どうやら、解呪薬が手に入るらしい
固有名詞を考えるのは苦手です……。
ロラン達はすでに知っていたが、ブサは先程の美味なる焼き菓子がテオドールの手作りだとは露ほども考えていなかった。それ故に、その事実を知ってしまった際に思いっきり吹き出す羽目になったのだが。
食べた時にはとても美味いと思っていた焼き菓子が、途端に汗や怪しげな汁やプロテインが混入されているように感じる。非常に失礼である。そして、プロテインは別に悪い物ではない。むしろ体にとっては有用だ。
もっとも、他人に提供する物なので、テオドールも使用人達も異物混入には特に気を付けている。商人は信用が大事なのだから。
だが、人肌ミルクは明らかにアウトであった。せめて鍋を使え。一応はテオドールも気を遣って、密封した瓶に入っているミルクを瓶ごと胸元で温めたのだが、アウトなものはアウトだ。そもそも気の遣う場所を間違えている。
焼き菓子は平気で食べていたロラン達だったが、流石に人肌ミルクにはドン引きしていた。
ミルクの出所を知ってしまい、口から<お見せ出来ないよ!>してしまったブサには心から同情を寄せていた。
今もまだえずいているブサを気遣い、背中を優しく撫でている。
えずきの止まらないブサは『今撫でてくれているのはエステルちゃん、今撫でてくれているのはエステルちゃん……』と妄想しながら気持ちを紛らわせていた。気持ちの紛らわせ方が非常に気持ち悪い。
だが現実にブサの背中を撫でているのはリュシアンである。妄想のようなご褒美はあり得ない。
ついでに、手持ち無沙汰のサミュエルは、パタパタとブサの顔を手で仰いでいた。
ちなみに、その間テオドールさんは正座させられて、ロランとアンリの二人からお説教中であった。同情は出来ない。この件に関しては二人とも遠慮をする気は無かった。
そして、リュシアンとサミュエルの二人もフォローする気はゼロである。ブサに至っては『もっとやれ!』と大絶賛であった。
* * * * * * * * * *
「その……ブサ君、大変申し訳無かった。本当に済まない事をしたね……(ほんの軽い冗談の積もりだったんだよ……)」
「テオドールさん、何か、言いましたか?」
「い、いや……何も言っていないとも」
テオドール的には軽い冗談だったようだが、その結果があの大惨事であった。
小声で呟いたテオドールだったが、しっかりと聞きつけたアンリに釘を刺されていた。
間一髪、テーブルの上にあった本はサミュエルが避難させていたため<言葉にしたくない何か>の被害を受けずに済んだ。万が一本に被害があったとしても、ロラン達が弁償しなければならないという事にはさせなかったが。もちろんアンリが。
「それで、先程の解呪薬の材料ですが……」
「それについては勉強させてもらうとも」
「ん?」
「いえ、全力で勉強させて頂きます、はい」
「ありがとうございます」
(こいつ強え)
ほんの数時間前には依頼人であった相手に対し、驚く程の強気発言だった。
アンリにさんざんお説教されたテオドールは、もはやアンリには頭が上がらないようだ。現に今も、最後には敬語になっていた。しかも涙目である。可愛げは皆無だが。
にっこり笑顔のアンリだが、こちらも爽やかさは皆無である。
「けどよぉ、アンリ。解呪薬の材料手に入れたところで、コイツは飲むのかぁ?」
サミュエルの疑問ももっともである。
実際、ブサの心境は変わっていなかった。虫も血もお断りである。
「ぎなっ!!(ぜってぇ飲まねぇぞ!!)」
「……まぁ、飲むも飲まないのお前の自由だがな。飲まなきゃ永遠に猫の姿のままだぞ」
(ぐっ……!)
