どうやら、本格的にピンチらしい
完全なシリアスシーンです。この作品では初めてじゃないでしょうかね?
「ぎ、ぎなぁ〜?(な、何の事かな?)」
「いやいヤ、そこで返事するってのはあからさまに怪しいだロ。むしろワザとカ?」
「だよなぁ」
(な、何故……いつ、バレたっ!?)
バレたも何も、全く怪しまれていないなどと言う方が無理すぎる。あそこまでロラン達の会話に反応しておきながら『何故』も何もないのだが。
もっとも唯一アンリだけは、初めて会った自分から逃げないブサに浮かれていたので、本気で気付いていなかったが。普段だったら違和感にすぐ気付いていただろう。
それだけブサは分かりやすい態度だったのだ。
「ついでに言うと、てめぇが怪しいってのはついさっきアンリにも伝えてあるからな。そうしねぇと後々面倒な事になりそうだったんでな」
ロランとのお話の後アンリが気絶したのはそう言った理由もあったのだ。勿論、ボコボコにされたダメージも決して軽いものでは無かったが。
その辺りは散々ブサの件でかなり鬱憤が溜まっていたロランも、ちょうど良い機会とばかりにスッキリしておきたかったので。
「まぁ、相当なショックだったろうなぁ? せっかく初めて自分から逃げない『猫』に会えたっつーのに、その中身が得体の知れない『イキモノ』とあっちゃあ、なぁ?」
もはや完全にバレバレである。緊張し過ぎて肉球から噴き出す汗の量も凄くなってきていた。
この場から逃げ出したくても、猫の体でドアを開ける事は不可能だ。残念な事にチート的身体能力ある訳でも、魔法などが使える訳でもない、極普通の猫の体でしかないのだから。
ましてや、ガッチリと抱え込まれたリュシアンの腕からは逃れられそうにない。例え、腕から逃れられたとしても、他にまだ三人いるのだ。
「んで?」
ロランの低い声。
「てめぇ、一体何者だよ」
気付けばすぐ側のサミュエルも、いつの間にか小さなナイフを片手に持って立っていた。
(……ちょ、……っは?)
本格的な警戒態勢。三人の目は厳しかった。
ブサが普段見ている彼らの姿はグダグダしたものが多かったかもしれないが、あのテオドールから護衛を頼まれる程には信頼されているのだ。それが凡人であろうはずも無い。
むしろ、ブサの異常さに気付いていなかったアンリだけが、今回においては例外なのだろう。
もはや言葉も無い。三人がブサをただの猫として見ていないのは明白だった。ロラン達の警戒心で空間がビリビリと震えているような気さえしてくる。
しかし、事情を説明しようにも猫の体では話す事など出来よう筈も無い。説明したくても頭が回らないので何も浮かんでこない。
極度の緊張によって脳も体も硬直してしまっているのだ。
完全に『詰み』の状況だった。
***
「ふむ、その辺りにしておいてあげた方が良いのではないかな。それ以上は聞きたい事も聞けなくなってしまうかもしれんからなぁ」
(……っ!?)
本格的にパニックになりかけていたブサを救ったのは、聞き覚えのない男の声。慌てて周りを見回すと、いつの間にかブサ達が入って来たドアに寄りかかっている男の姿があった。
(……は?)
