どうやら、テオドールとの再開らしい
やっとギルドから出られました。
うっかりした瞬間に再び机にしがみ付いていたブサを何とか引き剥がし――エステル達とホールにいた男達は苦笑いで見ていた――ギルドを出たロラン達は、今度こそテオドールのところへ向かうのだった。
今度こそはと、意地でも剥がされまいとしたために仕方なく、仕方なく絞め落としたブサを連れて。
安定の白目だが、その姿が一般人に見られてヒソヒソされる事は無い。ロランが脱いだ上着の中に包まれているので、リュシアンに抱えられているためにリュシアンを見ても服を抱えているようにしか見えない。
ちなみに、アンリが抱える役として立候補していたのだが、あっさりロランに却下されていた。もう一人のアンリが騒動を起こす前に宣言した『接近禁止令』を発動したらしかった。一応、人前では近付けさせないようにするらしい。ギルドのホールでどさくさにまぎれて、しっかり触っていた気がしないでも無いが、直後の騒動で忘れられているだろう、きっと。
後からブサに文句を言われるのは間違いだろうから、今の内にテオドールの所へ行ってしまうべきだろう。ブサはテオドールに苦手意識を持っているので、流石にテオドールの前でまで文句を言う度胸は無い、筈だ。
それ故に、ブサの目が覚める前に出来る限りの早足で進んで行くのであった。何ゆえ早足なのかと言うと、以前に急ぎの用で町中を走っていたら強盗と間違われたためであった。
「ママー、あの人達変ー」
「シッ!! 見ちゃいけません!」
結局は走らなくても目立つのに変わり無いロラン達であった。
「……なぁ、アンリ。俺らの姿が一般人に見えるような魔法とかって無えのか?」
「そんな都合の良いものはありませんよ。仮にあったとしても、町中でそんな魔法使ったらそれこそ凶悪犯が姿を偽ってると思われて捕まりますよ」
「……そっか……」
相手は幼い子供なので文句を言うわけにもいかない。悪気のないセリフだからこそ、胸に来るものがあった。
しょぼくれて肩を落としたロラン達の後ろ姿は何とも哀れなものであった。
もっとも、肩を落としつつも足だけは競歩のような速度で歩き続けていたので、うっかり目撃してしまった人達が二度見していた。
先程のロラン達を『変』と称した子供が、キャッキャと笑って楽しそうにしていたのがせめてもの救いであった。
* * * * * * * * * *
「ハァ……ここまで来るだけなのに、何か凄え疲れたナ」
「同感だぜぇ……」「全くだ」
「愚痴を言っても始まりませんよ。すみません、私達はこちらのご店主からの依頼を受けて来たのですが……」
あの後も通りすがりの通行人に二度見される事多数、うっかり衛兵に不審者として呼び止められたが――呼び止めた衛兵の同行者がロラン達を見知っていた為、彼の取り成しのおかげで詰め所まで連行されずに済んだ――何とかテオドールの店まで辿り付く事が出来た。
道中で精神力を大きく削られる事になったが、町に入るとわりといつもの事である。思わず愚痴が零れるのも仕方ないだろう。
ドドドドドドド……
「ロラン様方ですね、お待ちしておりました。只今店主を呼んで参「待っていたよ!!」……店主が来たようです」
アンリが店員に声を掛けると店の奥から足音が響く。
話を聞いていたらしい店員が店主を呼びに行こうとするも、それより先に店主がスライディングをしながら現れた。
疲れた声で店主の到着を告げる店員の心労はいかばかりか。恐らく普段からこうなのだろう、遠い目をしているのが気の毒でならない。
せめてセリフを最後まで言わせてあげて欲しかった。
「さぁ、入りなさい。 ……ぬ? ブサ君は一緒じゃないのかね?」
テオドールに振り回される店員を哀れみを込めた目で見るロラン達に、好奇心を隠せない様子で奥に上がるように勧めるが、お目当ての猫の姿が無い事に訝しげな声を出す。
キョロキョロと周囲を見渡すも猫の姿はどこにも無い。それもその筈、ブサはロランの上着で簀巻きにされているのだから。
