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どうやら、薬の材料が『ヤヴァイ』らしい

 わざわざ言葉を選んで言ったアンリの気遣いを、あっさりと無視したサミュエルの言葉にブサの体が大きく震える。

 ロラン達にそれ程良い感情を持ってはいないブサだが、彼らが『死ぬ』という言葉に平静ではいられなかった。もしも彼らが美女の集まりだったら話は別だが。そんな状況であれば自分から大喜びで擦り寄る所存である。


 しかし、あの時ロラン達が通らなければ遠くない将来、餓死するかワイバーンの餌になっていたというのに恩知らずな(おとこ)である。もっとも、そんな状況だったとは当のブサは全く気付いていなかったのだが。


「それでも言い過ぎだろう。恐らく、ブサには材料がどんなものか分かってないんじゃないか? それならどれだけ手に入れるのが大変かも分からないだろう」

「ん? あ~、あぁ……かも、しれねぇなぁ。わりぃ、さっきの奴らの事もあってイラついてたかもしれねぇ……」

「……まぁ、無理も無いかもナ。あいつらは酷かっタ。あのセリアっつう嬢ちゃんはまだマシだったけどな。……後でもっかいギルド顔出した時には、もう、関わらないで済むよナ?」

「自覚したなら何よりだ。それとリュシアン、縁起でも無い事言うな! 本当に関わる羽目になったらどうする!」

「あ、悪イ」


 残念ながらロラン達の望みは叶わない。嫌でも、あのハーレムパーティーとはまた関わらなければならないのだが、それはまだ後の事だった。 


「とりあえずこの本に書いてある材料ですが……」

「ん、んんっ。ちょっと良いかな?」

「はい?」「ん? テオドールさん、どうしたんですか?」

「うん、その解呪の材料なんだけどね……その本に載ってるのは完全版の解呪の魔道具の方の材料なんだ。それで……」


 テオドールが言うには、解呪の手段には二種類あるらしい。

 一つは呪いを完全に解除するための魔道具を使うもの。こちらは材料を手に入れるのが困難なものが多いため、費用が高額になるのが難点だ。その代わりに呪いは完全に取り除かれるため、それ以降呪いに苦しめられる事は無い。

 もう一つは呪いの解呪薬であり、こちらは魔道具の簡易版である。魔道具の材料に比べて材料も手に入りやすく、費用も安く抑える事が出来る。代わりに、効果はあくまでも簡易版なので、呪いの完全解除は出来ない。呪いの効果を和らげたり、一時的に解呪する事が出来る程度だ。永続効果は無いので、薬の効果が切れれば呪いは再発する。


「それで、こちらの本に載っているのがその解呪薬の方。私的には一時的にしか効果が無いのに『解呪薬』と呼ぶのには不満があるのだけれどね」


 そう言いながら最初に見せた本とは別の本を掲げる。眉間にしわを寄せたテオドールの感想などはどうでも良いが、本の内容には興味がある。

 首を伸ばして本を覗き込もうとするブサに気付くと、持っていた本をテーブルの上に置き、中身がブサに見えやすいようにしてから話を続ける。


「ちなみに、こちらの解呪薬の方なら材料はロラン君達でも何とかなるね。それでも、一から手に入れるとしたらかなり大変だろうけれど……」

「そちらも見せて頂いても?」

「もちろんだとも。この本はロラン君達も読めるだろうからね、このまま読むと良いよ」


 もう一冊の方の本を読みたいと言ったアンリに牽制を返すテオドール。明らかにわざと(・・・)である。

 先程、アンリがブサを膝に乗せていたのが気に入らないようだ。子供か、良い年したおっさんのくせに。

 それに気付いたアンリもテオドールを睨む。どちらも子供か。


「「「おい、コラ(ぁ)」」」

「ぎなっ!(流石に二度目は拒否るからな!)」

「む……」「ゴホン、失礼しました」

「テオドールさんも、大人気無い真似は止めて下さいよ。それに、後でギルドにも行かなければいけないんですってば……」

「うぅむ……重ね重ねすまないね。ブサ君はとても愛らしいからね、ついつい構いたくなってしまうんだよ」

「「「「!!?」」」」


 驚愕の一言である。

 ブサ可愛いというジャンルはあるが、ブサの顔はまさにそれであった。だが、テオドールの『愛らしい』は本気で言っている。テオドールからしたら、もしかしたら虎も可愛い猫扱いなのかもしれない。

 そしてさり気なく頷いているアンリは何なのか。中身を知って、目が覚めたんじゃなかったのか? 実はこの男にも解呪が必要なのではないだろうか。


「ま、まぁ、それはおいといて……解呪薬には何が必要なんだ?」

「ワイバーンの血液、マンドレイクの雄型、魔石とレスタ草の花、ケプロンの角の粉、バステ虫の卵に「ふしゃ――――!!(人様に何飲ませる気だ、てめぇらぁぁぁぁ!!)」ん、ブサ君? どうかしたのかい?」

