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どうやら、不穏な気配らしい

 そろそろ動きます。

(うっうっうっ……俺の天国が……)


 お前のじゃない。ギルドに設置してある椅子は、全てギルドの物である。

 引き剥がされた後の椅子は、レアのファン達によって醜い争奪戦が繰り広げられている内に見知らぬ爺様に座られている、という見事なオチが付いた。


 もちろんブサはリュシアンにがっちりホールドされているので、争奪戦に参加する事は出来ない。中身はどうあれ、外見は猫なのだから参加しようにも無理があるが。


 現在も地味に抜け出そうとしているも、リュシアンの絶妙な力加減で抜け出す事が出来ない。それどころか、さり気なく喉をくすぐられる手によって逆に力が抜けていくばかりだ。


(あぁぁ……レアちゃんの手の温もりが上書きされていく……)


 最終的に、完全に上書きされてしまった温もりにブサは人知れず泣いた。


「あん? なぁ、ここにあった大量の料理はどうしたんだ?」

「お、ロラン」


 お話しが終了したのだろうか。随分とすっきりとした顔でロランが戻って来た。

 アンリは、というと……ロランの左肩に担がれていた。まるで荷物の如く。どうやら完全に意識を失っているらしく、ピクリとも動かない。

 その様子を見て、アンリの顔を覗き込むサミュエル。そして、すぐに自分の好奇心からの行動を後悔する事となった。見事に白目を剥いていたからだ。正直言って気持ちが悪い。


 アンリを肩に担いだまま、部屋の隅へ行くと何の気負いも無くアンリを投げ落とす。それでもアンリは一言も発せず、身動き一つ取らない。相当深く気を失っているらしい。

 そんなアンリを見てリュシアンが尋ねる。


「あー、何をしたのか聞いても良いカ?」

「ん? ちっとお話し(・・・)しただけだぜ?」

お話し(・・・)なぁ?」

「おう、ちっとばかしな……」


 くくく、ははは……と笑い合う極悪面三人衆+一匹。さり気なくブサも物凄く良い笑顔だった。

 どう見ても悪巧みをしている極悪集団ですね。本当にありがとうございました。


 ちょうど良い感じにボスのペットっぽい猫もいるのだ。

 薄暗い部屋の革張りソファーに座って猫を膝に乗せたら完璧だ。残る二人はボスの側近だろうか。この場合、アンリは仕事を失敗してボスにしつけられた部下といったところだろうか?


 そんな絵面を想像してしまった面々はあまりのはまりっぷりに気が遠くなるのを感じていた。既に数人は白目になりかけている。


『似合い過ぎる』ある男が意識を失う寸前に思った言葉であった。合掌。


「んで、さっきも聞いたがそこにあった料理はどうしたんだ?」

「ん、あぁ。猫が食えそうにねぇもんは俺がバッグに入れて持ってるぜぇ」

「俺が持ってるのは普通の猫が食えそうなもんだけだナ。全体の一割程度しか無かったガ」

「……は?」


 リュシアンの言葉にロランの目が点になった。無理も無い。あれだけ大量に料理を買って来てあったくせに、本猫が食べられるものとなると一割しか無かったのだから。


「あ、お? いやいや、ちょい待て。一割だぁ? あんだけあったってのにか?」

「あんだけあって一割ダ」

「何だったら俺が預かってるもん見てみるかぁ?」


 そうまで言うなら、とどうやら見せて貰う事にしたようだ。

 サミュエルが自分のバッグを渡す。

 受け取ったロランはバッグの中に手を突っ込んで少し探ると、深い溜め息を吐いてからサミュエルにバッグを返した。するとそのまま頭を抱えてしまった。あまりの酷さに頭痛すらしてきたらしい。


「な? 嘘じゃねぇだろぉ?」

「あぁ、マジだったな。っつか、何考えてアンリの奴……」

「ある意味何も考えてなかったんじゃないカ?」

「「「……はぁ」」」「……ぶにゃぁ(やれやれだぜ)」



 * * * * * * * * * * 



「あー、そういやブサにエサはやったのか?」


 ブボフゥッッ!!


 ロランが何気なく質問したところ、ギルドの至る所から何かを噴き出すような音が聞こえてきた。

 周りに居た者達の思いもしなかった反応に、ロランの肩がビクッと跳ねた。それにつられてブサもビクッと跳ねる。即座にあごを撫でて宥めるリュシアン。逆立ちかけた毛がフシュゥゥ……と静まった。


