どうやら、王都に着いても忙しいらしい(俺以外は)
行きの護衛時とは違って、帰路では盗賊に襲われる事は無かった。途中で何度か小型の魔獣に襲われる事はあったが。むしろジョゼに襲われる事の方が多かった気がする。夜這いとか。
「いや、俺らみたいなの襲っても普通は儲からないしな」
「そうなのか?」
「実際には俺らを襲えば大儲けなんだけどな」
「襲えれば、ナ」
ロラン達の場合は各人でマジックバッグなどを持っているし、ギルドでもそれなりに依頼達成率は高いので現金としての資産は多い。大半はギルドに預けているが、普段から持ち歩いている金額もそれなりだ。武器や防具も良い物を揃えている。
だが、そんな奴らを襲うとなったら相応の損害が出る事になる。ハイリスクハイリターンを地で行く彼らだ。下手をしたらハイリスクノーリターンとなる。
逆に、手軽に襲えそうなギルド員だと、ぶっちゃけて言うと全く儲からない。装備はなまくらか、頑張ってもちょっと良い位。張り切って襲って、儲けがなまくらでは涙目である。そのわりに、ギルド員に手を出すとギルドからの討伐隊が嬉々としてやって来たりするので、盗賊達からしたら赤字も良いところ。
パッと見で、あまり荷物を持っていなさそうな連中と、馬車に何かしらの荷物を積んでいる商人。馬だけでも手に入ればそれなりの儲けとなるので、どちらを狙うかと言ったら、圧倒的に商人である。
「女が居たら、また別なんだけどな」
盗賊のお約束的な意味で。
「そもそも、俺らは顔でびびられるしなぁ」
「あぁ!」
「納得すんナ」
自覚はしてても他人からは言われたくないのである。
「そろそろ人も増えてきましたからね。ブサも会話には気を付けて下さいね」
「……おう」
「ん? どうしタ?」
「あいつ、何か変じゃね?」
ブサの言う『あいつ』とはアンリの事である。
ブサの認識しているアンリは、いつも鼻息を荒くしながら詰め寄って来ていたり、気が付いたらジッと見ていたりする気持ち悪い存在だった。
「完全にお前の事じゃねーカ」
「はぁ!?」
「完全に女を前にしたお前の事じゃねーカ」
つまり、どっちも変態。
「一緒にすんな!」
「……自覚が無いって、辛いよナ……」
「勝手に憐れむな!!」
「はいはい。冗談抜きで、ブサはそろそろ黙っとけ。珍獣として売り飛ばされたいなら別だが」
「黙ります」
流石のブサも、珍獣として売られた場合の末路が良いものでは無い事くらいは想像がつく。見世物エンドですね、分かります。
狭い檻の中、凍える風に体を震わせて月を見上げるが、冷たく硬い鉄が外界とその身を阻む。
風雨に打たれ、鞭で打たれ、罵声や嘲笑、好奇の視線を浴び続けて、いつしかボロ雑巾のようになって死んで行く。
元人間である事など関係無い。奴らには、儲けが出るか出ないかが肝心なのだから。人語を話す珍獣として儲けがある内はまだ良い。
だが、いつかは必ず飽きられる日が来る。そうなれば……。
救いなど……無い。
ブワァッ!