「あ~……ブサならココにいます。が、まずは中でお話ししましょう」
「む、それもそうだね。さぁ、中へ。お茶でも入れさせよう。ブサ君はミルクの方が良いのかな?」
「それではお邪魔します。ブサは……どうなんでしょうね? お任せします」
テオドールに促され店の奥に向かう。案内された部屋に通され、席に着く。
これまでにも、こうして何度か奥に通された事はあるが、毎回思う事があった。
「……使用人の仕事奪わないであげて下さいよ」
「む、分かってはいるのだが、つい、ね」
テオドールは王都でも有数の豪商だ。それ故に、店員とは別に多くの使用人がいる。使用人達の仕事には商談に訪れた商人の応対や、今回のようなテオドールが呼んだ客の接待も含まれている。
だが、何故かロラン達の場合は、毎回テオドール自らが案内をし、お茶を入れ、菓子の準備までしている。しかも、テオドール自ら入れるお茶がかなり美味い。専門店よりも美味いと思える程だ。
しかも、お菓子もテオドールの手作りである。今日はナッツとドライフルーツをふんだんに使った焼き菓子だ。店に戻ってからすぐに作ったのだろう。出来立てなので、まだ温かい。
ごつごつしい巨漢強面のおっさんの手作りなど、誰得であろうか。こちらもかなりの美味なのが悔しい。やけに女子力の高いおっさんである。
(……なんか、美味そうな匂いがする)
部屋に通されてからは簀巻きから開放されていたブサが匂いにつられて目を覚ます。ヒクヒクと動く鼻が妙にコミカルだ。
ソファの上でもぞもぞと起き上がるも、まだ意識がぼーっとしているのか、ユラユラと頭が揺れていた。
そんな様子をホッコリしながら見守るテオドールとアンリ。さり気なくロラン達もお茶を飲みながら横目でブサの様子を窺う。
寝ぼけている間はただの猫にしか見えない。起きている間の女性への変態思考は別にして。普通の猫ならばロラン達も大歓迎だ。ぶちゃ猫も大好物である。
実はロラン達は全員、宿の裏手に住み着いている野良猫を人目に付かぬように愛でている。こっそり撫でたり、膝に乗せたり、近付こうとして全力で逃げられたり。
最後が誰かは言わずとも分かるだろう。
何故人目に付かぬようにしているのか?
強面の男が宿の裏手でごそごそやっているのを想像して貰いたい。どう見ても火付けか、強盗にしか見えないからだ。残念な事に普通に歩いているだけでも、盗賊と間違われるのはしょっちゅうだったので、人目に付かないようにしている。
だが、彼らは気付いていない。人目を忍んでこそこそとしていると、万が一にも誰かに見られてしまった場合には通報待ったなしである事を。
もっとも、全員気配察知は並みの斥候以上に出来るので、余程の手練で無い限り近付いて気付かない事は無い。気配察知を覚えた理由が『誰にもはばかる事無く犬猫をモフりたい』というのは、何とも情けない理由だが。
真面目に斥候として気配察知を鍛えた人達に謝って貰いたいものだ。
「やぁ、ブサ君。おはよう、また会ったね」
(ひぃぃぃぃ! 出たぁぁぁぁぁぁぁ!?)
寝起きドッキリである。いや、違った。
ブサにとってはそれほど変わりは無いだろうが。目が覚めたら自分の顔の前に物凄い強面の男が居るのだから、ドッキリどころかホラーだ。
ぱたり。
仰向けに倒れるのも無理は無い。目覚めた直後ではあるが、白目を剥いて再び夢の世界に旅立つブサだったが、
「起きてくれないかな? せっかく君に良い話を用意して、待っていたんだからね」
「ぎにゃ?(良い話?)」
あっさりと起き上がった。全くもって現金な猫である。テオドールの話が気になるのか、尻尾もピーン! と高く立ち上がっていた。
「うん、ブサ君にはとっても大事な事だと思うよ。『呪い』に関する事だからね」
いきなり核心をつく話をぶっこんで来た。
万能なテオドールさん。料理上手。
ゴツゴツしい女子力高いおっさんなんて、本当に誰得なんでしょうね? 設定したの自分ですが。
明日は猫又公開日ですので、こちらはお休みです。猫又主もよろしくお願いします。




