どうやら、ハーレムの一人は目が覚めたらしい
ハーレムパーティーの一人とお話しタイム。
セリアの話を聞いてセヴランが足早に立ち去った後、室内には微妙な空気が流れていた。
それもそのはず、ここにいるのは被害者&保護者と、加害者だからだ。もっとも、外見的にはロラン達が加害者にしか見えないが。
チラチラと落ち着き無くロラン達を見てくるセリアに、アンリが声を掛ける。
「……どうにも間が持ちませんね。とりあえず、私達の自己紹介でもしておきましょうか。私達は貴女の事を聞きましたが、貴女は私達の名前も知らないでしょう?」
アンリがそう言うと、一瞬ビクッと身を強張らせながらもセリアが首肯する。
それにしても、一瞬怯えた表情を見せたのは何故なのか。顔か? 極悪面が原因なのか?? 大変納得である。
そう言わんばかりに訳知り顔で頷くブサを見て、リュシアンがブサの尻尾をぎゅっと握る。その瞬間ブサの全身の毛が爆発する。シャーシャーと威嚇するも、リュシアンはシレッと知らん顔だ。
それにしても、毛の爆発した状態のブサは猫には全く見えない。元々モッサリとしたモップのような毛の持ち主だが、今のブサは完全に毛の塊にしか見えない。
そんな毛の塊と化したブサを見て、気分の荒みかけていたアンリが気を持ち直していた。むしろ爆発した毛に指を埋めて若干幸せそうだ。ついでに指先で時折ワシャワシャと毛をかき混ぜている。
ロランとサミュエルの二人は顔を見合わせて呆れ顔だ。
そんなロラン達の様子を見て、セリアの緊張も少し解れたようだった。ブサは素だが、リュシアンはわざとだ。ついでに、それに乗ったアンリがこれ幸いとブサをいじり始めたのだが、途中からは本気で楽しんでいた。
「えっと、はい、あの、お願いします」
「おう、そんじゃまずは俺からだな。このパーティーのリーダーをしているロランだ。嬢ちゃんとは同じ弓使いだな」
「んじゃ、次は俺ナ。俺の名前はリュシアン、あ~……使ってる武器も言った方が良いのカ? まぁ、一応剣を使ってるナ」
「それでは、次は私が「なら、次は俺だなぁ。「な……っ!」サミュエルっつぅんだが、一応よろしく言っとくぜぇ。剣を使うが、どっちかってぇと短剣の方が得意なんだよなぁ。半分斥候みてぇなもんかぁ?」……まぁ、いいです」
アンリが自己紹介をしようとしたがサミュエルに遮られていた。文句を言おうとしたが諦めたようである。場を取り繕うように一度咳払いをすると、改めて自己紹介をし始めた。
「このパーティーの副リーダーをしています、アンリと言います「え!?」何か、問題でも?」「あ、いえ……」
どうやらアンリを最後にしたのはわざとらしい。
考えていた通りのセリアの反応に、アンリ以外の面々は非常に楽しそうだ。サミュエルとリュシアンはハイタッチをしているが、アンリの形相が凄い事になっているので、少し横を見た方が良いのではないだろうか。ロランは自分は関係ありませんよ、とばかりに笑っていた顔を真顔に戻して知らん顔をしている。
思わず、『アンリ』という非常に聞き覚えのある名前に反応して、アンリがロラン達に笑われる原因を作ってしまったセリアは気まずそうだ。
(セリアちゃんの気持ち分かるわ~。けどあのバカは死ねば良いと思う)
ブサはイケメンには辛辣だった。いきなり暴力を振るわれた身としては当然かもしれないが。いや、単にハーレム男を僻んでいるだけである。
「……はぁ、改めて自己紹介をさせて頂きますね。このパーティーの副リーダーをしております、アンリと申します。私としても、貴女のお知り合いの方と同名というのは非常に、非常に不本意なのですがどうぞご納得頂けますよう、お願い致します」
「は、はい。あの、すみませんでした……」
アンリとしても心情的には複雑なのだ。
自分と同名の人間が芸能人であれば、何となく自慢したくなる事もあるだろう。だが、同名の人間が犯罪者であれば嫌な気分にもなるだろう。今のアンリがまさにその状態であった。セリアへの自己紹介中に『非常に』という言葉を重ね、二度目には強調していた事からも明らかだろう。大事な事なので二回言いました。
アンリのセリフに隠された本音に気付いてしまったセリアも災難である。思わず謝罪の言葉を返していた。もっとも、最初に反応してしまった事も謝罪に含まれているのだろうが。
しかし、そのせいで部屋の中には気まずい空気が漂う事になった。
「ぶにゃぅっ、ぎなぁ~ん(俺はブサと呼ばれてるんだ。よろしくな、セ~リアちゃん)」
