どうやら、俺の周りには凶悪面しかいないらしい
おはようございます、こんにちは、こんばんは、第2話です。
ハーレム始まりました。
むさ苦しい髭面のおっさんにジョリジョリと音をさせながら顔を擦り付けられ、半ば白目を剥きながら抵抗を続け、心身共に衰弱した男は不意に髭面から離される。
「おいおい、嫌がってんじゃねぇカ」
嫌がる男を助け出したその凶悪面その3。
語尾に 独特なイントネーションを持つその男もまた、さっきの男程ではないが凶悪面であった。
浅黒い肌に八重歯、光の加減で金色に光って見える薄茶色の瞳と、常に浮かべている酷薄そうな、何かを企んでいそうな笑みが人と言うよりも蛇や狼と言った動物を彷彿とさせる。余談だが言っておくと髭は無い。
そして、意外にも猫を抱える腕は優しいものだった。
ついでに言うならこの男、人相とは裏腹に意外と真面目な性格をしているのだが、それを猫が知るのはまだまだ先の事である。
(こいつらの中にはまともな顔の奴の一人もいねぇのかよ……)
今まさに髭男のジョリジョリ攻撃から助けて貰った事を忘れた上に、自分の事を棚に上げた全くもって失礼な男の心境である。
「んで、アンリよぉ? 依頼人にその猫の事も報告は済んだのかぁ?」
気怠そうに語尾を伸ばし気味に話すこの男、凶悪面その4も他の男達の例に漏れずのご面相である。
他の3人と比べると、まだかなりマシな顔立ちではあるものの、斜に構えた態度に、眠そうに細められた目と皮肉気な口調。若干巻き舌気味のところも相まって、とても柄が悪そうに見える。派手なシャツを着て、サングラスを掛ければ誰もが納得する立派なチンピラになれるだろう。
ちなみにこの男もまた、外見の割りに私生活はマトモである。口は悪いが。
「ん。いや、まだだな。これからしに行く所だ」
「えぇ、『私が』ですね。とりあえず報告に行くのに、出来ればその猫も依頼人に会わせた方が良いでしょう。と、言うわけでリュシアン、その猫を渡して下さい」
どうやら、猫を抱えた浅黒い肌の男の名前はリュシアンと言うらしい。やはり、どうにも外見と合わないような名前の持ち主だ。
そして猫を渡せ、と差し出された手には何も乗る事はなかった。
「……リュシアン?」
「いやいや、俺も一緒に行ってやるヨ」
そう言いながら、その手は猫の頭を撫でたり、喉をくすぐったりと止まらない。中身を知ったらさぞや驚く事だろう。そして吐き気にも襲われる事だろう。
自分とほぼ年の変わらない男の頭や、喉を優しく撫でているのだから。とても目に痛い光景である。真実を知る者からすれば。
(ふざけんな、離しやがれ!)
と、最初は暴れていた猫だったが、喉をくすぐられる思った以上の心地良さに、今では大人しく撫でられるばかりとなっていた。やはり、何かを諦めたかのように白目を向いているのだが。
「いいえ、結構です。貴方が一緒で依頼人の方に万が一にも失礼があってはいけませんからね。私一人で行きます」
さぁ、猫を渡せと言わんばかりに手を動かす。ちなみにこの会話の間、視線が猫に向けられる事は無く、睨み付けるかのように仲間である浅黒い男に向けられたままだった。
「そうは言ってもナ。お前だとこの猫にビビられるんじゃねぇのカ?」
瞬間、ビシッと空気の凍る音がした。次の瞬間ススス、と髭面の男と巻き舌男が離れて行く。見事な逃走である。
正直猫も逃げたかったが、ガッチリと抱き抱えられた腕は離れそうにない。もがき、爪を立てるもリュシアンの腕はピクリとも動かなかった。
「ふじゃ———っ!!(いい加減、この手を離しやがれ!!)」
「ほら、見なさい。猫も嫌がっているじゃないですか。早く依頼人に報告しないといけないでしょう。渡しなさい」
「ハッ。お前を嫌がって暴れてんだヨ」
「かっは——————っ!!(どっちもだボケェェェェェェ!!)」
「どうかしたのかね?」
緊迫した空気を意に介さず話しかけて来たその男こそが、どうやらこの男達を護衛として雇った依頼主のようだった。
(あぁ、ようやく……まともそうな人間が出て来て……)
再び猫は硬直する。
馬車から降り立って来たその男もまた、男達に負けず劣らずの強面な巨漢であったからだ。むしろ、勝っている。
(……護衛とか、要らなくね?)
