どうやら、俺はモテモテらしい
ブサのモテモテ時代です。
ブサのモテ期到来である。
いや、違った。単に受付嬢は猫を触りたいだけのようであった。
単なる猫好きなのか、ぶちゃ猫好きなのかはともかくとして、その情熱が普段は目を向ける事もしないロランに話し掛けさせたのだろう。エステルと猫の様子を見ていたロランとしては拒否する理由もない。
「美人相手にゃ暴れる事も無いだろうし、構わねえよ。ただし、ソイツが嫌がるようだったらやめてくれ」
至極当然の返答である。
普通は猫が嫌がる場合、真の猫好きならばそのまま嫌がる事を続けたりはしないだろう。あの男は猫好きとして、絶対にやってはいけない事をした。
結果としてブサが全力で拒絶するようになったのも無理は無い。
もっとも、嫌がる事をしなかったとしても好かれたか? と聞かれたらそれは無い! と断言出来るだろうが。
ロランの返答に顔を明るくさせると、レアはいそいそと受付カウンターに『休憩中』の札を出し、ブサの元へ足早にやって来た。
ちなみに彼女もまた、パンツスタイルである。ギルドの制服は男女問わずパンツスタイルだ。
何処かのギルドには、スカートを着用するギルド職員もいるらしい、と聞くが。少なくとも此処では全員パンツスタイルだ。
「あのっ! 俺も触らせて貰っても構わないだろうか!?」「あ、それなら俺も……っ」
レアに便乗してか、先程ブサに堕ちた男達も続々と声を上げ始めた。
突然の事態に驚くも、やはり拒否する理由の無いロランはレアと同等の条件で男達に許可を出す。
「……なぁ、何かソイツに食い物やっても構わないか?」
一人だけ他とは違う要求をしてきた男が居た。餌やり希望らしい。もちろん撫でるのもやらないつもりは無いが。
「あー、別に構わねえが猫が食えそうなもん持ってるのか?」
「干した魚ならあるんだが……」
「濃すぎる塩分は猫に良くないからな。そうじゃなければやっても大丈夫だろうが」
「あ、それなら大丈夫だ。これ、野良猫とかにあげる用の塩抜き干し魚だから」
男は本格的な猫好きだった。常に猫用オヤツを持ち歩く派である。
塩気が無いと聞いて、ならば問題なかろうと餌やりを希望した男に許可を出す。
……ところで、現在ブサのご機嫌取り用の食べ物を買いに行っているアンリを待たなくて良いのだろうか。後で一悶着ありそうな予感。
「う、うっわぁ……っ! 思った以上の感触、何これ……っ!」
何やら受付嬢の感極まった声が聞こえてくる。
ちなみにブサの毛は、普通の猫のようなフワフワッとした毛ではない。犬のようにしっかりした毛でもないが。
綿のような弾力と触り心地、と言えば少し感じが伝わるだろうか? 大体あんな感じと思って貰いたい。
「うおぉ……っ」「確かにこれはっ!」「……何という……」
本当は美人以外には体を触られたくないブサだったが、そのレアが彼らにも触るように勧めてしまったのだ。故に渋々ながら自分に触れる事を許す事にしている。
だが、心の底から渋々な為、尻尾は落ち着きなく床を叩き続けていたのだった。
そんな不機嫌なブサを宥めるように梳いたばかりの毛の感触を楽しんだり、頭を撫でたりアゴをくすぐったりするレア。
美人に色々して貰えてご満悦のブサ。その手はレアの膝の辺りをモミモミと揉んでいた。そんな猫の姿を見て、ロラン達三人は顔を引きつらせていた。
ちなみに元のおっさんの見た目でやったら即通報ものだろうが、今の見た目ならセーフだ。
もっとも、この行為には珍しく一切の下心は無く自然に出たものだ。猫のモミモミ行動である。
「ブサちゃん、痒いところは無い?」
「ぎにゃ〜(ないなぁ)」
「おぉ、本当に返事してるぞ」「見た目じゃ想像もつかないよな」「へー、猫って意外と頭良いんだなぁ」
話し掛けるレアと、返事をするブサ。それをすぐ側で見守るロラン達。そんな四人と一匹の周りでザワザワと会話を続ける男達。
ブサを撫でる男達とは別に、いつの間にやら周りは筋肉で囲まれていた。
もっとも、レアに夢中のブサは一切気付いていなかったが。
***
「なぁ、アレどうするヨ? 今アンリが帰って来たらまずくネ?」
「だなぁ。一応、他の男達にも触らせてるみたいだしなぁ……。まぁ顔は不機嫌そうだけどよぉ」
「あー、だとしてもさっきも言ったが自業自得だろうよ。もし、これでグダグダとアンリが文句を抜かすようなら……まぁ、俺にも考えはある」
流石にロラン達もこの後起こりそうな事を考えていない訳ではなかった。あの男ならば何も無い、という事は無いだろう。
それにしても、何故あんなにもブサに対して執着しているのか?