そんな空気をものともせず、自己紹介をしたブサのおかげで微妙な空気は一気に掻き消えた。
せっかく自己紹介をしたブサだが、その言葉は一切セリアには伝わっていないのだが。もっとも伝わっていなかったのは幸いだっただろう。ブサがセリアの名前を呼ぶところを聞いたならば、思わず殴りたくなる程気持ち悪かったので。
それでも何となくブサの邪心を感じたのか、一瞬セリアは身震いしていた。直後に不思議そうな顔をしていたが。
「あ、あ~……、ついでにこいつはブサと言う。ギルドマスターからもさっき聞いただろうが、俺らが依頼の道中で拾った猫だな。性別は雄。物凄い女好きなんでな、近寄らん方が良いぞ」
「え、あ、はい? えっと、分かりました??」
ブサの自己紹介を改めてするついでに、ブサに対する注意事項も入れておくのはロランの優しさだ。ブサからしたら余計な事を! とロランを責めたい気持ちで一杯だろうが。現に口をぱっかーん、と開けて物凄い形相でロランを見ている。
良く分かっていないながらも大人しく頷くセリアは、本来素直な性格をしていたのだろう。もしかしたら騙されやすい性格でもあるかもしれないが。
今も素直にロランの言う事を聞いて座る位置をずらし、ブサから少し距離を取っているのだから。思わず見てしまったブサの表情にドン引きしたのも大きいが。
「……あの、少しお聞きしたい事があるのですけれども、良いでしょうか?」
「あん? ……まぁ、答えられる事ならな」
「ぐにゃぅ~ん(俺の事だったら何だって答えちゃうぜぇ、セリアちゃ~ん)」
「なんかきめぇ」
リュシアンに素早く首をキュッと絞められ、意識を飛ばすブサ。カクッと首を上に向けて白目を剥いていた。もはや、手慣れたものである。
首を絞められる瞬間も、その後の白目も見てしまったセリアは焦る。つい先程セヴランから犬猫は一般人と同じ扱いだから暴力を振るうな、と聞いたばかりなのだから。
どういう反応をしたら良いのか分からず、わたわたと腕を上げたり下げたりしていた。
そんなセリアに投げやりな感じでリュシアンが助け舟を出す。
「あ~……心配すんナ。こりゃ躾けだ、躾ケ。さっきのとは状況が違うからナ?」
「え……あ、いえ、その、はい?」
「まぁ、リュシアンの言う通りだな。驚かせて悪いが、放っておくとこいつは何やらかすか分からないんでな。怪我させるような事は無いんだが、女性にとっちゃぁ、不愉快だろうからな」
「えーっと……はい、分かりました……」
果たして、これは助け舟と言えたのだろうか。投げやりにも程がある。投げた槍がどこにも見つからない程に。
それと、本猫の知らない所で変態のように言われていたが、ロランの気遣いは正しい。
ちなみにあの場でリュシアンに絞め落とされていなければ、猫の体を最大限に利用して、セリアの膝に乗って体を擦り付けていた事だろう。中身を知っている人間からしたら、非常に殴りたくなる光景だろう。
なお、ブサの中身が人間である確証は無かったとは言え、すでにブサの被害に合っているエステルとレアには後程『お詫び』という名の差し入れをする予定である。ちなみに渡して貰うのはセヴランからだが。
ギルド員と特定の職員が親しくするのは、建前上よろしく無いからだ。実際は貢ぎに貢いでいるギルド員もいたりするが。貢いだ数日後にはとある職員の服が新しくなっていたり、昼食が豪華になっていたりするのだがそれは貢いだ本人には内緒である。
「……それにしても、ギルドマスターさんが戻って来るのが遅いですね? アンリ達がまたご迷惑掛けているんでしょうか……? その、迷惑を掛けていた側のあたしが言う事じゃありませんけど……」
「んー、確かにすぐ戻るって言ったわりにゃあ遅いな」
「セリアさんの前で言うのも何ですが、今回の件に関してはギルドだけでは治めるのは無理でしょう。もうしばらく戻って来るのは無理じゃないでしょうか」
「……さっきの事ですけれども、今更ですけど、あたし達、どうなるんでしょうか……」
門前とギルドでの威勢の良さが嘘のように、しおらしく不安そうな様子で呟いていた。
セリアは正気に戻れば、普通にまともな性格です。パーティーに加わっている時はある種の洗脳状態。
他の人達は手遅れです。
全員が美少年、美少女の集まりだけに酷さが際立ちます。
正気に戻ったセリアですが、無罪放免にはなりません。後にきっちり罰は受けます。




