どうやら、再び揉め事に巻き込まれるらしい
「いつまで彼女を無理やり付きまとっているつもりだ! 彼女がこんなにも迷惑がっているのに気付かないのか!? それとも、気付いていながら無視して無理やり付きまとっているのか!?」
突然の、しかも言い掛かり以外の何物でもないセリフに、ギルドに居た面々が唖然としている間にも男は勝手にヒートアップして行く。
ロラン達に『こんなにも』と言っているが、この男が王都ギルドに来たのは今日が初めてだ。来たばかりで何が分かるのだろうか。
周囲の騒音に、意識を飛ばしていたブサも意識を取り戻していた。
(……なんだよ、さっきからうるせぇ……ってあのバカ、どっかで、って。あぁ、門前のバカか)
さすがにアレは覚えていたらしい。また絡まれてるロラン達はご苦労な事だと、人事のように眺めていた。
視線に気付いたリュシアンに睨まれてサッと目を逸らす。また意識を落とされるのはごめんだ。
「どうせギルドに登録したのも、何か卑怯な手を使ったんだろう! そうでもしなければ貴様らのような盗賊風情がギルドにいられるはずも無いのだからな! そう大きな顔をしていられるのも今の内だ。このオレがいるからにはこの王都で悪辣な真似はさせないぞ! この卑劣な盗賊どもが!!」
その男の中では、とうとうロラン達は盗賊認定されてしまっているらしい。
衛兵に連れられて行った先で、しっかりお説教されているはずだが、門前での勘違いは解けていないようだ。というよりも、自分が思い込んだ事を訂正する気が無いのだろう。時々居るのだ、この手の人物は。
「本当に最低な人達ですね。受付の方々、危ないですから早くこちらへ!」
「そこから動かないでよっ! 一歩でも動けばこのまま射抜くからねっ!」
「ふんっ、本当に人間なんて下衆しかいないのね。最低なやつばっかり! あぁ、アンリだけは別だけどね……っ」
「…………ハッ」
「ギルドの連中も大した事ないニャ。アンリがわざわざ此処に来ていなかったら、この王都も悪者ばっかりになっちゃうのニャ!」
ちなみに、女達の口から『アンリ』という聞き覚えのある名前が出た瞬間だけ、ギルド内の視線がもう一人の『アンリ』の方へ集中した。が、すぐ逸らされる。そちらからとんでもない怒気を感じたが為に。
流石にコレと比べられるのは嫌なのだろう。誰だって嫌だ。
勝手な事を捲し立てるハーレム野郎に追従して、やはり勝手な事を抜かす女達。
しかも一人に至っては、この広くは無いギルドの室内で、弓に矢をつがえている。他の女達もそれぞれに臨戦態勢になっているようだ。
ギルドの中に緊張が走る。
そして、彼女達の言葉を耳にした男達の額には青筋が浮かんでいた。何しろ『自分達が』大した事が無いと言われているのだから。
それと同時に受付の女性達の額にも。
騒いでいる方は全く気付いていないのだろうが、彼等の主張は『ギルドそのものを批判している』のだ。
ロラン達が不正をして登録したのだという己の空想を声高に主張し、それを許すギルドなのだと言っている。ロラン達が不正をしたという証拠も何も無いというのに。実際に悪事をしていないのだから、証拠が出て来るはずも無いが。出て来たらビックリだ。
彼等は自分達が何を言っているのか、果たして理解しているのだろうか?
理解していないからこその、この軽はずみな発言なのだろうが。何しろ、その批判対象のギルドに、自分達もしっかり在籍しているのだから。
この時点で、既に自分達以外の全員を敵に回していた。
「さぁ、そこの受付の女の人達! 早くオレの後ろへ! 貴様ら……か弱い女性を脅すなど、恥という物を知らないのか!?」
いつの間に、ロラン達はエステル達を脅しているという事になったのか。本人達もビックリである。呼ばれたエステル(達)もビックリだ。
「え、嫌です」
素で拒否った。
「貴様ら……! どこまで卑劣なんだ!!」
何やら彼の中では更なる極悪非道なストーリーが出来上がっているようだが、全くの誤解だ。あくまでも彼等は善良()なギルド員である。
顔が怖いのは自覚している。それ故に騒ぎを起こす事もある。それでも、自ら望んで騒ぎを起こした事は無かった。むしろ、騒ぎは出来るだけ避けたい派だ。
「ぎな(あいつらキ◯◯イか)」
その一言はギルドに無駄に響いた。
これだけ彼等が騒いでいたにも関わらず、何故かその瞬間だけは静まり返っていたのだ。それ故に、ブサはギルド内に居た全員から視線を集める事になってしまった。当然の如く、騒いでいたその男からも。
「……なんだ、その薄汚い獣は」
先程までの大声が嘘のように、低く静かな声で言う。
ダンダンダンッ! ガヅッ!!