そもそもの原因が気に掛かったサミュエルがロランに問う。
「あぁ、アレな。俺ら全員自覚バッチリの極悪面集団だろ。だから子供はもちろん、犬猫に至るまで懐かれる事はほぼ無い。その中でもアンリは特にだ。毎回、目が合っただけで確実に全力で逃げられるからな」
そこまで話したロランは一度言葉を切る。微妙に続きを話そうとして躊躇っているようだが、どうかしたのだろうか?
少し考え込んでいたロランだったが、意を決したように再び話し始めた。
「けど、ブサの場合は、目を合わせても目を逸らすか、威嚇するかだけで逃げるまではしなかっただろう。恐らく、それが原因だ」
「ン? あー、なんだ、その、だナァ? 珍しく自分から逃げないって事でああなったって訳カ?」
「多分、な」
重々しくロランが頷く。
「……ある意味、まさかのアイツの自業自得なのかぁ。報われねぇなぁ……」
三人揃って大きな溜め息。うっかり聞こえてしまったエステル以下の受付嬢達も気の毒そうな顔をしている。
もちろん、アンリに対してでは無く、ブサに対してだったが。
そして、話題となっているブサの元では、この男が声を上げていた。
「な、なぁ。そろそろ変わって貰って良いか? ソイツに食い物をやりたいんだが……」
例の餌やり希望の男である。
いつの間にやら、ブサを撫でたい男達は順番に並んでいた。実は、先程声を上げなかった者達もコッソリ紛れている。
レアはというとブサのご機嫌を取る為、順番関係無く常にブサを膝の上に抱えていた。
『食い物』と聞いて興味を持ったか、ブサの顔が勢い良く上がる。
目が合った餌やり希望の男はブサの反応の良さに思わず顔がニヤける。次の瞬間、顔を背けられて情けない顔になっていたが。
実際ブサは空腹だ。食べ物を買って来いとパシられたはずのアンリはまだ戻って来ていない。
自然と鼻がヒクヒクと動く。
「魚の干したやつだけど食うかな? 塩抜きになってるから、猫でも安心だぞ」
と、声を掛けながら、ブサの鼻先に手の平に乗せた干し魚を差し出す。
手を差し出された瞬間頭を引いたブサだったが、空腹と干し魚から漂う匂いに少しずつ首が伸びる。
その様子をじっと動かず、かと言ってガン見する事もなく辛抱強く待つ。
何故か周りにいる者達もシン……っと静まり返り固唾を飲んで見守る。そんな周囲の様子に呆れ顔の三人。
ソロソロと伸びて来た鼻先が、干し魚の匂いを慎重に嗅ぐ。嗅いでは離れ、嗅いでは離れ。慎重過ぎる程に慎重な様子を見せるが、その間も男はじっと動かない。
謎の緊張感が漂う。
そして、遂にブサが干し魚をくわえ、レアの膝の上でモシャモシャと食べ始めた。わぁ……っ、とやはり謎の歓声が上がる。
一匹食べ始めたら後は早く、レアや他の男達も干し魚を分けて貰いブサを餌付けし始めていた。ブサも、もはや躊躇い無く差し出された干し魚をパクつく。
そして、ギルドのドアが開く。
その向こうにいる人物を見て、ロラン達三人が面倒臭そうな表情を見せる。依頼書を探していたエステルも同じく。
「な……っ、なんで……っ!」
スゥッ、と大きく息を吸い込む。
「何でですかぁぁぁぁぁ!?」
面倒な男のお帰りだ。
帰って来ちゃった。