ロランの言う事はもっともだ。
ただし、解除薬を飲んだとしても、完全に呪いが解ける訳では無い。少なくとも今の状況よりは若干マシになるだろうと思われるが。
「ブサ君は呪いを解くのが嫌なのかい?」
『ちがう』
「では何が不満だい?」
『ざいりょう』
「ふむ、どれがだい?」
『ち と むしのたまご』
「ふむ……残念だが、どちらも除外しては解呪薬は作れないんだよ。ワイバーンの血には浄化作用が、これが呪いを解くための鍵となる。バステ虫の卵には薬の効果を安定させ、保つ作用がある。血を使わなければ呪いには効果が無い。バステ虫を入れないと副作用がきつくなるし……正直、どんな効果が出るか分からないよ?」
「レスタ草とマンドレイクがあるからなぁ、この場合の副作用は幻覚と麻痺……それと嘔吐、かぁ?」
「おや、サミュエル君、良く分かったね」
「俺も薬の調合位はするからなぁ。出先で手持ちが無くなりゃ、現地調達するしかねぇだろぉ」
さり気なく有能なところを見せるサミュエル。
ロラン達のパーティーは、基本的に薬の類は町に来た時に調達している。
だが、依頼などで長期間町から離れる場合には手持ちの材料や、現地で採集した素材を使って回復薬や解毒剤、毒薬などを作る事がある。サミュエルの作る薬は質が良く種類も豊富であり、正規に売られている薬と大差は無い。
ちなみに、サミュエルが薬を作れるようになった一番の理由は、『薬が作れれば引退後もある程度の生活は出来るから』だった。意外と真面目な事を考えている男である。実は、資格を取ろうと思えば一発合格は間違い無い腕前だ。なぜギルド員などをしているのか。
薬と資格の話ついでに説明しておくが、この世界には調薬師と呼ばれる者達がいる。こちらは素材の効果もリスクもきちんと学んだ者達だ。
調薬師は国の認可を受けた正式な職業である。資格試験を受けて合格すれば、正規の調薬師の元で一定年数働く事で調薬師の認可を受けられる。調薬師の認可があれば、薬の売買が可能となる。
ギルド員が作る薬は売買は不可能だが、個人や仲間内で使うだけなら可能である。ギルド員として登録した調薬師ならばどちらも可能だが。
単純な薬の調合法と材料はギルドにも公開されているので、ギルドで有料の講習を受ける事で最低限の薬は作れるようになる。
だが、この公開されている薬はいわば劣化版のような物で、効能も正規の物と比べると低い。それなのに味も匂いも最悪である。
味のマシな回復薬が欲しければ正規の薬を買うべきだ。その代わりに値段は相応に掛かるが。
ちなみに、ギルドでロラン達がブサに飲ませた回復薬を見た時に錯乱状態になりかけていたギルド員は、主にこちらの劣化版が原因である。もっとも、正規薬と劣化薬の味の違いは、例えるならセンブリ茶とクサヤ汁といった所なので、どちらがマシとも言い切れない。
追記しておくと、効果の高い回復薬は劣化版の回復薬と味はほぼ同じだ。
良薬は口に苦いものである。苦いだけでなく臭くもあるので二重苦だが。
(ぐぬぬ、そうは言われてもな……正直飲みたくねぇよ……)
「……まぁ、飲むか飲まないかはブサ君の自由だからね。とりあえず、解呪薬の材料はロラン君達に渡しておくから。必要になった時には私の知り合いの調薬師を紹介しよう。彼女に薬を作って貰うと良いよ」
「ぎなっ!?(女の子の手作りっ!?)」
「ん?」
『くすり のむ』
「「「「おい、ゴルァッ!」」」」
「ハッハッハ! まぁ、飲む気になったんなら何よりだよ」
『びじん?』
「ん? もちろんだとも!」
『のむ』
「……んっとに、こいつぁよぉ……」
「……まぁ、中身はおっさんっぽいしな」
「……ただのエロおやじにしか見えねえナ」
「……無理して人間に戻ろうとしなくても良いんですよ?」
「「「おい、コラ(ァ)」」」
ぷいっ。
薬を作るのが女性と分かった途端に前言撤回をするブサ。このエロ猫が。テオドールは『女の子』とは一言も言っていないのだが、ブサの頭の中では可愛らしい女の子が薬を作っている映像が浮かんでいるようである。その妄想が的中すれば良いのだが、後で後悔しない事を祈るばかりだ。
ブサもブサだが、アンリもアンリである。いい年の男が拗ねるな、こっちを向け。
それにしても、ブサは猫の姿の内に去勢してしまった方が良いのではないだろうか。少しは大人しくなるかもしれない。ちなみに、去勢した場合は治癒能力でも治す事は不可能だった。永遠におさらばする事となる。
「それでは解除薬の材料はどうする? すぐに薬が欲しいのなら私から彼女に渡しておくが……。ロラン君達はこの後、ギルドに行かねばならないのだろう? ロラン君達さえ良ければ、その間に作っておくように彼女に頼んでおくよ」
「ん~……どうするんだ? ブサ?」
『たのむ』
「うん、任せておいてくれたまえ。それでは私は早速、解除薬を作ってくれるように頼んでくるから、君達はギルドに行って来ると良い。しっかり頑張るんだよ」
「……ハハハ……頑張るような事が起きないと良いよな……」
「やめロ」
『ちなみに』
「ん? 何だい?」
『かいじゅの どうぐは いくらかかる?』
「ん~……どう説明すれば良いのかな。ブサ君は貨幣価値は分かるかい?」
(……そういや分からねぇや)
「その辺りはまだ教えていませんね。とりあえずギルドに向かいがてら説明……は周りの人間に不審がられますね。用事が終わり次第教える事にしましょうか。それではテオドールさん、また後ほど。……もっとも、ギルドで掛かる時間によっては明日になるかもしれませんが」
「ハッハッハッ……そこまで時間が掛からない事を祈るよ、頑張りなさい」
「「「「「…………」」」」」
どう考えてもサラッと終わる気がしない。
テオドールの言葉を受けて、確実にフラグが立った瞬間である。
一応参考にした薬の答え合わせ?
レスタ草・・・セレスタミン(花粉症薬・副作用強い)
バステ虫・・・エバステル(花粉症薬・副作用弱い)
ケプロンの角・・・タケプロン(逆流性食道炎・胃酸の分泌を抑える)
そのまんまですね、すみませんでしたorz
本日も花粉症に目をやられております。痒いです。スギ花粉滅べ、全力で。