猫がそう思ってしまうのも分からなくはない。逆に、全力で同意する者すらいるだろう。
いや、同意する者が殆どかもしれない。
「テオドールさん、申し訳ありません。馬車の足を止めたままにしてしまい……」
「いや、何。気にしなくて良いとも。君達にはいつも良くして貰っているからね」
アンリにテオドールと呼ばれた男は、外見とは裏腹にゆったりと穏やかな口調をしていた。
よくよく見るとその双眸は優し気で、雰囲気も穏やかなものだ。全体の外観さえ、気にしなければ。
何しろ、巨漢なのだ。身長は護衛の男達よりも高く、全身を覆う筋肉ははち切れんばかりで、クマと取っ組み合いをしても容易く勝てるのではなかろうか。そう思わせる程の筋肉だ。それなりに年は取っているものの、衰えたような雰囲気は一切ない。
この男のイメージを表す言葉には『修羅』や『覇王』や『拳闘王』と言った言葉がぴったりかもしれない。生半可な覚悟では正面に立つ事すらしたくない、と思わせる程であった。
「いやいや、テオドールさん。むしろ良くして貰っているのは俺らの方ですから。
正直なところ、テオドールさんなら盗賊の10人や20人襲って来ても、簡単に全員ブチ殺しちまえるでしょうや」
「ハッハッハッ! それは最近の盗賊が不甲斐ない者達ばかりだからだよ」
髭面の男の言葉を否定する発言は、無い。
「ロラン! テオドールさんに失礼でしょう……! 重ね重ね申し訳ありません。この男には後で私からキツく言っておきますので……」
「フフフ、相変わらず苦労性のようだね、君は。だが気にしなくて良いとも。君達の気性は私にとっては心地良いものだからね。
それに最近は襲って来る盗賊もいなくて、暇で仕方がないんだ。君達が居てくれるお陰で暇も潰せるというものさ」
……どうやら、テオドールと言う男は本物の『修羅』であるのかもしれない。盗賊にすら避けられている、というのであれば本気で護衛を雇う必要もない気がしてくる。
自分の周りのあまりにもあまりな状況に意識が遠くなって来たような気さえしてくる。先程から白目を剥き過ぎて、もはや白目がデフォルトのように思えてきた。
漸く判明した髭面の男の名前にも一切の感想を持つ事無く、いつしか猫はリュシアンと呼ばれた男の腕に身を委ねながら、グッタリとしたままピクリとも動かなくなっていた。その事にアンリも、ロランも、リュシアンも全く気付いてはいない。彼の異常に気付いたのは、やはり『彼』であった。
「おや? その猫はどうしたのかな。随分と具合が悪そうに見えるが大丈夫かね?」
「「「「えっ!?」」」」
4人の男の声が一斉に揃う。
慌てて全員がリュシアンの抱き抱えた猫に視線をやると、完全に白目を剥いて全身を細かくピクッ、ピクッと痙攣しているように震わせた哀れな猫の姿であった。
(……俺、もう……どうでもいい……)
何かを諦めた瞬間だった。
色々とハッチャケ過ぎた結果がコレだよ!!
猫主でシリアスを書いた反動でこんな話が出来上がりました。今では若干後悔してま、せん。此方も完結出来るように頑張りますので宜しくお願い致します。