「ぎなぅっ! ぐにゃにゃ、ぎしゃぁぁぁぁぁ!!(どうしたじゃねぇわ、ボケェっ! 花はまだ良いとして、血だの、虫の卵だの……んなもん飲めるかぁぁぁぁぁぁ!!)」

「……何を言ってるのか、さっぱりだナ」

「まぁ、怒ってるってのは分かるけどなぁ」


 現代日本人にとってはキツイ材料だった。血も虫の卵も、基本的にはゲテモノの類だからだ。地域によっては虫を食べる事もあるし、国によってはご馳走だったりもするが、自分で食べるのは全力で遠慮したかった。

 もっとも、日常生活でも虫が材料となってるものはあるのだが。有名なのは着色料に使われる『コチニール』だ。赤色着色料で、食品から化粧品まで幅広く使われているが、あれの材料が虫というのは有名な話である。


 ちなみにマンドレイクは、地球産ファンタジーでもお約束のアレだ。いわゆる『マンドラゴラ』とも呼ばれるもので、引き抜いた時の叫び声を聞くと死んでしまう、と言われている。が、実際は仮死状態になるだけであって死ぬ事は無い。ただ、マンドレイクの生息地は魔獣の生息域なので、そんなところで仮死状態になったら「私を食べて」と言っているようなものだ。

 マンドレイクは殆どが雄型で、雌型は稀にしか見つからない。ただ、その雄型も手に入れるには危険を冒す必要があるのだが。


「こんな時こそ文字表使えば良いんじゃねえか?」

「それもそうですね」


 がさがさと荷物入れを探り、ギルドで使った文字表を取り出す。

 それをブサの目の前に押しやると荒ぶっていたのが少し落ち着いたようだ。すかさずブサに話し掛ける。


「言いたい事があるなら、これを使ってくれ」

「……ぎな(……了解)」


 ふてくされたように尻尾を荒々しく、ベシーン、ベシーンと叩き付けながら文字表に向かう。そんなブサの様子を興味津々にテオドールが覗き込む。その表情は非常に楽しそうだ。


『なに のませようと してやがる』


「何って……解呪薬だろうが」


『へんな ざいりょう いれてんじゃねえよ』


「変な材料って……別に変なもんは何も入ってねえよな?」

「多少希少性の高い素材はありますが、特に変な物はありませんよ」

「てめぇに飲ませた回復薬も似たような材料(もの)使ってるぜぇ?」


(……は?)


 初耳だった。

 ブサは回復薬を飲んだ事すら知らない。それもその筈、回復薬を飲んだ時には意識を失っていたし、飲んだ後も再び意識を失ったのだから。

 ちなみに、回復薬のあのおぞましい程の味は主にバステ虫の卵から来ている。この卵に薬の効果を安定させ、品質を保つ効果があるのだが、味がああ(・・)なる、という訳で。解呪薬の味も確定したような物だった。

 なお、味の改善は昔から研究されているが失敗続きで、今では調薬師の永遠の研究テーマである。

 そんな感じの事をロラン達に説明されて、自分が気付かない内に回復薬を飲んでいた事を知った。

 そしてこの瞬間に改めて判明した事。ブサはすでに虫の卵飲んでいたという事実であった。合掌。


「げふっ、かはっ……おぇっ!!」

「……そこまでかね?」

「あ~……飲んだ瞬間は確かに地獄だが、あれから時間も経ってるしなぁ?」

「副作用は無いはずだゼ?」

「まぁ、ブサ君、これでも食べて気分を落ち着けなさい。ミルクも飲むと良いよ」


 そういって差し出されたのはテオドールお手製の焼き菓子である。いつの間にやら人肌に温められた(・・・・・・・・)ミルクも用意されていた。

 知りたくなかった事実が尾を引いているため、ヨロヨロとよろけながらも焼き菓子を頬張る。


「……っ!(……う、美味ぇ!!)」


 がつがつと差し出された分を一気に食い尽くし、皿に入れられたミルクも残さず飲み干す。

 全部食べ尽くして気分も良くなったのか、ユラユラと尻尾を揺らしながらご機嫌である。


「美味しかったかい? 私の手作りなんだが」


 ぼふうっ―――――――――!!


 物凄い勢いで吹き出した。口と目を全開にしながら、ハクハクと何かを訴えかけているようだ。


「……あー、ちっと気になったんですが、テオドールさん? この温められたミルクはどこから?」

「ん? ここ(・・)から、だが」


 そう言って指し示した先は自らの胸元であった。……どうやらガチの人肌であったようだ。


「……おぷっ」

「ブサ?」


 オロロロロロロ……


「「「「「ぎゃ――――!?」」」」」」

 植物や虫の固有名詞には、実在の薬の名前を採用させて頂きました。なお、薬の効果は一切関係ありません。


 ちなみに、今回使ったのは花粉症と逆流性食道炎の薬名。病院で処方される薬で、花粉症薬に現在進行形でお世話になっております。杉花粉滅べ。

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