付いた事があるからなんですが……出来れば俺らが言い出した事だというのは内密にして欲しいんですよ……」
呼び付けられてあからさまに不機嫌な様子のセヴランだったが、ロランの発言に訝しげな顔をする。
「ここじゃまずいのか?」
「出来れば……」
そう言いながらブサを見下ろし、その後、チラリと視線を審問官達に向ける。わざわざ理由を口にはしなかったものの、それだけでセヴランには理解出来たようだ。
「ふむ、有用な情報ならワシも是非欲しいものだからな……。少し、待て」
そう告げると審問官達の元に戻り、一言、二言告げてロラン達の所に戻って来る。
「待たせてすまなかったな。先程も聞いたが、改めてあの男の事を聞かせて貰いたい。何か、解決の糸口になりそうなものが見つかるかもしれないしな。だが、此処では邪魔が入りそうなので、一度部屋を移動するとしよう」
審問官達に背を向け、ロラン達に話し掛けつつパチリ、とウィンクをする。またも誰得なのか。おっさんのウィンクなど嬉しくもない。
ロラン達はゲッソリとした雰囲気を出しつつも大人しくセヴランに従う。ブサに至っては、あまりの似合わなさに吐き気すら催していた。
(きめぇ……っ!)
本当に失礼な猫である。
それと、言わずとも分かるであろうが先程わざとらしくセヴランが話していたのは、審問官達に聞かせる為であった。
「ふぅ。まぁ、抜け出す良い口実にはなったがな……っと」
「良いんすかぁ? ギルドマスターがそんな事言ってよぉ……?」
「ふんっ! あの男の件では次々と、あちこちからギルドに文句が来ているんだ。少し位息抜きしても良いだろう」
「……それはご愁傷様です。しかし、あの男の事がよくこれまで大問題になりませんでしたね?」
伸びをしながら、清々したと言うかの如く吐き捨てる。
アンリの疑問はもっともなのだが、これはギルドのみの責任とも言い切れない。盗賊ギルドと教会の両方で重大な事件となってしまい、その結果、情報が隠蔽されてしまっていたのも今まで大騒ぎにならなかった原因である。
つくづく、迷惑な男達であった。
自分が正しい事をしていると思い込んでいる人間は、他人から見て間違っていると思う事でも絶対に意見を曲げない事は多々あります。この男はまさにそれ。




