どうやら、怒涛の展開らしい
「お待たせしました。教会の件はブサが関係する事もありましたので、ロランの部屋に来て頂けますか? サミュエルは既に呼んでいます」
「了解。今行くワ」
寝汚くぐずるブサを叩き起こし、片手に引っ掴むとロランの部屋へ向かう。
一切の抵抗をせずにプランと揺れる様子は、まるでぬいぐるみのようだ。随分と重たいぬいぐるみだけど。
「おう、お疲れさン」
「全くだ。こいつを拾ってからというもの、面倒が多くて困る」
そう言いながらブサをチラリと見るが、ついさっき叩き起こした筈のブサは、リュシアンの片手に吊るされたまま静かに二度寝に突入していた。ロランのこめかみに青筋が浮かぶ。
「叩き起こせ」
「「了解(ぃ)」」
「私がやっても良いんですよ?」
「「…………」」
叩き起こすのに二人が即座に立候補した。もちろん親切心からなどでは無い。
少し遅れてアンリも笑顔で立候補した為、二人で顔を見合わせて無言の相談開始。どうすル? たまにゃ良いんじゃねぇ? 目で話し合って答えはすぐに出た。
「「どうぞどうぞ(ゾ)ぉ」」
「ありがとうございます」
「ついでにそのまま確保しとけ」
「ありがとうございます!」
そんな二人に乗ったロランが悪魔の囁き。アンリの笑顔が深まる。怖い。
知らぬは寝こけるブサばかりなり。
大の字に寝るブサを優しく抱き上げ、逃げられないように両手足を確保。暴れないように軽く腕で保定しながら揺り動かして起床を促す。
「…ん、ぅゔ……」
「おはようございます」
「ピギャぁぁぁぁぁっ!?」
寝起きドッキリ大成功。
流石のアンリも、自分がブサから嫌われている事にはとっくに気付いている。少し位は良い思いをさせてくれても良いじゃないか! という気持ちからの八つ当たりである。
ブサざまぁ。ロランもスッキリ。
最初で起きておけば良かったのに。
離せ! と暴れようとするブサをそのままアンリに確保させ、教会で聞いて来た内容を思い出しながら確認する。
「ブサ。確認なんだが、お前は自分で願って猫になった訳じゃ無いんだな?」
「んな筈あるか!! ……そりゃ、その時の記憶は無いけどな……猫の体じゃいくらチートがあっても意味無ぇし、そもそもハーレムが作れ無ぇじゃねぇか!!」
「人間だとしてもお前じゃ無理だ」
「何でだよ!?」
人間性の問題です。『魅了』があれば話は別だけど、残念ながらブサの場合は猫限定です。
ちなみに、『魅了』があっても本来は全女性に効いてしまうんやで? 外見と年齢を問わず。つまり、現在の猫達が女性に切り替わるだけである。もはや呪いの様相。
「なら、ここからが本題だ。どうやら、お前は変な風に混ざっているらしい」
「あ゛?」
「つまり……猫の精神と人の精神、この場合は魂かも知れないがな。記憶が無いのもそのせいかもしれない、だとよ」
ブサ達は呪いで人が猫に変えられたと思っているが、実はブサの場合は、人が猫の姿に変えられた訳では無い。正確には、猫の体に人の精神をぶち込んだ形となる。
現時点では知り得ない筈だったが、教会の見識ではそう判断されたらしい。
記憶が無いのは猫の体に人の精神が入っている為、脳が容量オーバーした結果だ。つまり、猫の体に入ってる限りは人としての記憶が戻る事は無い。
「はぁ!? なら、どうしろっつーんだよ!!」
「まぁ、それで俺らが得た権利書が役に立つかもしれないんだがな」
オレリアからの薬草採取依頼の報酬として得たものに、別大陸への渡航許可推薦書がある。協力云々がコレだ。推薦書なので必ず渡航許可が得られる訳では無いが、教会の枢機卿直々のものなので許可が得られる可能性は非常に高い。
だが、そんな事を話されてもブサからしたら何の事かサッパリ分からない。
何故、自分の体の事から別大陸の話が出て来るのか。それが何の関係があるというのか?
