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どうやら、人間には戻る方法があるらしい

 もうそろそろお話し合い終了です。

 重ねての問い掛けには腕組みをして悩み顔だ。


「そちらに関しては何とも言えんな。そもそも資料が存在するかも分からん。少なくとも、この王都ギルドには無いな。かと言って何処ならあるか、とも答えられん」


 ギルドマスターらしく、自分の担当するギルドの所有資料に関しては把握しているようだ。王都ならでこそ、他のギルドよりも所有している資料の数は多い。それでも残念な事に『異世界』に関しての資料までは無かった。


「可能性を考えるなら王城書庫か、国の研究機関の持つ特別書庫位だろうが……どちらも特殊な許可が無い限り、立ち入る事は不可能だ」

「ギルドマスターの権限でも立ち入り不可なのですか?」

「不可能だな」


 アンリの問い掛けに対し、あっさりと答えが返って来る。考え込む事すらなく即答だった。


「随分と弱気じゃねえですカ」

「無理を言うな。例えワシが立ち入り可能だったとしても、だ。王城書庫など閲覧申請を出してから軽く数ヶ月は待たされるだろうし、待ったからとて許可が出るものでも無い。立ち入り『可能』だとしても、必ず『立ち入れる』と決まった訳では無いからな。もし入れたとしても、一般閲覧室までが限界だろうよ。もし『異世界』に関しての資料があるとするならば、恐らくは『禁書庫』だろうからな……」

「禁書庫か……」「それは、厳しいですね……」「だナ……」


 セヴランの説明に、一斉に納得したように諦めた雰囲気が漂う。

 が、ブサとしてはたまったものではない。自身が地球に帰れるかの重要な事なのだから。

「入れないんだって」「それじゃぁ、しょうがないよね」で終わっては困るのだ。


(ちょ、おいおい!? そんなあっさり諦めてんじゃねえよっ!)


「ぎなぁっ!!(おいっ!)」

「ん、あぁ、そうだな。お前は禁書庫がどういうものかは知らないか。まぁ、王様が見る事を禁じた本が集められてる所だ」

「ロラン、それでは説明が全く足りていませんよ。見る事を禁じた、すなわち『禁書』ですが、これはいくつかに分けられます。まずは『危険だから』禁じられたもの。例えば大勢を生贄にしないと発動しないような魔法や、威力の高すぎる魔法など危険度の高い魔法が記されたものですね。次いで『国にとって不都合だから』禁じられたもの。……王国も長く続けば不都合な事も出て来るんですよ。それらは表には出せないものの、資料としてであったり、戒めとしてだったりして残されているんです」


 ここまで一気に言うと一息吐く。勿体ぶっているように思われさっさと続きを話して欲しいものの、ブサとしては待つしか無い。それでも尻尾は不満げに、机をべっしんべっしんと叩いていたが。

 なお、その様子をアンリがガン見しているのはお約束である。中身はおっさんだが良いのか。どうやらある程度は割り切っているようだ。


「最後に『何が起こるか分からない』から禁じられたもの。これも多くは遺跡などで発見された文書から解析されたものになるのですが、古いものですからね。所々で歯抜けになってしまっていたりで、解析不足になってしまったものもあるんです。恐らくは呪文だとは思うけれど、発動後何が起こるか分からない。こういったものも禁書として収められたりしています。解読は出来ているけど、下手に手を出すと危険なもの。……異世界についての資料があるなら恐らくは、この最後の分類として禁書扱いされるかと」


 一気にそう説明されても、ブサとしては困惑するしかない。中身のおっさんは極普通なのだ。一度に説明されても理解するまでに時間が掛かる。下手をすると理解するまでの間に忘れていく事だってあるのだ。

 だが今回の件に関しては、何とか記憶に留める事が出来たようだ。理解するには多少の時間を必要としたが。


(……結局、異世界についての資料は読めないって事か?)


