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どうやら、王都へと帰途らしい

 ギルドの手紙を受け取って数日後、無事にオレリアから依頼完了が認められ証明書が渡された。これをギルドに提出すれば、報酬を受け取って後はこの町を出るだけである。


 ロラン達も早朝に普通(・・)の依頼を受けにギルドに行ってみたが、そこにあったのは戦争だった。迷宮の中で繰り広げられていた争奪戦。それが今度はギルドの中で繰り広げられていた。


「おい! ソレはおれが目を付けた依頼だぞ!?」

「ふざけんな! 早いもん勝ちだろうが!!」

「てめぇっ! この依頼はいつも俺らが受けてんの知ってんだろ!?」

「ハッ! んな事知った事じゃねぇな!!」

「薬草採取は嫌だ薬草採取は嫌だ薬草採取は嫌だ薬草採取は嫌だ……」


 つい最近みたような光景。ただし、性別は逆。それ故に、見た目が非常にむさくるしい。


「「「「…………」」」」


 こんな光景を見てしまえば大人しく依頼を受ける気にもならず、ここ数日は基本的に宿に引き篭もっていた。

 何故かと言うと、ロラン達が薬草を採取して来た事を知って直接依頼しようとする人が出て来た為である。

 美容の為なら凶悪面も何のその。一部の勇敢な女性達に触発され、「赤信号みんなで渡れば怖くない」の精神で大勢で押し掛けて来たのである。迷惑極まりない行為だ。

 宿まで押し掛けられた時には流石にこれ以上我慢する訳にもいかず、衛兵を呼んで強引に解散させたものである。この時ばかりは衛兵達もロラン達に武器を向ける事は無かった。女性達の雰囲気が余りにも異様だったからだ。一安心である。


 ちなみに先日ササミステーキを与えた日の夜、何をどう勘違いしたのか「ダイエット完了」と思い込んだブサが再びダイエット食を出されて発狂していた。その直後に家出し――宿暮らしなので『家出』とは言い難いのだが――宿を鼻先で猫に群がられて白目を剥いていたところをジョゼに救出されている。

 ジョゼはわりとボロボロになって戻って来た。ちぎっては投げ、ちぎっては投げと八面六臂の大活躍だったようである。……猫だよね?


 そんなこんなで、基本的には宿に篭っていたもののそれなりに濃い数日ではあった。


「……と、いう訳で依頼完了報告に来た」

「薬草採取の依頼を……「受けないからな」……証明書をお出し下さい」


 受付嬢にオレリアから受けた依頼の完了証明書を渡す。受け取ったそれをじっくりと検分し、納品された個数のところに目を止めて、ジットリとした目でロラン達を見る。「何故、自分達の依頼は受けてくれないのか」と。

 ロラン達が受けない理由なんてただ一つ。怖いじゃん?


「……はい、問題ありません。これで依頼完了となります。もし良ければ、次の依頼を受けられては如何でしょうか?」

「いや、もうこの町を出るんで」

「……っ! ……あの、もし薬草採取の依頼を受けて頂けるのであれば、報酬は優遇しますよ?」

「いや、もうこの町を出るんで」


 むしろ出させろ。


 執拗に依頼を受けさせようとする受付嬢を、男性ギルド職員達が咎めている間にギルドを後にする。その内の一人はロラン達に手紙を託したあの職員だ。

 彼の縋るような視線に見送られてロランは頷く。必ず、手紙は王都ギルドに、ギルドマスターに届けよう。二人の視線は交差し、


「いつまで見つめあってんだぁ? きっしょいわぁ……」

「実はそっちの趣味カ」


 すぐに逸らされた。全力で違う。



 * * * * * * * * * *



「興味津々で迷宮に入ったら、とんでもなく酷い目にあったでござる。異世界の迷宮怖い」

「あれを普通と思うなヨ」


 無理。インパクトが強過ぎたから。

 別の迷宮に行ったとしても、最初のインパクトはもう二度と消えないだろう。果たしてブサが別の迷宮に入る機会があるかどうかは別として。

 

 遠い目で呟くブサに突っ込むリュシアン。

 そんな一人と一匹を横目に、王都へ向かうロラン達の足取りは軽い。何故なら、やっと町から離れられたから。既に町から数日を経た距離にいる為、流石にここまで追いかけて来る者もいないだろう。