「いやな、今のままだとどうせ人外だし、いっその事人間やめた方が良いんじゃないかと思ってな」
「はぁ!?」
「ロラン、それだと説明が全く足りていませんよ。つまりですね、今のブサの体には人の精神と、表には出て来ていないのですが、猫の精神が同居している状態なんです。ですので、いっその事分離してしまえばどうかと思いまして」
・ ・ ・ ?
アンリの説明を聞いても、ホゲーと間抜け面。完璧に理解していない。
再度説明を繰り返す。
まず、肝となるのは今回手に入れた渡航許可推薦書。この渡航先の大陸は魔法よりも錬金術が大きく発達している。
錬金術と言われて、ブサがまず連想するのは某錬金術師漫画だ。一部は合ってる。大きく違うのは、戦争には使用されていないという点か。
そして今回、ロラン達が考えたのは『ホムンクルス』という手段である。ホムンクルスとして作った肉体に、ブサの魂をぶち込んだらどうだべ? 的な。
後半いきなり説明が雑になった。
「で、どうだ?」
「いや、どうだと言われても……」
突然言われても困る。
「ホムンクルスっつーのは人型しか存在しないらしい。色々とカスタマイズも可能だそうでな。本来は人工魂を入れるものらしいんだが、人の魂を入れる事も出来るんじゃないかという論文もあってな」
「ほほう?」
ちょっと心を惹かれた。特にカスタマイズ出来るという点について。
詳しく聞いてみれば、戦闘護衛用として屈強なホムンクルスを作る事も、愛人用として美形に作る事も出来ると言う。ますます心を惹かれた。
上手くカスタマイズすれば、美形で戦闘も万能なホムンクルスを作る事も……! ブサの妄想が捗る。
「もっとも、カスタマイズには金が掛かるけどな」
「…………」
一気に現実に引き戻された。
ちなみに、愛人用の方が高額である。そういうのを必要とするのは基本的にお金持ちだから、仕方がないね。
ロラン達が想定しているのは雑用ホムンクルスである。理由、一番安価だから。とはいえ、一般家庭には厳しい金額だ。
期待が行き過ぎているブサの為に言っておくが、既に存在している魂を肉体から分離してホムンクルスにぶち込んだ成功例はまだ少ない。
ロラン達は、実験に協力する代わりに、その分費用を安く出来ないかなとか考えていたりする。ホムンクルス作成依頼はそれなりに高額らしいので。
もちろん、安全性が確立されなければ実験に協力するつもりは無いが。その事も隠さず説明する。
「……つまり、俺に実験台になれと?」
「平たく言えばそういう事になるな。だが、現状で人に戻れる目処は立っていない。お前は人に戻りたいって気持ちは変わってないんだろ?」
「……いっそ猫のままでも……」
「……お前が猫として生きるってんなら、これ以上はジョゼや他の猫を止める義理も無い訳だ。あくまでも、お前が人に戻りたいと希望するから止めてた訳だからな」
猫として生きると決めたなら、今日にでもジョゼを嗾けてやろうと考える。楽な方に流されるブサにはそろそろウンザリだ。いい加減に覚悟を決めろ。
「とは言え、もしもホムンクルスの方法が危険だってんなら、それを強引に推し進める事はしない。別の方法があるってんなら、そっちも考慮するさ」
ただし、値段次第で。お金は大事なので。
某真偽官殿からの支援があるからこそ出来る芸当だ。全部ロラン達の自腹だったら、選択肢にすら入らなかっただろう。
「それにしても、何でいきなりホムンクルスなんて言い出したんだ? 別大陸があるなんて事も初耳だぞ?」
「……そこまでお前に話す義理は無いな。だが、俺らは元から向こうの大陸に渡る希望があったから、ついでに提案したまでだ」
「…………」
ロランの言葉にチラリ、チラリとリュシアンとサミュエルの顔を窺うが、ブサの目ではサッパリ感情を読み取れない。アンリ? 知らない人ですね。
「渡航許可証が発行されるまでは日数が掛かる。それまでに決めておけ。最悪は向こうに着くまでに決めろ」
「……おぅ」
魔法があるなら錬金術もあっても良いよね、的な。
ただし、大陸が違うので船での移動が必須です。
ホムンクルスの用途は主に、雑用・護衛(戦闘用)・愛玩の三種。個人所有が認められているけれども、申請が必要。登録後も色々と大変だったり。