 考え込むブサをじっと見つめるアンリ。ちなみに下心は無い。純粋に心配しているからだ。


「……何か聞きたい事がありますか?」


 その言葉に顔を上げる。正直『聞きたい事』などいくらでもある。それに対して、望む答えが返って来るかは別として。


『おれは かえれるのか?』


 結局のところ、一番聞きたい質問はこれだった。むしろ、それ以外には現状では聞けなかった。

 帰れる事が確定した後ならば、好奇心の赴くままに聞きたい事などは山程あるのだが。


「正直に答えましょう。『分かりません』」


 問われたアンリが、真面目な顔で答えた言葉はそれだった。納得出来ずに反論しようと口を開こうとするも、手で制され大人しく聞く態勢に戻る。


「まずはどうやってこの世界に貴方が来たのか。これに関しては貴方自身が『分からない』と以前答えていましたよね? これが魔法であったり、遺跡内の罠とか、ある程度特定出来るならまだ良かった。それ(・・)を辿る事で元居た場所を特定する事も、簡単ではありませんけど一応は出来るのですから。けれど原因が『分からない』これが一番困るパターンです。言うなれば『精霊のいたずら』と言ったところでしょうか? これを再現するのはほぼ、不可能だと言われているんですよ」


 改めて説明されるもブサにはさっぱり理解不能である。

 そもそも自分達の居た世界には物語や、想像の中以外では『魔法』自体が存在していないのだから。

 説明された中で唯一聞きなれない『精霊のいたずら』というものが、自分達の世界で言う『神隠し』のようなものだと見当を付ける位は出来るが。


『せいれいの いたずら とは?』


「これはワシから説明しよう。実際にその被害者に会った事もあるのでな。『精霊のいたずら』とは『起こりえぬはずなのに、起こってしまう何か』だ。ブサ殿の世界ではどうか知らぬが、この世界においては殆どの事は魔法で片付けられるものが殆どなのだよ。だが、魔法では考えられぬような事が起こる事がごく稀にある。それらを『精霊のいたずら』と称している。……ワシが会ったのは、行方不明になった八歳の少年だった。行方不明になっていた期間は三日。三日後に発見された際には老人の姿だったがな」

「にゃ……?(は……?)」

「うむ。普通は信じられぬだろうな。だが、その老人は間違いなく、少年自身だったのだよ。そして、今の魔法技術では時を操る事は出来ぬ。呪いでも無かった。それは確認したから間違いない。未だに、原因は不明のままだが……な」


 想像以上の言葉だった。


『そのこどもは もどれたのか?』


 その問い掛けは二つの問いを含んでいた。『元の姿に』戻れたのか、そして『家族の元に』戻れたのか。あえて言わずとも察したセヴランが言う。


「家族の元には戻れた」


 家族の元『には』戻れた、という事は外見に関しては戻れなかったのだろう。

 しかし、ブサの場合は猫の姿は『呪い』によるものだという可能性がある。それならば『人に戻る』事は可能なのか?


「ブサ殿の場合に関しては、外見は間違いなく魔法的なものが働いているのは間違いないだろう。そうだな、アンリ?」

「はい。それに関しては間違いないでしょう。そちらは解呪用の道具が揃えば、人の姿には戻れるとは思いますが……」


『なにかあるのか?』


「解呪用の道具が、ですね。手に入れるのが非常に難しいのですよ。基本的には呪い関連は教会の領分ですから、個人で簡単に解かれてしまっては教会の権威を示す事も出来ませんし、献金(・・)にも関わってきますからね」


 アンリの話によると、解呪用の道具はそもそも市場に出回る事がほぼ無いらしい。

 それと言うのも、その手の道具は教会が手を回して市場に回さないようにしているわけで……。

 もし、個人で手に入れようとするのであれば、裏商店などでとんでもない高額を払わない限り手に入らないのだと。


「ぎなぁ(所詮世の中金かよ)」

 明日は猫又公開日なので、こちらはお休みです。次話公開は3月1日の12時となります。

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