どうやら、尋問の時間らしい
タイトル通りですね。
ブサが文字を読めるかの実験は、ひとまず『読める』という結果で全員の認識を統一する。万が一偶然だったにしろ、それは次の質問で明らかになるはずだ。
その次の質問という段階でちょっと時間が掛かっていた。『本人の意思を確認する』というものなのだが、これに関して少々揉めていたのだ。質問のやり方がなかなか決まらないらしい。
「適当に選択肢いくつか作りゃぁ良いんじゃねぇですかぁ?」
「それだと選択肢外だった場合どうするのだね?」
「なら、選択肢外用として『その他』という選択肢を作るのはどうですかね?」
「それだと『その他』がどんな事を考えているのかが分からねぇでショ」
わちゃわちゃと騒ぎながら互いに言い合うギルドマスター含む男達。上から順にサミュエル、セヴラン、ロラン、リュシアンだ。
唯一言い合いに混じっていないアンリは、手持ちの紙にひたすら何かを書いていた。
しばらくして書き上がったのか、自分の書いたものを見直す。どうやら納得がいったらしく、一つ頷くと未だブサを抱き抱えたままのリュシアンに声を掛ける。
「リュシアン、ブサをテーブルの上に乗せてもらえますか? 手を離してて構いませんので。……ギルドマスター、許可を頂けますか?」
「ふむ? 何をするかは知らないが、まぁ良い。許可しよう」
「ありがとうございます。リュシアン」
ブサを下ろせと言うアンリだが、途中で勝手にはまずいと思ったか、セヴランに許可を取る。セヴランにも特に異存は無くあっさりと許された。
その会話を聞いてリュシアンが怪訝そうに問い返す。
「ア? 離せっつったってよ、万が一コイツが逃げたらどうすんダ?」
「問題ありませんよ。逃がしませんから」
「お、おぉ、りょうかイ……」
目がマジだった。
問い返したリュシアンは、即座に目を逸らすとブサをテーブルに乗せる。
さり気なく他の面々も目を逸らして、アンリに怯えてる風な様子を見せる。当然ブサも。そして何故かセヴランまでも。
何をビビっているというのか、ギルドマスターだろうに。
「ギルドマスターであっても、怖いものは怖いんです」とは、後にとある男が語ったかもしれない言葉だった。
リュシアンの腕から下ろされテーブルへと乗せられたブサだが、一切逃げようとする素振りを見せない。むしろピクリとも動かない。
チラとでも逃げようとした、と思われたら目の前の男に何をされるか分からないからだ。下手をすると、そのまま殺される可能性もある。ブサは小心者なのだ。
「それで? アンリよ、何を始める気だ?」
セヴランの言葉に先程書いていた紙を見せる。どうやら文字の一覧表のようだ。
「文字表を作ってみました。さっきのが偶然では無く、ブサが本当にセヴランさんの指示を読めていたのなら、これも大丈夫だと思います。時間は多少掛かるでしょうが、これを使えば会話は一応可能ではないでしょうか?」
先程アンリの作っていたものは、文字表だった。都合の良い事に、基本的な文字の流れは日本語と変わらない。ただし文字の形だけが全く違うものとなっていた。確かにこれなら会話は可能だろう。
やり方はコックリさんを彷彿とさせるが。妙なものを呼び寄せない事を願うばかりである。
(まさか、悪霊とか出て来ないだろうな……っ?)
