どうやら、所詮世の中は金らしい
教会のお仕事は解呪や治療、説法などです。収入は大事です。
「ま、そういうこっタ」
肩をすくめてブサの呟きに同意するように言い放ったのはリュシアン。ブサの言葉を理解したかのように思えるが、何の事はない。単にタイミングが良かっただけである。
『ちなみに ねだんは どのくらいちがうんだ?』
ブサの素朴だがもっともな疑問にふむ、と軽く考え込むアンリ。
考えをまとめたアンリが口を開くより早く、これまでずっと沈黙していたサミュエルが口を開く。
「それなら大体、教会に金払うのと裏店使うのと同じ位だなぁ」
「お、サミュエルやっと復活したのか」
「うるせぇ。放っとけぇ……」
まだ若干元気が無いようだが、それも仕方ないのだろう。だが、復活して何よりだ。
しかし、教会で頼むのと自分で用意するのとでは掛かる金額が同じ位と言うのも不思議なものだが。思わずブサの首ごと体が傾く。
中身がおっさんでも見た目は猫である為に、行動は妙に愛嬌がある。例え外見がぶちゃ猫でも。
「なんのこたぁねえ。物の質と成功率の差ってやつだなぁ。教会で頼むなら、ある程度の金額を出せばほぼ確実に呪いは解けるらしいがよぉ。その代わりに呪いの質によっちゃぁ、それこそ莫大な献金が必要になるらしいぜぇ? 一方、裏店使うのなら、物さえ見抜けりゃうまく行けば教会行くよりずっと安く済む事もあるんだがなぁ……」
そこで一度言葉を切ると、がりがりと頭を掻き毟る。
隣にいるリュシアンが嫌そうに距離を取ろうとするが、ロランに脇腹をどつかれて断念する。嫌そうな顔を止める事は無かったが。
「ん、まぁ、裏店なんでなぁ。呪いを解くための道具だ、なんて売り文句で『呪う為の道具』を売ってる事もあったりしてよぉ? 下手すりゃそのままおっ死んじまわぁ」
その言葉にブサの毛がブワッ! と逆立つ。無理も無いだろう。
『呪いを解くための道具』を手に入れたつもりで『呪う為の道具』を掴まされでもしたら。しかも、その道具は自分に使うものなのだ。当然、新たな呪いも自分に降りかかる事になるだろう。
『みぬく ほうほうは あるのか?』
当然の疑問にあっさりと
「てめぇで気を付けるしかねぇなぁ」
と言い放った。サミュエルの無責任な言葉に「ふしゃー!」と毛を逆立てて威嚇するも、どこ吹く風だ。そう威嚇されても、無理なものは無理なのだ。
威嚇されてもな、と肩をすくめる。
「なら、信頼の置ける相手から手に入れるしかなかろう」
そこまでの流れを眺めていたセヴランがそう言うと、先程の手紙をぴらぴらと揺らす。
「テオドールさんか!」
「その通り。後で顔を出すように、とも書いてあってな」
「ギルドマスター、先程話してくれても良かったのでは?」
「はっはっは、すまんね。一応、疑いは晴らしてからにしておきたかったのでね」
アンリの若干恨みの篭った言葉をさらっと流し、手に持った手紙を差し出す。それを受け取ったロランが一度中身を確認し……大きな溜め息を吐いた。
「ロラン?」
「読んでみたけど、マジでワイバーン退治の自慢がほとんどだったわ、これ……」
その場にいる全員に「あー……」という空気が流れる。背景にドヤ顔のテオドールが見えるようだ。セヴランも苦笑いだ。
「まぁ、あのおっさんらしいわナ」
「とりあえず、行くしかねぇだろぉ?」
「ぎにゃぁ~……(またあのおっさんのところ行くのかよ……)」
「……まぁ、何言ってるかは大体分かるけどな。自分の為だぞ? 我慢しろや」
「私と張り合う振りをしてブサの事は全部お見通しだった、というのが悔しいですね……」
「いや、奴のアレは素だぞ?」
「「「「えっ?」」」」「ぶなっ?(えっ?)」
「『素』だ」
どうやらそういう事らしい。
* * * * * * * * * *
「それでは、この件承りました。すぐに向かわせて頂きます」
「うむ、頑張れよ」
「では」