 ロラン達が町を出ようとしたのをどこでどう察したのか、薬草を求める女性達が一斉に全力で追って来たのはとてつもない恐怖だった。


 当時の情景を思い起こせば、町から既に遠く離れた今でも恐怖で体が震える。普段は他人を震わせる事が多いロラン達だが、自分達が震わされるのは貴重な体験である。欠片も嬉しくない。

 護衛対象もいない為、ロラン達の歩む速度は速い。軽快に道を進みながら王都に思いを馳せる。


「王都に着いたら、気晴らしにパ――っとやるか」

「それも良いですね」


 ロランとアンリの言葉にギュリンッ! と勢い良くブサの首が回る。反応し過ぎだ。


「お前はダイエット続行だからな」

「そんなっ!?」


 まだ腹肉は掴めるのだ。『つまめる』のでは無く、『掴める』である。微妙に減ったが、まだまだお腹はタップタプ。ポヨンポヨンのブニョンブニョンである。無念。


「ヴヌ?(運動すれば痩せるわよ?)」


 嫌な予感しかしないので却下で。


 しょぼくれるブサだが、万が一の際に体が動かなければ死ぬだけだ。贅肉は敵なのである。

 前世であれば相当の事が無い限りは死ぬ事も無いだろうが、こちらの世界では死は身近なものである。町中であればまだマシだが、町の外には危険が山ほどある。

 町の外には(・・)山ほどある筈なのだが、今の所ブサが身の危険を本気で感じたのは町中でしか無いのは何故だろうか。


「ダイエットっつーけどよぉ、野菜食って痩せるなら誰も苦労しねーよ」


 みんな苦労してるからこその野菜の出番なのだが。少しでも摂取カロリーを減らさないと、減る物も減らない。

 ブサのダイエットにおける心境は「好きな物を、好きなだけ食べて、苦しまずに、楽に痩せたい」。女子か。


「ジョゼの言う通り、少しでも運動した方が良いですよ?」


 ちなみにアンリの言う『運動』はまともな方である。……ちょっと待って。今、「言う通り」って言いませんでした? やっぱりあなた、ジョゼの言う事理解してませんか?

 恐る恐るアンリの顔を窺うブサ達だったが、アンリのニッコリ笑顔に慌てて目を逸らした。笑顔、怖いです。雰囲気とかじゃなくガチで。


「ま、まぁ……アンリの言う事ももっともだぜぇ? てめぇ、何にしても動かなさ過ぎだろうがよぉ」

「んな事ねぇよ」

「なら、まず今歩け」


 サミュエルとロランの突っ込み通り、現在のブサの場所はリュシアンの肩の上だ。ちなみにこれはリュシアンがブサを乗せた訳では無い。誰に言われるまでも無く、ブサが自ら登って行ったものである。当然の如く、歩くのはリュシアンで、ブサは全く歩いていない。

 ついでに補足しておくと、町中では猫が寄って来る為にリュシアンに乗っているか、カゴに入れられて運ばれているかのどちらかだ。やはり歩いてはいない。


「外は危険なんだろ?」

「今さらだナ」


 危険が嫌ならペットとして飼われてろ。そう吐き捨てたサミュエルの言葉は聞こえない振り。

 サミュエルの言い分ももっともだ、と感じたリュシアンがポイッとブサを地面に落とす。ベチャリと音を立てて地面に落ちたブサに呆れた様子を見せていた。


「着地しろヨ」


 猫なんだから。

 体は猫でも、中身は『ブサ』なのだから無茶言わないで欲しい。


 ベチャリと潰れたままのブサを見つめながら、つま先で軽く蹴り蹴り。

 キシャオ! と異声を上げながらリュシアンに飛び掛ろうとするが、ブサの前に佇む影が一つ。


「こっち来んなぁ――――……!!」

「ヴニャァ――ン!!(待ってぇ――!!)」

「そっちは逆だゾー」

「うっせぇ! 助けやがれぇぇぇぇぇ!!」


 影の正体を悟るや否や、全力で逃げ出すブサ。だが、そちらは今まで歩いて来た方向だ。つまり、迷宮のある町へ戻る方向である。

 のんびりとした声で教えると、何とも可愛くない返事が返って来た。だからと言って、素直にお礼をされたら気持ち悪いのだが。


 逃げるブサと追うジョゼを見ながらホッコリ。先日までの荒んでいた気持ちが晴れやかになっていくようだ。色々と荒み過ぎである。


「いやぁぁぁぁぁ!! 何か増えてるぅぅぅぅぅ!?」


 アンリです。

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