ブサはビビりだった。
だが、ブサが心の中で怯えてる事など知るはずもないので、周りではどんどん話が進んで行く。
「なるほどな。ではそれを使うとしよう。彼に対する質問は、ワシがやらせて貰うが構わないな?」
一応疑問形は取っているものの、実質それは命令だった。拒否しても良い事は何も無い。無いどころか不利益な事にしかならないだろう。ロラン達は揃って頷く。
「お願いします」
「任された。では、始めようか」
そう言うと、セヴランの纏う雰囲気がガラリと変わる。それは先程、訓練所でロラン達から感じたものよりずっと強いものだった。
セヴランから発される威圧感にブサの体が勝手に震えだすが、ロラン達は何の反応もしない。ロラン達が耐えているのか、あるいはブサに対してだけ威圧がなされているのか。
ブサの後ろではアンリが再び、紙とペンを手に持っていた。
「まず、初めに言っておこう。こちらの問い掛ける質問に対して虚偽は許さない。一度でも虚偽の回答をすれば自分に後はない、と考えたまえ。理解したかね? ……それでは、始めよう」
セヴランの雰囲気に呑まれたブサは小刻みに頷くしかない。そして尋問は始まった。
「お前の名前は?」
「…………」
いきなり詰まった。
ちなみにこれは、ブサが質問を理解出来なかったとかでは無く、単純に分からなかったのだ。記憶がいくつか欠落している。ブサ自身も自覚していなかったが、様々な事が抜け落ちていた。
そうすると答える言葉は決まってくる。
『わからない』
「……自分の名前が分からないと?」
『そうだ』
「ならば性別は?」
『おとこ』
いくつか『わからない』という回答が続いたが、やがてこの質問に辿り着く。
「お前はどこから来た?」
『にほん』
「にほん? 知らねえな」「ロラン」
ブサの回答にロランが思わず突っ込む。アンリに窘められて大人しく引き下がったが。
「『にほん』とはどこにある?」
『しまぐに』
「どこの島だ?」
『わからない』
「どうやってこの大陸に来た?」
『わからない』
正面を向いているブサには分からないが、段々増え始める『わからない』に見ているロラン達も引き攣り顔だ。セヴランも眉間のシワが凄い事になって来ている。
ちなみに、セヴランと真正面で相対しているブサは恐怖のあまり腰が抜けそうになっていた。
(ヤクザに睨まれてる気分だ……超怖ぇ……)
そんな感想を述べている場合か。
そうこうしている内にも、尋問はひとまず終了となったようだ。
尋問していたセヴランはそうでも無いが、そばで見ていただけのロラン達はかなりの疲労が溜まっていた。
自分達にも色々と聞きたい事があるのに見ているだけ、と言うのはなかなかに疲れるものがある。聞きたい事をセヴランが上手く質問してくれればスッキリするのだが、そうではない為、物凄く気分がモダモダする。
一番疲れているのは、凶悪面に囲まれて精神をガリガリすり減らしていたブサだろうが。
「あまり色々は分かりませんでしたね……」
尋問中に記していたメモの内容を見ながら、不満そうに呟くアンリ。尋問の内容を抜かりなくメモしておいたようである。
この男、通常モードならば有能な男なのだ。たまに暴走するだけで。
もっとも、今後はそれも無いだろうが。中身おっさんな猫への執着はだいぶ落ち着いたようである。ロラン達も安心した事だろう。
「しっかし、異世界、ねぇ……?」
ソファーにぐったりと体を沈めながら独り言のように呟くサミュエル。
「まぁ、普通なら頭おかしいんじゃねえカ、って思うところだよナ」
同じくだらけるリュシアン。
「普通なら、な。けど、まぁ、目の前に人間の精神を持つ猫って実例があるだけに、完全な否定も出来ねえんだよな……」
「本来なら、彼の存在自体があり得ない事ですからね。私も今回の事が無ければそんな事考えもしませんでしょうし」
ロランにアンリ。
「ふぅむ、ワシとしては彼の言葉に『嘘』は無いと判断する。ワシらに言っていない事はあるとは思うがな」
最後にセヴラン。
ブサに対する尋問へのそれぞれの感想である。掛かった時間の割りには分かった事は多くはなかったが。
それでも一応はブサへの疑惑というか、『脅威になるか』という判断は『ならない』でケリがついたらしい。と、いうよりも。
(((((中身ただのおっさんだろ、コイツ)))))
という認識で終わった尋問だった。
冷静になれば、ちゃんと有能な人なのですよ。
やっと軌道修正出来ました。