「あ~、いや、まぁ……一応、なぁ?」

「まぁ、なんだ、うン。普通に食べてたゼ? 途中までハ」


 サミュエルとリュシアンの二人の肩が物凄く震えている。二人どころか、周囲の男達も同じく。

 やはり、どうにも不審な反応に、これまた笑いを必死に堪えようとしているエステルに問う。


「んで、何があった?」

「ろ、ロランさん。そこで私を巻き込まない、で頂きたい、ん、ですけど……」


 笑いを堪えてるせいかセリフが飛び飛びだ。そんなエステルを助けるようにレアが口を挟む。


「あの、私もその場にいました、ので……私から説明致しますっ」


 まだロラン達の顔に慣れてる訳ではないので、若干戸惑い気味だが。


「ん? まぁ、誰でも良いから説明してくれるんなら助かる。頼むわ」

「ロランさん、がアンリさん? を訓練所に連れて行った後なんですが、そちらのお二人がブサちゃんにと鳥の刺身を選んで持って来て下さいまして。でも、最初は警戒してたのか食べようとしなかったんです。ですがもう一度あげてみたら、今度は普通に食べてくれるようになりまして……」


 別にブサは警戒していた訳ではない。レアに構って貰っていたのに、横から入り込んできたリュシアン達が気に入らなかっただけだ。物凄く。

 その為にわざと無視をしたのである。ブサの事を知っているロラン達ならば言わずとも分かるだろうが。


「(一応言っておくが、警戒してたなんて可愛いもんじゃねぇからなぁ?)」

「(だろうとは思ってるよ)」

「(ただのエロ()だゾ。あレ)」


 完璧に理解していた。流石である。


「そのままブサちゃんにあげてたら、えっと、そちらの方が……」

「ん? あぁ、こいつか。リュシアンっつー名前だな。」

「あ、はい。そちらのリュシアンさんがお刺身を食べてる最中にブサちゃんに……っ」


 ぶふ……っ!


「ちょ、おいバカ。邪魔してんじゃねぇよ!」「いや、だってよぉ……」「俺なんてさっきのアレ間近で見てたんだからな……っ?」


 背後でわちゃわちゃ騒ぐ男達。

 そちらを一度見やってから仲間の二人に視線を戻す、も合わない。露骨なまでに視線を合わせようとしない。その割にはニヤニヤと楽しそうに笑っている。この時点で何となく聞きたくない気になりつつあるが、毒を食らわば皿まで、と続きを促す。


「……っ、ふぅ。失礼致しました。続きを話させて頂きますね。えーと、『その刺身を買って来たのはアンリだ』と言った瞬間にブサちゃんが思いっきり刺身を噴、き出しまして……、顔も、凄いこ、とに……っ」


 途中何度か笑い出しそうになりながらも、何とか最後まで言い切った彼女は受付の鑑と言っても良いだろう。そうそう経験する事でもなさそうだが。


「あー、つまりだな。簡単にまとめると、知らない間は普通に食べてたが、アンリが買ったと知った途端に即吐き出すほどに拒絶した、と」

「完璧なまとめ方だナ」

「流石リーダーだよなぁ」


 話を聞いたロランはさらに頭が痛そうだ。最早頭痛が痛いレベルで。

 ブサもその時の事を思い出したのか、舌を出して凄まじい形相である。


「あぁ……。なるほど、なぁ……?」


 痛む頭を押さえたまま、ブサの事を見つめてからエステルに言う。


「悪い、エステル。もう一度訓練所借りちまっても良いか? コイツ(・・・)の事も含めて話しねえといけないからな。出来ればアンリが起きる前に」

「あ、はい。構いませんよ」

「ついでにもう一個頼みたいんだが。訓練所にしばらく人を寄せないで貰えるか?」

「え? ん〜、今は使ってるギルド加入員の方も居ませんし、使う予定も入っていませんから大丈夫ですよ」

「悪ぃな。んじゃ、しばらく借りるわ」


 最後に断りを入れてから、先程アンリを肩に担いで出て来たドアを開ける。後ろに二人とブサを引き連れて。もっとも、ブサは強制的にだが。何しろ抱えられたままなので。


 ドアの向こうはロランが訓練所と言っていたが、まさにその通りだ。弓の稽古に使うであろう的や、人型の的など、様々な訓練用の道具が揃っていた。地面はところどころ抉れていたり、まだ新しそうな血の跡があったりする。


(うぉぉ……マジでザ・訓練所だな。よくあるイメージその物って感じだな)


 現代日本人として生まれたブサ(おとこ)には、武術経験は全くのゼロだ。故に物珍しさから、視線があちこちへと忙しい。

 もしもブサがリュシアンの腕から下ろされていたならば、好奇心の赴くままにうろついていた事だろう。


 そんな様子のブサを呆れた風に見つめる三人。


「そんなに珍しいもんかネ」

「入った事はなさそうだよなぁ?」

「つかよぉ?」


 サミュエルとリュシアンの二人は呆れ口調だ。その後、ロランが言葉を切る。


 ガシッ!


「てめぇ、最初っから俺らの言う事完っ全に理解してるよな?」


 物凄く今更過ぎる確認だった。

 流石にばれてます。一応これまでもちょいちょい不審がってそうな描写は入れたつもりですが気付いてくれた方いらっしゃいますかね?

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