「うワッ!? どうしタ!?」
「見世物は嫌だぁぁぁ……」
「……どこまで想像力を飛躍させてんだ、お前は」
全身の毛を膨らませ、涙と鼻水を垂れ流しながら縋り付くブサにドン引きである。
ある意味で、迷宮での事が良いショック療法になったようだった。異世界だからとて、理想のままという訳にはいかないのです。
先日の自称『英雄』(笑)の時は、あれはあれでショックではあったのだが、完全に他人事だったので。
何度も異世界への理想を押し付けてはその度にショックを受けているが、一体いつになったら本気で懲りるのか。
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「(王都よ、俺は戻って来たー)」
「黙ってロ」
黙ります。小声で叫んで、直後に黙った。
周囲には王都に入ろうとする人達が大勢いるので、うっかりブサの声を聞かれては堪らない。
ギルドでは既に盛大にボロを出してしまっていたが、ギルド内の事なのでまだ何とかなるのである。あの時ホールに居た人達には、きっちりと『OHANASHI』もしておいたし。
ブサを連れたリュシアンと、ジョゼを確保したアンリが宿探し。というか、ほぼ確実に今回も『月猫亭』である。
確保されたジョゼは若干不機嫌そうにアンリの腕に爪を立てているが、アンリ自身は全く気にして無いらしい。ニコニコと不気味な笑顔でご機嫌だ。
ロランとサミュエルがギルドに報告と手紙の提出である。
ギルドに行けない事に酷く不機嫌なブサだが、ブサの目的がレアやエステルなのは分かりきっているのでスルー。
二手に分かれた後、サクッと宿は取れたので部屋で寛ぐ一人と一匹。やはり、個室は良い。
プスー、と早くもブサからは寝息が漏れている。
寝ている隙にジリ、とにじり寄って確認。
「ダイエット継続確定」
まだ腹肉プニョップニョやぞ。それでも少し減った分、気持ち弛んだ腹肉が手の上に乗る。そのままプヨプヨと弄べば程良い弾力。
「……確かに、癖になるナ」
タルタルのプヨプヨ。夢中になってプヨる。
プヨプヨ、プヨプヨ
プヨプヨ、プヨプヨ……
「何してんだ」
「っ!?」
突然ロランに声を掛けられて、ビックゥ!! と物凄くビビる。その拍子にブサを吹っ飛ばす程に。どれだけの時間熱中していたのか。
気付けばギルドに行っていた筈の二人も宿に着いていた。呆れた目で見るロランと、ニヤニヤと口の端を歪めながら見るサミュエルの姿にやっと気付いた。
ブサ、完全にとばっちりである。
「い……ってぇぇぇぇ!!」
「ア゛」
吹っ飛ばされた拍子に頭をぶつけたらしい。頭を押さえて転げ回る猫の姿にリュシアンの良心も咎める。
痛みで完全に目を覚ましてしまったブサに平謝りするしか無い状況だ。背後から感じるニヤニヤ笑いが非情に腹立たしい。ブサ自身は何が起こったかいまいち把握してなかったので、一気に畳み掛けて許しをもぎ取る。これで良し。
「で、また面倒な事になったんだが」
「もう聞きたく無イ」
「聞け」
楽しい楽しい、教会からのお呼び出しですよ。
「「「うぁぁぁぁぁぁぁ……」」」
相変わらず話について来れていないブサを他所に、ガックリと野郎三人が項垂れる。……ん? 三人? この場にいないアンリは何処に??
「……アンリハ?」
「部屋でジョゼと何やら作戦会議中だ」
止めて来い。
「怖いから無理」
一体、何を話し合っているんだか。知りたいような、知りたく無いような。
「今回は時間も掛からないらしいし、俺とアンリだけで行って来るからお前らは留守番を頼む」
「「よっしゃぁぁぁぁぁ!!」」
「ブサとジョゼから目を離すなよ」
「「…………」」
どちらがマシか、本気で少し悩んだ。
そして現在、ブサはリュシアンが、ジョゼはサミュエルがそれぞれ監視中だ。ブサの所へ連れて行け! と騒ぐジョゼにサミュエルは閉口していたが何とか宥めて、猫は双方大人しく昼寝中である。先に寝落ちしたのはブサの方だったので、ブサが起きる前に撤去するという約束でジョゼも落ち着いたようだ。
暇潰しに本のページを捲りながら、時折タプタプと腹肉の感触を楽しむ。まったりとした一時。
こうして見ている時は普通の猫なのだが、起きればアレだ。非情に残念である。とは言え、これだけ濃い日々を共に過ごせばそれなりに愛着も……
プスッ
「くっサ!?」
やはり気のせいだったのかもしれない。
慌てて窓を全開にしようとして、窓のところで待ち構えていた猫の姿にドン引きする。シャッ! と勢い良くカーテンを閉めて溜め息を一つ。こっちも何とかしないと、色々と面倒だ。
デブ猫の腹は、触り始めたら何故あんなにも惹きつけられるのか。
タップタプやでぇ……。
タプタプやり過ぎて猫に怒られた私が通ります。しばらく触らして貰えなかった……。
明日は猫又公開日なのでこちらはお休みです。次話は23日となります。




