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どうやら、奴が帰って来たらしい

 帰って来ちゃいました。

 帰って来るなり奇声を発するアンリ。突然の大声にギルド内にいたほぼ全員が、思わず耳を塞いだ。

 唯一耳を塞げなかったのはブサのみだ。何しろモミモミに忙しかったので。


 突然の大声に、ブサで和んでいた者達も迷惑そうに一斉にアンリを見る。もちろんブサもその内の一匹だ。全員が一斉に見やるその迫力にたじろぐアンリ。


 ハァ……


「おい、アンリ「ろ、ロラン! これはどういう事ですかっ? 私があの子の食べ物を買いに行っているのは知っていたでしょう……っ!?」まずは聞けよ」


 アンリに話し掛けようとしたロランを遮り、一方的に捲し立てるアンリ。話の聞かなさっぷりにロランのコメカミに血管が浮かぶ。


「結論、てめぇが帰って来るのが悪ぃ」

「ぎなぁ(その通り)」


 サミュエルに引き続き聞こえたブサの鳴き声に、バッ!とブサの方を振り向く。

 ブサは当然、アンリの方など見てはいない。視線をちらとも向ける事無く、ひたすら不機嫌そうに尻尾で床を叩いていた。そして再びその口を開く。


「きめぇ(きめぇ)」


 瞬間ギルドが凍る。


「えぇっと、ブサ、ちゃん? ひょっとして今、喋ったかしら?」

「ぎにゃぁ(や、俺猫だし)」

「俺今『きめぇ』って聞こえた」「俺も」「『きめぇ』って『キモい』だよな?」「それ以外何があるよ……」

「ぶなぁ(気のせいだろ)」


 困惑するレアとブサを囲む男達。気のせいと言い張るブサ。もっとも、その声は猫の鳴き声にしか聞こえない為、誰にも届いていないが。

 そしてアンリはブサの発したセリフ(きめぇ)に完全にフリーズしている。再起動にはまだ時間が掛かりそうである。

 ロラン達はというと。ブサのあまりのタイミングの良過ぎる『きめぇ』発言に肩を震わせ何も言えなくなっていた。

 ブサにとっては心の底からの本音だったのだが。


 フリーズするアンリ、困惑するレアと男達、ツボにハマるロラン達。そして我関せずのブサ。ギルドにはますますカオスな雰囲気が漂っていく。



 ***



「落ち着いたか?」

「えぇ……何とか……」

「んで、だ。アイツ(ブサ)の現状は説明した通りだな」

「はい。それも理解しています。……納得出来るかは別ですけど……っ」


 お話中(・・・)のロラン達を全く気にする事なく、ブサは相変わらずモテモテだった。やはりぶちゃ猫というのは何処でも一定の需要があるらしい。

 美人に撫でられ、おやつを貰い、今のブサはご機嫌だった。


(何よりあのアンリが近付いて来ないのが良い。あとはこの二人や他の男どもが居なければもっと良いんだが)


 相変わらず、ブサのすぐ側にはサミュエルとリュシアンの二人が立っていた。ついでに言っておくとそのアンリが近付いて来ないのは、ロランのお説教(おはなし)の賜物なのだが。

 当時ほぼ意識を失っていたブサは、知るはずもない事実だった。


「あの、ロランさん。そのブサさんの事なんですけど」

「ぁん? お、まさか依頼書あったのか?」


 ロランの言葉にビクッとするアンリ。


「いえ、ありませんでした」


 ホッと胸を撫で下ろす。逆にロランは眉間のシワが更に深くなっていった。


「そうか。……なら依頼書が出せない、あるい……周りが気付いていない、か?」

「もともと飼い主が居なかった可能性もありますよねっ?」

「これから依頼書を出しに来る可能性もあるよナ」


 苦い口調で独りごちるロランと、声を弾ませるアンリ。少し離れた所から念の為にとクギを刺すリュシアン。それぞれ声のトーンに差があり過ぎる。


「そういや、アンリ。ブサ(アイツ)用に買って来させた物はどうした?」

「えぇ、ちゃんと持ってますよ。冷めるといけませんから、こうして……」


 そもそもアンリにはブサ用のエサを頼んでいた事を思い出したロランは問う。

 それに対し、アンリはそう言いながら腰に付けたウェストバッグの中を探る。すると、明らかに量がおかしいだろう? という程の大量の料理が出て来た。


 実際にバッグの見た目の体積を考えるとそちらもおかしいのだが。それに関してはこのバッグはいわゆるアイテムバッグという類の物で、ギルドに所属している者なら早々に手に入れておきたい必需品の一つだ。何しろ持ち帰れる物の量が増えれば、その分儲けも増えるのだから。