ドアを開け、部屋を出る前にロランがセヴランに挨拶をする。一応、最後も建前として通すらしい。その様子は秘書らしき男がしっかりと見ていた。
恐らく、何かあった時の為に『依頼を受けた』という事にしておくのだろう。
ギルドのルールでは、基本的には他人の受けた依頼には首を突っ込まないのが礼儀なのだが、中には全くそういうものを気にしない者もいる。また、そういう者ほどしつこい上に、他人の話を全く聞こうとしなかったりするのだ。
「あ、ロランさん。ギルドマスターとのお話しは終わりましたか?」
「あぁ、エステル。すぐに次に向かう事になったんでな。ブサが世話になった件については、また別の機会に礼をさせてもらうぜ。レアにもな」
「はい、気を付けて行って来て下さいね。お礼とかは気にしないで良いですよ」
「ぇ、いいえ、私は別に……っ、その……」
ギルドマスタールームから出て受付のある部屋へ戻ると、すぐにロラン達に気付いたエステルが声を掛けてくる。
それに軽く言葉を返しながらブサの方をチラリと見る。
ブサは再びの目の保養にデレデレだった。
さっきまでは強面に囲まれて命の危険すらあった状況なのだから、ある程度までは仕方ない……とは思うものの、余りにも目障りである。わざとらしい猫なで声が非常に鬱陶しい。猫なで声と言ってもだみ声なのだが。
「ぎにゃぁ~ん、ぶなぁ~ん(あぁ、エステルちゃぁ~ん、レアちゃぁ~ん。また抱っこしてくれないかなぁ~)」
非常に鬱陶しい。
キュッとリュシアンの手に力が入る。次の瞬間ブサが静かになった。静かになったブサを何気なく受付台に乗せる。この猫、地味に重いのだ。
意識がある時だったら手を離したりはしないが。どこに飛んで行くかは分かりきっているので。
「あら? ブサちゃんどうかしましたか?」
「さぁな? はしゃぎ疲れたんじゃねぇの??」
しれっとした顔ですっとぼけるロラン。事情を知る面々は意味ありげに視線を交わす。
その中にいるアンリの落ち着いた様子に、エステルが小声で話し掛けて来る。
「(あの、アンリさん。どうしたんですか? さっきとはだいぶ様子が……)」
そう思うのも当然だろう。先程までのアンリは明らかに異常だったのだから。それがいきなり賢者モード突入していれば、誰だって気に掛かるだろう。
「ん、まぁ、色々とな。こっちにも事情があるんでな……あまり聞かないでくれるとありがたい」
「先程までは色々とご迷惑をお掛けしたようで、申し訳ありませんでした。以降は同じ事が無いように気を付けますので……」
「あ、いえいえ。大丈夫ですよ。正気に戻られたようで何よりです、はいっ!」
アンリの謝罪に焦ったか、サラッと自然に毒を吐いているエステル。本人にはその自覚は全く無いのだが。『正気に戻る』とは言いえて妙である。
若干アンリの頬が引き攣るも言い返す事は無い。冷静になれば、当時の自分がいかに平常心を無くしていたか。その位の自覚はあるのだ。
自分が執着していた『猫』が実は『おっさん』だったという真実は、節穴通り越してウロとなっていたアンリの目を覚ますには十分な衝撃であった。黒歴史確定である。
「……っく、く……。ん、ゴホン。じゃぁ、俺らは次の場所に向かうんでな」
「あ、はい! お引止めしてしまって申し訳ありませんでした。それでは行ってらっしゃいませ」
「おう、じゃぁ「おい! そこのお前ら!! 彼女に何をしているっ!」……あ?」
各自笑いを堪えつつも、ロランがエステルに別れの挨拶を告げ、その場を後にしようとしていたら妙な邪魔が入った。敵意剥き出しの声にロラン達の言葉も尖る。
未だにギルドに屯していた男達も、闖入者に一斉に視線を向けた。
彼らの訝しげな視線を一斉に受けて、ギルド入り口に仁王立ちしながら立っていたのは、いつか見た男達だった。
また出た。
明日は猫又公開日なので、こちらはお休みです。
次話公開は3月3日12時となります。




