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どうやら、船での移動中らしい

 船釣りしたい。

「ひゃっはぁ————!!」

「おい、はしゃいでると落ちんゾ」

「いゃっはぁ————!! ……ぬぅああ゛あ゛あ゛あ゛!?」

「だから忠告してんだろうガ!!」

「やっぱあいつは馬鹿だよなぁ」

「死んでも直らなかったんだから、仕方ないんじゃねえか?」

「「…………」」

「……ん? そういや、アンリとジョゼはどうしたんだ? さっきから妙に静かだが」


 船べりではしゃいでたかと思うと、船の揺れにバランスを崩して海に落ちそうになるブサ(アホ)の姿。今日もフラグ回収は万全です。

 そんなブサを慌てて引き上げようとしているリュシアンを眺めながら、のんびりと釣りをしている二人は優雅に船旅を満喫中だった。ある意味では騒乱の渦中にいる一人と一匹も船旅を満喫中と言えるかもしれない。もちろん間違った意味で。


 ぎゃいぎゃいと騒ぎに騒ぐ彼らに近付く者はいない。船に乗り込む際のアンリの表情は強面の船員も軽く怯える程だったので、遠巻きに時折様子を窺われているだけだ。一般客に関しては、そもそも最初から寄り付かない。船上を飛び交う鳥達すらも、気持ちロラン達を避けて飛んでいるように感じていた。流石にそれは穿(うが)ち過ぎだろうが。

 それはそれとして、乗船時のアンリのお陰でこうしてブサも他人の目を気にせずにはしゃげているのだ。

 そんなブサを見るロラン達の目は生ぬるい。今のところ、釣りをしている彼らだけは平和だった。


 だが、船旅を満喫中の二人の横にいる一人と一匹。アンリとジョゼは静かと言うよりもドロドロとした、何とも表現し難い雰囲気を漂わせていた。

 訝しく思ったロランが尋ねる。


「……いえ、その……ブサの魂が抜けた後、ブサの体はどうなるのかと気になりまして……」

「予想では猫の魂が活性化する筈だな」

「あくまでも予想ですよね?」


 そう。あくまでも予想である。

 現在のブサの体は、ブサの魂が前面に押し出されている為に猫の魂は休眠状態にあるものと予想している。ならば、ブサの魂を追い出してしまえば猫の魂が目覚める……筈だが、あくまでも『予想』なのである。


「ブサの魂が抜けた後の子は、私を受け入れてくれるのでしょうか……」

「「そっちか(ぁ)」」


 アンリの心配事はそっちだったらしい。

 だが、ブサを受け入れてくれるような心優しき猫ならば、きっと受け入れてくれるのでは無いだろうか。


「んでジョゼは?」

「ブサの後の子と上手く番えるかが心配なようです」

「「お前もか(ぁ)!」」


 ジョゼもです。だが、ブサを受け入れてくれるような以下同文。


「そういえば、ジョゼはブサの何が良かったんだ?」

「ヴヌ(顔)」

「顔だそうです」

「何で通じてんだ」

「お前も素でアンリに尋ねてんじゃねぇかぁ。今さらだろぉ?」


 気付けばいつの間にか、アンリはジョゼの通訳と化している。そしてロランもまた、それを普通に受け入れていたのだった。物凄く今さらなツッコミである。


 ジョゼの目から見てブサは『イケメン』に映っているらしい。猫ホイホイと化した理由の一端はそこにあるのかもしれなかった。

 良かったね、ブサ。転生時の希望通りにイケメンらしいデスヨ?


「お、引いてる」


 そんな話をしている間にピンピンと引っ張られる竿の感覚に気付き、そちらに意識を集中する。数回の当たりの後、グンッ! と勢い良く引っ張られた瞬間に、タイミングを合わせて一気に竿を引き上げる……!


「助かったぁぁぁ……」

「リリースで」

「やぁめぇてぇぇぇぇ!!」


 何故か海から釣り上げられるブサ。大物を期待していたロランの額に青筋が浮かぶ。視線をブサから奥にずらせば、呆れたように頭を押さえるリュシアンの姿。

 どうやらさっき船から落ち掛けたのを引き上げるのに失敗したようだった。失敗したというよりも、ブサが暴れ過ぎたせいですっぽ抜けて海に落ちたのだが。大人しく引き上げられていれば今頃は普通に船上に居た筈である。


 こうしてリュシアンの頑張りも虚しく海に落ちたブサだったが、念の為にと付けていたハーネスに釣り針が引っ掛かり、上手い事ロランに釣り上げられたらしい。引っ掛からなかったら海の藻屑だった。

 今さらながらに命の危険だった事に気付いたブサの体が震えている。もっと早くに気付けと言いたい。そもそも、船べりではしゃぐな。


「こいつを餌にすりゃぁ、大物が釣れるんじゃねぇかぁ?」

「それも良いかもな」

「いやぁぁぁぁ!!」


 悪ノリするサミュエルに乗っかるロラン。

 俺の期待を返せ。大物の夢を壊されたロランの恨みは深い。ブサを針先に引っ掛けたまま、大きく竿を振りかぶる……!