 駆け出しの頃は高く売れる素材だけを持ち帰り、安くてかさばる物はその場に捨てていくというのも当たり前の事だった。


 その大量の料理を見て頭の痛そうな顔をするロラン達。料理だけで埋まっていくテーブルに唖然とする受付嬢達。

 一人だけ平然としているのはアンリだ。

 眉間を揉みほぐしつつ、ロランが口を開く。


「一応聞いておく。こりゃ誰の分の料理だ?」

あの子(ブサ)の為に決まってるじゃないですか。ロランが頼んだ事ですよ?」


 何故か誇らし気なアンリ。


「いや、これ多過ぎだロ」


 リュシアンが呟くも、その言葉は当然アンリの耳には入っていない。何しろアンリは、これが多すぎだとはかけらも考えていないのだから。


「と、とりあえず! 私が(・・)買ってきた食べ物も与えても構いませんよね? 私が!(・・) 買ってきた食べ物を……っ」

「あ~……そうだな。何かしらブサにくれてやれ。ただし、どれか一つにしておけよ。この量は明らかに多すぎる」

「だろうなぁ。テオドールさんがくれてやったワイバーン肉より量があるんじゃねぇのかぁ?」

「あぁ、俺が一人(・・)で護衛してた時の話だったよナ」


 異常な程に『私が』を強調するアンリと諭すロラン。公園の鯉にエサをあげたい! と泣く子供と、それを宥める母親に見えてくるのは何故だろうか。そして量に対して零すサミュエルと、若干恨めしそうな目で『一人』を強調しつつ三人を見据えるリュシアン。

 リュシアンの恨めしそうな視線に、三人ともが揃ってサッと顔を背けた。


 ぴっぴひゅ~♪


「誤魔化してんじゃねぇヨ」


 口笛を吹くも、若干失敗しているのは動揺の表れか?


「あ、あの……今、ワイバーン、と聞こえたような気がするんですが……」


 おずおずと話しかけてくるエステル。

 最初から肉として仕入れているならまだしも、普通はワイバーンが現れた場合、即座に討伐すべき対象となる。家畜に、人にと被害が馬鹿にならない。放置しておけば、狩場として完全に居ついてしまう事すらある。

 もっとも、サミュエルによって『肉』と明言されてる以上、すでにワイバーンの脅威は存在しないと判断して良さそうだ。

 エステルの言葉に「ん?」と若干考え込んだロランが一つ頷く。


「お、そういや、そっちの報告もしておくべきだったな。俺らの依頼の護衛途中でワイバーンが襲ってきたんだよ。一頭だけだったから、多分『はぐれ』だろうな。場所は……どの辺りだったっけか?」

「ブサを拾ったちょい前辺りじゃなかったカ?」

「んー、大体その辺だなぁ」


 ワイバーンに関して報告を始めるも、出現地点があやふやになっていたロランを他の二人がフォローする。

 ギルドに来る前に『報告は私が』と言っていたアンリはどこに行ったのだろうか? 今のアンリは誰が見てもポンコツでしかない。今も真剣な顔でブサに与える食事を選んでいる真っ最中だった。


「『はぐれ』のワイバーンでしたか。群れじゃなかったのは幸いでしたね。ところで、ワイバーンの素材などはお持ちでしょうか? 宜しければギルドで是非、購入させて頂きたいのですが……」


 ロランの説明にメモを取りながら真剣に聞くエステル。ついでにワイバーンの素材を買い取りたい旨を伝えるも残念な事にそれは叶わなかった。


「あー、悪ぃ。ワイバーンはテオドールさんが『仕入れは商人の基本だ』とか言って一人で狩っちまったんだよなぁ。……ほんと、俺ら何で雇われたんだろうなぁ……?」


 ハハッ、と乾いた声で笑う、その姿が物悲しい。リュシアンとサミュエルもまた、無言だ。

 話を聞いていたエステルも、うっかり近くに居た為ばっちり聞いてしまった受付嬢や他の男達も、気まずそうに視線を彷徨わせていた。

 きめぇ。


 このぐらいなら多分、頑張れば猫も話せる筈……! 「ごはん」っていう子もいる訳ですし。

 実際猫に言われたらガチで凹む自信がありますけど。


 ちなみに明日は猫又の公開日なのでこちらはお休みとなります。いつも見て下さってる方々ありがとうございます。

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