どうやら、食事の時間らしい
生肉もぐもぐ
「待たせてしまってすまないね。さぁ、好きなだけ食べて良いよ。足りなければお代わりも売る程あるからね」
サミュエルから先程多すぎると聞いたのは何だったのだろうか。……完全に忘れているのかもしれない。
しかも、売る程って本当に売り物なのだが。
「いや……だぁら多すぎるって……何でもねぇっすわぁ……」
諦めた。
そして猫は、というと目の前に置かれた小さくなっても尚大きい生肉の塊にどうしたら良いものか、戸惑っているようだった。そもそも猫に人間時代に生肉を食べる習慣は無かった。ユッケすらも焼きたい派である。
(せめて焼いてくれよ……)
ウロウロ、ウロウロ
「ん? どうしたのかな? 君のご飯だから食べて良いんだよ?」
「やっぱりデカ過ぎたんじゃないですか?」
「ふむ。ちょっと待ちなさい」
ヒュパヒュパッ
再び素手で肉を切り裂くテオドール。改めて目の当たりにしたロランとサミュエルの二人は遠い目をしている。
今回白目になっていないのは、猫と違ってある程度耐性が出来ているからであろうか。
そんな耐性あっても嬉しくないが。
「これで良いだろう。さぁ、どうぞ」
(違ぇよ、焼けよ)
そもそもの要求が伝わっていない。それを察しろというのは、この規格外な男であっても無理な事のようだ。……多分、無理なのだろう。
半目でテオドールを睨み続けるも、ニコニコと生肉を差し出すのみだ。
どうやら焼いてくれはしないらしい。
「ふむ。どうやら警戒しているのかね」
全く違うのだがそんな事を知る由もない。
「ふむ」
ヒョイッ、パクリ
モグモグ、ゴクリ
「「んなっ!?」」
「ほら、大丈夫だろう? ただの肉さ。毒なんて入っていないよ」
まさかの実食である。
躊躇う様子すらなく、極自然に生肉を摘んで食べた。
「何してんすかぁっ!? 獣ならともかく人間にゃぁ、ワイバーンなんて生で食えるもんじゃねぇでしょうがぁっ!!」
「ちょ! ありえねぇ……。テオドールさんの規格外には慣れたと思ってたんだが……」
「ただの肉だろう? そんなに大袈裟に騒ぐ事じゃないだろうに」
「「騒ぎますっ!」」
ヒョコリ
「さっきから何騒いでいるんですか? 外まで丸聞こえですよ」
「アンリっ! テオドールさんが、ワイバーンの生肉をっ!!」
ハァ……
「丸聞こえと言ったでしょう。聞こえていましたから知ってますよ。テオドールさん、今までにもワイバーンの生肉を食べた事はありましたよね?」
「若い頃は良くあったね」
「なら、大丈夫でしょう」
……普通なら大丈夫では無いのかもしれない。
ところで、この男達は護衛として雇われたのでは無かったのか。この場に護衛三人が集まっているのだが。
護衛、仕事しろ。例えその必要がないとしても。
(逆に不安にしかならないんだが)
そして、三人、いや今は四人であるが。この四人が騒いでいるのは猫の前である。果たして普通の猫だった場合、餌の前で騒ぐ人間達を見て安心して餌を食べる事が出来るものであろうか? いや、無理だろう。
案の定、猫も生肉に口を付けようとはしない。もっとも猫が生肉を口にしないのは、前述した通り全く別の理由なのだが。
(そう言えば、こいつは前に魔法がどうとか言ってたな)
そう。猫が見つめるアンリと言うこの男は魔法使いである。ちなみに地球俗説の魔法使いとは違う、本物の魔法使いなので間違えないように。
「おや、どうかしましたか?」
視線が猫の方を向く。すると視線が合い、もろにアンリの顔を見てしまった猫は視線をサッと逸らした。
アンリが、カッ! と目を見開く。ショックだったらしい。慣れているのでは無かったのだろうか。
「ん? アンリ、どうかしたか?」
「あぁ、いえ。この猫が今、私を見ていたものですから」
「猫がかぁ? ……気のせいだろぉ」
「燃やしますよ」
自分から逸れた目線に、そっと溜め息を吐く猫だった。魔法で肉を焼けないかと思ったのだが、言葉が通じない以上無理な話である。そして上げた視線の先を見て、全身の毛が爆発する。
「食べないのかな?」
テオドールであった。
猫の前に顔を寄せ、下から覗き込むようにしている。
正直、異様な光景だ。その証拠に騒いでいた男達が全員、黙り込んでしまっているのだから。
「食 べ な い の か な ?」
(いただきます)
もっちゃもっちゃ
「うん、良かった。やっぱりお腹が空いてたんだよね」
「いやぁ、単にテオドールさんの威圧に負けただけじゃぁ、げふっ!? あ〜……何でもねぇっすわぁ……」
余計な事を言おうとしたサミュエルの脇腹に肘を突き入れて黙らせたのは、当然の如くアンリであった。この男色々とポロリし過ぎである。
その間ロランは懸命な事に、一切の口を開かず沈黙したままであった。内心は知らないが。
もっちゃもっちゃ、もっちゃもっちゃ
(意外と、まぁ…その食えなくはないんだけどよ……)
猫の肉の好みはサーロインであった。食べたのは遥か昔の事だったが。ちなみに焼き方はウェルダン一択である。何とも勿体無い気はするが、食べる人間の好みであるので今は放っておこう。
もっちゃもっちゃ、もっちゃもっちゃ
(焼いて、塩と胡椒振って食いてぇなぁ……)
甘めのソースなど不要。シンプルなのが一番美味いと思う猫だった。
もっちゃもっちゃ、もっちゃ……げふぅっ
ある程度食べ進めたところで隠しもせず、盛大にゲップを放つ。可愛らしさのカケラもない実におっさんくさいゲップだった。
「おや、もう終わりかい? ……まだ残ってるみたいだけど、ね」
空気に妙な緊張感が漂う。この男、お残しは許せない派なのだろうか。
「いやいや。猫にゃぁ多いって、俺さっき言いましたっすよねぇ?」
「ん? ……そういえば、そうだったね」
サミュエルの的確なフォローだ。そこにアンリも自分の意見を言う。
「初対面の人の前だと警戒して、普段より食欲が落ちる事は多いですよ。人間だってそうでしょう」
「そうかね? 私はそんな事はないんだが」
(そうだろうな)
おそらく、再びテオドール以外の人間(猫もどきを含む)の心が一つになった瞬間だろう。ただし、その事を口に出す猛者は流石にいなかった。
ふいに訪れた沈黙に、テオドールも再びコトリ、と首を傾げていた。
……くぁっ
「おや、眠いんでしょうかね?」
「おやおや、そうかね。なら、邪魔をしてはいけないねぇ……眠りを妨げられる事程、嫌な事はないからね」
他にもあると思う。
「そうですね。そっとしておいてあげましょうか」
「だな」
「しゃあねぇなぁ……」
馬車の隅でウトウトと微睡み始めた猫を眺めて、ホッコリするテオドールと男三人。違和感に誰か気付け。護衛仕事しろ。
(お前ら仕事しろ……)
違和感に気付いたのは猫だけだった。
そしてあと一人。
「なぁ、俺いつまで一人で護衛してりゃいいノ?」
意外と真面目なこの男だけであった。
焼き肉食べたいです……(´-ω-`)
明日は猫又主の公開日となりますので、こちらはお休みです。
次話は2月3日公開です。
よろしくお願いします。