「この薄汚い獣を彼女達にけしかけて怪我でもさせるつもりかっ!」
「ぎにゃぁっ!!?(痛えっ!!?)」
大股に大きな足音を立てて近付いて来たかと思うと、手にしていた剣でブサを薙ぎ払う。
机から床に叩きつけられ、ブサは思わず悲鳴を上げていた。突然の暴挙に、受付嬢達からも悲鳴が上がる。
この時、男の剣が抜かれていなかったのは幸いだった。もしも鞘から抜かれていたのだとしたら、大怪我では済まなかっただろう。
実際に床に叩きつけられはしたものの、怪我自体はしなくて済んだ。
「ブサっ!? ……てめぇっ!」
「やっと本性を出したか、卑劣な盗賊ども!! 大人しくこのオレに……っ」
ぶちっ!!
何処かで何かが切れた音がした。
「あ、なぁ、ちょっと落ち着こうゼ? 多分ブサも大した事無いだろうし……ナ?」
「何を言ってるんですか? 私の目の前でこんな暴挙、許せるはずないじゃありませんか。ねぇ?」
「いやいや、ちょっ、待てぇっ! ちょ、おいっ、落ち着けってぇのぉ!」
「私は至って冷静ですよ。……ちょっと行って来ますね」
不気味な程に落ち着いた様子を見せながら、今もなお喚きたてる男の元へ向かう。
「「エステル!!」」
ガッ!
「この、ギルド内で、一体、何を、しているんでしょうか、ねぇ? アンリさん、でしたか?」
一言一言を区切るように、その男にはっきりと聞こえるように言う。
羅刹光臨の瞬間だった。
「受付の方……? 何を言ってるんですか? オレは貴女を助けるために「誰がそんな事を頼みましたか?」……え?」
「職員の誰かが、貴方に助けを求めたとでも言うのですか?」
「え、いや、でも……困ってたでしょう? そこの盗賊どもに脅されて」
「貴方程度に、助けを呼ぶようなギルド職員がいるとでも?」
「は?」
「貴方程度に、助けを呼ぶようなギルド職員がいるとでも? と聞いたのですが、聞こえませんでしたか?」
エステルの主張に各々頷く受付嬢達。受付のすぐ近くで事務をしていた男性職員達も、様子見の為か姿を見せていた。
少し考えてみて欲しい。ギルドに登録している者達は揃いも揃って腕力自慢であったり、強面だったり、大体が荒くれ揃いの男達なのだ。そんな彼らを相手にする彼女達が、非力であるだろうか? あり得ないだろう。
そもそも、脅されている云々からして男の勘違いなのだが。そんな事実は全く無い。
そもそも、ロランやアンリ達を相手に平然と相手を出来るエステルだ。
レアや他の受付嬢達とて、決してロラン達を恐れてはいないのだ。ただ、好みに合わないから顔を合わせたくないだけで。
だからこそ、受付嬢達にはそれぞれファンが居つつも、無理やり口説いたりする男は居ないのだ。登録したての新入りがやらかす事はあるが、すぐに躾けられて大人しくなる。今ギルドにいる面々は全てそうやって躾けられた男達だ。
躾けるのは受付嬢自らによってだったり、ファンの手によってだったりその時々で違うが。
「ブサ、大丈夫ですか?」
「ぐにゃぅ……(いってぇ……)」
「……ふぅ。とりあえず、何処にも怪我はしてないみたいだな。エステル、ブサに怪我はねぇぞ」
ハーレム集団をあっさりとエステルに任せたアンリとロランは、ブサの様子を見る事を優先させたらしい。
女性にあんなのの相手を押し付けて良いのだろうか。いや、これも彼らがエステルを信頼しているからなのだ。それと言うのも……
「私達職員に、簡単に組み伏せられてしまう程度の実力しか持っていない人達に?」
職員達は猛者ばかりである。というよりも、表に出る可能性のある面々には実力者しか選ばれないのだ。荒事に巻き込まれる可能性もあるが故に。
逆に、本当に裏方のみでしか働いていない職員達は、そこそこ程度の実力しか持っていなかったりするのだが。それでも自分の身を守る程度の事は出来る。
気付けば男に侍る女達は、職員達の手によって全員床に組み伏せられていた。
ロラン達を盗賊だ! と声高に叫んでいた青年もまた、エステルに喉元にナイフを突き付けられていた。
ここからしばらくハーレムふるぼっこタイムです。




