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どうやら、至福の時間は終了らしい

 相変わらずのポンコツです。

「よし! 彼にはこれをあげる事にしましょう!」


 薄暗くなったギルドの一部の空間を空気を読まない男(アンリ)がぶち壊す。

 お陰で淀んだ空気は吹き飛ばされたようだった。今、この瞬間だけはアンリに感謝しても良いと思うのはロランを中心とした周囲の者達だった。


 ブサの周囲に居た者達はそんなロラン達の事情など知らないので、再び突然大声を出したアンリに迷惑そうだ。特にブサなどは汚物を見るかのような目をしている。そこまで嫌うか。


 そんなブサの様子など気付きもせぬまま選んだ料理を手に持ち、スキップすら飛び出しそうな勢いで突撃して行こうとするのを必死にロランが止める。


「な、何をするんですか!? 私にはあのk「俺ぁよぉ、近付くな(・・・・)、って、言った、よなぁ?」……いえ、あの……」


 ついさっき怒られたばかりだというのに、あっさり忘れてブサに突撃しようとしたアンリ。

 道中の半ば程で何とか止めたロランはとうとうぶち切れたらしく、地獄の底から響くような低い声で念を押していた。その様子にアンリも即座に思い出したものの、流石にマズイと必死に目が泳ぐ。本気で頭から抜け落ちていたらしい。


「アンリ、ちょっと来い」

「いえ、あの……」

来い(・・)

「……はい」


 有無を言わさぬ様子のロランに連れられ、先程ブサとアンリが入っていったドアとは別の扉の向こう側へと消えていった。


「……あの方、大丈夫でしょうかね?」

「自業自得だロ」「放っとけぇ」


 ポツっと呟くレアと、さらっと流す二人。

 そして引きずられて行くアンリを呆然と見送る男達+受付嬢達。

 あの巨体をやすやすと引きずって行けるロランの力も大したものだ。ぶち切れたせいで、普段以上の力が出ている可能性もあるかもしれない。


「ぎにゃ~(やっぱアイツ馬鹿だろ」

「だみ声も慣れたら可愛く聞こえてくるわね……」


 ポソッと呟く新たな声。もしかしたら新たにぶちゃ猫の魅力にハマった受付嬢が一人、増えたかもしれない。


「んデ? あの料理はどうするヨ」

「んぁ~……全部出しっ放しで行きやがったなアイツ(アンリ)……」


 行った、というか引きずられて行った、が正解だが。

 それは一先ず置いといて。まずは料理の行方である。放置された料理の中には、すでに冷め始めている物もあった。


「……なぁ、アンリがブサにやるって言ってた料理ハ」

「……ロランに引きずられてった時に持ったままだったなぁ」

「「…………」」


 連れて行かれる前のアンリは『これ』を猫にあげよう、と言っていたのは確かだ。しかし、『それ』はアンリと共に扉の奥だ。その扉の向こうからは、何やら怒声と破壊音が聞こえてくるのだが料理は無事なのか?


 チラッと視線で問われたエステルも、首を左右にぶんぶんと振っていた。


「代わりを適当に選んでおくカ」

「そうしとけぇ」

「……あの、良いんでしょうか?」

「知るカ」「俺ぁ、知ーらねぇ」


 適当に冷め始めた料理の中から与えられそうな物を選ぶ。明らかに無理! と判断したものはサミュエルのアイテムバッグに突っ込んでおく。


 ……それにしても唐辛子たっぷりの魚介スープなどをなぜ選んで来たのだろうか。魚介か? 魚介が決め手だったのか?? だが、いくら猫が魚好きだと思っても激辛スープは選ばないだろう、普通は。

 そもそも猫は雑食性だったはずだ。異世界の猫も同じであれば。



 時折、これは嫌がらせか虐待ではないだろうか? とも思われるチョイスに頬を引き攣らせながらも二人は料理を選り分けていく。主にリュシアンが。


「これは大丈夫、こっちもOK、これは……ちょっと微妙だナ。無ぇだろコレハ」


 などと呟きながら。

 サミュエルはというと、リュシアンが『微妙』あるいは『無い』と判断した物を自分のバッグに突っ込んでいくだけの簡単なお仕事だった。


 結果的に大量にあった料理の殆ど九割近くが『無い』だった。

 アンリの選択にレアやエステル含め、様子を伺っていた全員の頭が痛そうだ。

 何しろ、選んできた料理の殆どが『人間用の味付け』をされている物だったのだから。猫に人間の食べ物を与えない、というのは常識である。人間用の食事に含まれる塩分が猫には過剰だという理由で。