「ヴニャァァァン!!(そんな餌に私が釣られネコ————!!)」

「」


 何故そのネタを知っている。しかも、微妙に改変までしている几帳面ぶり。

 思わぬ大物釣果にロラン達の視線が集まる。ヴナヴナと鳴くジョゼをくっ付けながら無言で揺れるブサ。


「大物だな」

「大物だなぁ」

「大物ですねぇ」

「いや、首絞まってるかラ!!」


 流石に猫二匹分の体重は、ハーネスがあるとはいえ首に負荷が掛かる。飛び掛かられた後のブサの無言がそれを物語っていた。あえて無言な訳では無い。ガチで声が出ないのだ。

 のんきに『大物』などと言ってる場合じゃ無い。

 慌てて釣り針からブサを外そうとするリュシアンは間違い無く苦労性である。普段からブサを押し付けられてるから、苦労するのは仕方無いね。



 * * * * * * * * * *



「……部屋、せっま!」

「スペースが限られてんだから当然だろ?」


 釣り()を終え、一度部屋に引き上げる。

 釣りの結果は、サミュエルがそれなりの釣果、ロランはブサの後は毒有りの魚しか釣れなかった。毒有りの魚は、いずれも頑張れば食べられなくも無いのが地味にいやらしい。もちろん、頑張って食べる程の価値は無いが。サミュエルの釣った分は自分達の夕食に追加して欲しいと船員に押し付けて来た。新鮮な魚、楽しみです。


 今回の船旅で、一応ロラン達は四人部屋だが個室を取っている。むしろ、少し割り引くので個室を取って欲しいとお願いされた。通常は大部屋で雑魚寝が基本なのだが、ロラン達は……顔が、怖いから……。個室を取って欲しいとお願いしてきた船員はほんのり涙目だった。

 もっとも、ロラン達からしたらそれは願っても無い申し出だったのだが。何しろこちらには人語を喋る猫がいるので。実は船員から申し出られなくとも個室を取る予定だったのは内緒である。


 ブサが狭いと称したこの部屋も一般客からしたら十分に広い部屋となる。そもそも大部屋だと部屋自体は広いが個人スペース的にはベッド一つ分しか無いし、窃盗も日常的に起こるので船旅の間は寛ぐなんて事は出来ないと思った方が良い。貴重品は持ち歩いてて無事でも、部屋に置きっ放しの荷物は気付けば抜かれているなんて事もざらだ。大部屋だと値段は安いが、その分苦労も多いのである。

 そもそも、ブサは自分で金を出している訳では無いので文句を言う権利は無い。それでも文句を言うのがブサクオリティ。


「んで、改めて聞くが……今の時点ではまだ覚悟は決まっていないんだな?」

「直接説明を受けた訳じゃないからな」

「……ふん、なら良い。まだしばらくは船の上だから、その間に決めるも良し。向こうに着いてから決めるも良しだ。ただし、楽な方へ逃げるのは許さない。良いな?」

「へいへい」


 慎重なのは良い事である。自分で相手から説明を聞いた事でも無いのに、他人の又聞き発言を全て鵜呑みにするのはただのアホだ。ギルド員なら自分である程度の情報収集をするのは基本である。その為、ロラン達も

 人によっては、平気で嘘の情報を渡してくるのもいるのだから。楽な狩場がある、と言われてルンルン気分で行ってみれば強敵だらけで死ぬ事になった、なんて事もある。ちなみに、その場合は真偽官が出て来ない限りはグレーゾーン止まりだ。「自分が行った時は楽な狩場だった」と言い張ればそれまでなので。


 そういった点では、今回のブサの慎重さは好ましい。普段の楽な方に逃げようとするが故の消極性では無く、まずは情報を得ようとする点について。もちろん、若干はいつもの思考が働いている事も承知しているが。

 海賊王ごっこしたい。

 ブサがやってたのはそれです。船のへさきでヒャッハー! そりゃ落ちるってものですよ。

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