混乱の極みにいる今のブサには、まともなセリフは言えそうになかった。言えたとしても一文字位がせいぜいだろう。
現に、この時頭に浮かんだ言葉はたった一文字だけだった。
「よぉ、おっさン。相変わらずじゃねぇノ」
「ふむ、このギルドを統べる者として、不審者の尋問に立ち合うのは義務だよ」
「こっそりと、かぁ?」
「お前達は気付いていたのだから、何の問題も無いと思うがな?」
リュシアンが全く驚きもせず、新たな男に声を掛ける。サミュエルが構えたナイフもまた、全くズレれておらず、驚いた様子は無い。
実は最初にロラン達が訓練所に入った時——もっと正確に言うならば、ロランとアンリがこの部屋に入った時——には、この男はすでにこの場に居たのだ。ブサが気付かなかっただけで。と、いうよりも『気付かせなかった』という事になる。
男の言う通り、当然の如くロラン達三人はしっかり気付いていたが。
「んで? あんたがわざわざ声を掛けて来たって事は、ブサは訳ありか?」
やはり、ひとかけらの動揺も見せずにロランが男に問い掛ける。
「さて。どうだろうね? それはこれから調べる事だよ。ただ、普通の猫では無いという事は明白だ」
男の『普通の猫では無い』という発言に、再び肩をビクつかせるブサ。
だが、相変わらず逃げる事は不可能だ。もっとも殺される事は無いだろうが。今のところは。
「とりあえずは場所を移さないかね? あまり長時間訓練所を立ち入り禁止にも出来んからな。彼の様子を見る限り、それなりに時間は掛かりそうだ」
そう言ってチラッとブサに視線を寄越す。
当のブサはというと全身を震わせ、眼球は半分白目を剥きながら小刻みに揺れ動いていた。
そんなブサの様子には気付きつつも、反応を見る為に敢えて放置していたロラン達も仕方なく首肯する。
「まぁ、あんたには色々世話になってるしな。場所を変えるのに異存はないが、何処を使うつもりだ? なるべく他人が近付かない場所の方がありがたいんだが……」
場所を変える事に異存は無いと言いつつも、条件はきっちりと提示する。
「うむ、ならばワシの部屋を使うとしよう。そこなら余計な介入もあるまい?」
そう返して来た男の言葉にロランの眉間に深いシワが寄った。他の二人も不服そうだ。
「確かにそこならいきなり乱入してくるバカもいないだろうけどな。俺らを連れて行くのにどういう理由を付ける気だ? 妙な詮索をされるのもごめんだぞ」
ロランの言い分はもっともである。ただでさえ、『ブサ』という異分子を抱え込んでいるのだ。下手に突かれて余計な騒ぎを起こすのは避けたい。
「その点なら大丈夫だ。この通り、お前達宛の手紙を預かっていてね。その件で呼んだ事にすれば良いだろう。他人の受けた仕事内容を詮索するような奴なら、潰しても問題はないからな」
サラッと恐ろしい事を口にする。だが、それはこの世界においては常識なのだ。
ギルドから受ける仕事には情報をオープンにして良いものも多いが、守秘義務が発生するものも多い。それがこの男から直接言われるものなら、なおの事。それでも詮索するのはバカのする事だ。
「どうすル? ロラン」
「リーダーに全権を任せるぜぇ?」
あっさりと選択権を譲る二人。当然ながらブサに選択権は無い。何しろ当事者なので。逃がす筈もないだろうが。
「……分かった、応じよう。……アンリはどうする?」
少し考えてから男の申し出に乗る事に決めたロラン。まだ目を覚まさないアンリの存在は確かに気に掛かる事だろう。もっとも、そのアンリをボコボコにしたのはロラン自身だったが。
「起こして連れて来ると良い。ワシは先に部屋に戻っていよう」
そう言ってドアから退出すると三人が一斉に溜め息を吐いた。
「……ハァッ。ったくよぉ、あのおっさんだけは苦手だぜぇ……」
「俺ら色々弱み握られてるしナ」
「ギルドに入ってて、あのおっさんに弱み握られてない奴なんでいないだろうよ。それより、さっさとアンリ回収して行くぞ」
「「了解」」
三人ともあの男の事は苦手としているようだ。そのわりには随分と親しげに見えるのだが。恐らく若い頃に色々とあったのだろう。
アンリを回収する事を再確認し、ブサを抱えたまま三人は訓練所を後にした。
シリアスはまだ続きます。
が、明日は猫又主のためお休みです。次話公開は23日となります。
明日は2月22日でニャンニャンニャンの日です。




