どうやら、色々バレバレらしい
シリアスはまだもう少し続きます。
「あ、ロランさん。皆さんも。お話は終わりましたか?」
訓練所から出たロラン達に話し掛けてきたのはエステルだった。そのままパタパタと足音を立てて近付いて来る。受付業務は良いのだろうか?
「ん、まぁ微妙なところだな。とりあえずアンリも起こさねえと、話が進まなそうな感じだ」
「起こして大丈夫でしょうかね……? あぁそういえば、おじ……ん、んんっ。ギルドマスターからの伝言を預かっておりまして『指名依頼があるのでギルドマスター室に来るように』との事です」
「おぅ、中で聞いたからな。アンリを起こしてから向かうさ」
「あら、既に聞いていましたか。それではよろしくお願い致します」
そう伝言を残すと、エステルは再びパタパタと受付に戻って行った。普段のブサであれば、そんなエステルの様子にデレデレとニヤついていたのだろうが、先程の会話が原因で今は周りを見る余裕も無かった。
それに気付きつつも敢えて無視しているロラン達は、アンリの元へ足を進める。
部屋の隅で足を止めると、アンリは未だに意識を失ったままだった。……あれからだいぶ時間も経っているのだが、どれだけのダメージを受けていたのだろうか? 肉体的と精神的の双方において。
まだ目を覚まさないアンリを見下ろし、リュシアンが声を掛ける。
「おイ、アンリ。とっとと起きやがレ」
声を掛けつつも足先が脇腹を軽く抉っている。大したダメージにはならないだろうが、扱いが随分と雑だ。だが、これは彼らにとっては日常だった。
野営中の見張りの交代時には、声を出すよりも直接叩き起こした方が早いのだから。そういう訳で、これは何ら不思議も無い普通の行動なのである。
「ぅっ……、……っく」
「よぉ、起きたかアンリ」
「ロラン? ……っ! ロラン! さっきの話は本当なんですか!? 私は……っ」
目を覚ました途端にまくし立てるアンリに、うんざりした様子を見せつつも押し留める三人。
「その話は後だ。とりあえず今はギルマスに呼ばれててな。これから行くところだ」
「ギルドマスターから? ……分かりました。すぐに向かいましょう。その点については後できちんと説明して頂きます」
ギルドマスターに呼ばれている、という言葉に気持ちを切り替えるとロラン達を促す。それを拒否する理由も無い為、三人はさっさと歩き出した。その後ろを若干遅れながらアンリが付いて来る。その目はじっとブサを見つめていた。
* * * * * * * * * *
「ギルドマスター。お呼びと伺い、ロランほか三名参りました」
ギルドの奥へ進み、ある部屋の前で止まるとそのドアをノックし、中にいる人間に聞こえるように声を掛ける。
先程の訓練所での話し方とはだいぶ違う。一応は取り繕っているようだ。
「入れ」
低い声が入室を促す。その言葉を聞いて一度ブサの様子を確認した後、部屋の中へ入って行く。
「適当に掛けたまえ」
「はい」
着席を促されて、それぞれがソファに座る。ブサはまだリュシアンの腕の中だ。
席に着いたロラン達にお茶を出すと、秘書らしき男は一礼してから部屋を退出して行く。どうやら部屋の外で待機するらしい。
恐らく、誰か人が近付かないか見張りを兼ねているのだろう。もしかしたら部屋から逃げ出そうとする者にも対応しているのかもしれないが。
「お前達はワシの事を知っているが、そちらの猫殿は知らぬだろうからな。最初に自己紹介をさせて頂こう。ワシはこの王都ギルドの長をしている、セヴランという。ロラン達とは長い付き合いになる。あぁ、そちらからの自己紹介は結構だ。どうせ話す事は不可能だろうしな」
目の前にいる男は王都のギルドマスターらしい。先程のロランの言葉もあり、薄々は気付いていたがやはりその通りだった。
もっとも今のブサは、自己紹介されたところでロクに頭に入っていないのだが。あれから震えっぱなしで鳴き声一つ出せない。頭の中で何かを考える余裕も無いようだ。
「さて、まどろっこしいのは苦手でね。早速本題と行かせて貰おうか」
全員がそれぞれお茶に口を付けた時点で早速とばかりに、セヴランが話を切り出した。
「まず、ワシがこの件を知っているのはテオドールから手紙を預かっていてな。ちなみにコレがその手紙だ」
そう言うと何処かで見た覚えのある封筒をピラピラとかざす。他でも無い、訓練所で見せられた物だった。
「テオドールさんからは何と?」
「ふむ、読むかね?」
「その方が早いのであれば」
普段ならばアンリが主体となって話を進めるのだが、今回はロランが主体となるらしい。ブサがすぐ隣に居るというのに、アンリは沈黙したままだ。これまでの様子を知っているだけに、その沈黙が恐ろしい。
「ならばワシから話した方が間違いなく早いだろうな。七割程度はワイバーンを狩った、という自慢だったからな」
「あのおっさん何やってんノ」
思わず突っ込みを入れるリュシアン。そんな突っ込みを入れてる場合では無いのだが。突っ込みを入れなかったアンリ以外の二人も呆れ顔だ。
アンリだけは表情を変える事無く、沈黙したままでいるが。
「それはさておき、要約するが構わないかね?」
「お任せします」
「ふむ、まぁ要するにだ。その猫の中身は恐らく人間だろう、というのがテオドールの見解だな」
その言葉に身を震わせるブサとアンリ。身を震わせた理由はそれぞれ異なるだろうが。
そんな一人と一匹の様子を横目で確認するサミュエル。ブサはともかく、アンリが暴走すると厄介故に。だが、今のところは安心して良さそうだ。聞こえないように小さく息を吐く。
サミュエルだけでなく、ロランとリュシアンの二人もその様子は窺っていたので何もなさそうな事に安心する。
「何故、テオドールさんはコレの中身が人間だと判断したのか。その理由についてはどのように?」
「まずは気配。次に、自分達の発言に対する反応が、あまりにも人間臭かったと。だが一番の理由は『勘』だそうだ」
「『勘』ねぇ……」
「お前達は何故気付いた?」
テオドールはかなり早い段階でブサの異質さに気付いていたようだった。最終的には『勘』で。この場合の勘は侮れない。実際にテオドールはこの『勘』で何度も助けられ、商人として一気に成長したのだから。
ギルド長から促されロランが口を開く。
「一番初めに違和感を感じたのは盗賊の襲撃時ですね。最初から俺達の言葉には反応していたが、あの時は異常なんてものじゃ無かった。暴走したテオドールさんを止めるよう、コレに言ってみたんですがね。まぁ……半分冗談みたいなものでしたが。けれど、コレは完璧に俺達の言葉を理解して、その通りに行動した。流石に変だと気付きますよ。その後も様子を見てたんですが、その内確信しました」
そう言ってチラッとアンリを見る。どうやら、アンリだけは本当に気付いていなかったらしい。
自分の行動が迂闊だったという事を、少しずつ動き始めた頭で漸く理解し始めたブサ。もっと普通の猫のように行動すべきだった、と後悔しても今更であった。
「……それで、この猫はどうするおつもりですか? ギルドマスター」
これまでずっと沈黙を保っていたアンリが口を開く。その平坦な口調にブサは顔面蒼白だった……毛皮で何も見えないが。
アンリの状態異常『暴走』が解除されました。