 ともあれ選択の幅は一気に狭まったので、残った中からさらに選んでいく。まだ熱い物は除外。それらはリュシアンのバッグに仕舞われる事となった。


 最後に残ったのは『鳥のささ身の刺身(たれ別添え)』である。他にも候補はあったが妥当なところだろう。


 刺身を持ってブサの正面に立つリュシアン。自分の目の前に出来た影でそれに気付いたブサが胡乱げな目つきでそちらを見る。

 せっかくエサを持って来てやったというのに。若干イラっとしつつもリュシアンはブサの前に刺身を差し出す。


「ほれ、『鳥のささ身の刺身』ダ。食エ」


 ぷいっ


 瞬時に顔を背けられた。刺身を差し出したリュシアンの額に青筋が浮かぶ。


「ほら、ぶさちゃん。美味しいわよ?」

「ぎなぁ~ん(もちろん食べるとも~)」


 レアの手から差し出されると、さっきの拒否が嘘のようにあっさり食らい付くブサ。それを見ていたサミュエルの額にも青筋が浮かんだ。ついでにレア達の周りに居た男達にも。


((((((……このエロ猫がっ!))))))


 その通りだ。何しろ中身はおっさんなので。


 Q.綺麗なお姉さんは好きですか? A.大好物です。


(ささみうめぇ)


 もっちゃもっちゃ


 わんこそばのように、レアの手から次々差し出される刺身を食べるブサ。そんなブサを眺めつつ、意趣返しも含めてリュシアンが一言。


「ちなみにそれ、アンリが買ってきたやつナ」


 んべっっっ!! ぺっ、ぺっ!


 瞬時に勢い良く吐き出した。そして物凄く嫌そうに口の周りを前足で撫で付ける。

 そこまであの男(アンリ)が嫌いなのか、と見ている者達の顔が引き攣った。逆にリュシアン達二人はやっぱりな、と納得顔だ。

 顔を引き攣らせた男達もすぐに気を取り直して、完全にリュシアンの言葉を理解しているブサの様子に感心していた。


 ちなみに、今起きた出来事をアンリが戻ってきたら絶対に本人に教えようと思っているサミュエルだった。

 意地が悪いと言うなかれ。ブサの件では色々(・・)と苦労させられっぱなしなのだから。



 * * * * * * * * * *



(そういえば、此処って異世界なんだよな? それならエルフの女の子とか、獣人の女の子とか、ドワーフの女の子とかサキュバスとかリリムとかはいないのかね?)


 女の子限定で考えてる辺り中の人の性格がうかがえる。何とも欲望に忠実な男だ。

 しかし、門前で見たハーレムメンバーにはしっかり居たはずなのだが。その辺りは記憶から消去しているのかもしれない。

 この(おとこ)が望んでいるのはあくまでも、自分をチヤホヤとしてくれる美人のお姉さま方だ。他の男をチヤホヤしている女は不要なのだろう、間違いなく。


 ちなみにギルドに登録しているのはほぼ男性なので、異種族の女性に会いたいならば町中へ行くか、特に夜のお店などに行くのが一番だろう。そういう場所は猫が入れる筈もはずも無いが。


「レアさん、そろそろ休憩終わっちゃいますよ?」


 ブサが考え込んでいる間にそろそろレアも仕事に戻る時間である。ブサを慌てて膝から下ろすと自分の席に戻り、急いで昼食を口に詰め込み始めた。一気にかきこんでいるので、ほっぺたがリスのようにパンパンになっている。

 せっかくの美人が台無し……と思いきや、その様子を見ていた男達はホッコリと見守っていた。全く問題はないらしい。美人は得なのだ。


 ブサは、というとやはりレアの食事姿を見てホッコリしていた。

 レアの体温を直接感じられなくなったのは残念だが、それ故にまだ体温の残っているその場から動こうとはしない。


 そんなブサに気付いた一人の男によって、ブサをその場からどかそうとする地味な攻防戦が始まろうとしていた。


「どけ」「どかぬ」まずは目線での応酬だ。

 言ってもどかぬと見たブサに男が実力行使でその場から引き離そうと試みる。それに対し、意地でもどかぬと椅子に爪を立てて踏ん張るブサ。引っ張る男、踏ん張るブサ。一体何をしているのか。

 そんな一人と一匹に気付いた男達が、あっさりどかそうとしている男の方に味方する。何しろ彼らはレアのファンなので。数の暴力によってついにブサの体が椅子から引き離された。


「ぎにゃぁ―――――っ!!(俺の天国ぅぅぅぅぅぅっ!!)

 何度も言っていますが、猫の中身はおっさんです。

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