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どうやら、迷宮よりも人の方が恐ろしいらしい

「いいえ、あなた方は呪われていませんね。至って正常です。もし不安なら、念の為に解呪していきますか? 効果はありませんが、その分の経費は頂きますけど」

「「「「いえ、結構です(ス)」」」」


 顔面凶器は呪いじゃなかった。人生って本当に格差社会だよね。

 乾いた笑いの響く室内、決死の思いで採取して来た薬草を手渡す。本数と状態を確認してから、それは丁寧に梱包されてしまわれた。早々に美容液へと精製され直して某枢機卿へと送られるのだろう。

 もちろん、途中で美容液が紛失するなんて事はあり得ない。というか、某虚乳が許さない。それをしたら今度こそギルドと教会の仲が決裂するだろう。残念な事に、一部の女性陣はそこまでの事をしそうな勢いである。


「またまた」

「いやいや、マジです」

「……え?」

「マジです」

「……気を付けます」


 是非、そうして下さい。


 ロラン達の真顔に引き攣った顔で慄く教会職員。ロラン達の真顔(・・)に慄いた訳では無く、その言葉の真意に。顔では無い、筈だ。

 慎重過ぎる程に警戒して丁度良いだろう。


「しかし、こんなにありがとうございます。猊下がさぞやお喜びになるでしょう」

「こちらも報酬が無ければ動きませんよ。ですが、出来れば二度目はお断りしたいですね」


 さぞやお喜びになる猊下に悲報だが、ソレに巨乳になる効果は無い。一縷(いちる)の望みをかけて胸に擦り込み、滂沱の涙を流しながら崩れ落ちる某枢機卿の幻影が見えた気がした。それと、八つ当たりに付き合わされる美貌の枢機卿の幻影も。


「それにしても、美にかける女性達は怖いものですね」

「全力で同意します」


 地下三階は女性の姿はほぼ無かった。極数人、奴らへの耐性を持っている女性がいる位である。もちろん死霊を殲滅する力量もある実力者だ。

 彼女達はそれなりに余裕で薬草を得られる為に理性的である。ロラン達を見かけても排除しようとする事も無く、また強奪しようとする事も無く、黙々と薬草を採るのみ。目標が被った際には自発的に譲ろうとはしないが、ロラン達が引けば次は譲ってくれる程度の理性は持っていた。彼女達は現時点では問題無い。


 地下二階を中心に活動する者達もまだ良い。それなりの実力を持っているので、自力で薬草をそれなりの数確保出来ている者達だ。

 とは言え、ロラン達の採取した薬草を多少強引に手に入れようと考える程には少し理性が擦り切れている。もっとも、「こいつらに手を出したらヤバい」と察すれば引く程度の判断力は残っていた。こちらもまだ良い。


 問題はその上の階層だ。

 実力的にはロラン達には及ばないが何しろ数が多い。薬草を手に入れる為に日々死闘を繰り返し、理性も判断力もぶっ飛んだ連中だ。

 薬草を手に入れる為ならグレーラインもなんのその、地雷原をラインダンスで練り歩く……否、練り踊るような連中だ。何をするか分からない。

 実際にロラン達が薬草を手に入れ、地上へと向かっている最中に薬草を強奪しようと襲い掛かって来るような連中だ。

 セーフかアウトか、と聞かれたらアウトである。


 そんな連中を振り切り、教会への道をひた走り、やっとの思いで薬草を届けたロラン達の疲労は濃い。


 ブサにとっての初めての迷宮は、帰り道こそが本当の試練となった。迷宮から帰ろうとするロラン達が、薬草を求める無数の女性()達に追い縋られ、追われる羽目になろうとは誰が想像出来ようか、いや出来ない。

 ロラン達を追う群れの中には死んだ目の男性も一部混じっていた。自身の彼女や妻、あるいは家族にでも頼まれた(強制された)のだろうか? 彼らに幸あれ。


 リュシアンに担がれたまま、「薬草を寄越せ」と怨嗟(えんさ)の声を上げながら自分達に迫り来る群れを見つめるブサの脳裏に浮かんでいたのは、前世で見ていたゾンビ的なパニックムービーである。女性にキャーキャー言われたいブサでもこれは遠慮したい。全くもって我が儘なおっさんである。『キャー!』と言うより『う゛ぁぁ゛あぁ……!』の方が近かったが。


 現実逃避? その通りです。ブサとしては白目を剥かなかったのが不思議なぐらいである。恐怖に慣れたのか、あるいは恐怖すらも麻痺したのか。


「とりあえず、依頼はこれで達成という事で良いでしょうか?」


 辛うじて疑問形だが、言外に二度は行きたくないという気持ちが存分に込められている。

 地下三階の奴ら(・・)はロラン達がほぼ一掃したので、今頃は地下二階に陣取っていた者達が地下三階へと雪崩れ込んでいる可能性が高かった。そしてその場合、元々地下三階に数少ない女性達がとばっちりを食う事になるのだろう。するとその恨みの行く先はロラン達の可能性が高い。

 となれば、二度目の迷宮探索など受けたくは無いと思うのが心情である。


「これだけの薬草を納品頂ければ、多分、大丈夫だと思いますけど……」


 ロラン達にとって残念な事に、彼にも明言は出来ない。


「もしも薬草が足りないと仰るのでしたら、現状の迷宮を何とかして頂かない限り不可能です、とお伝え下さい」

「……それも合わせて報告させて頂きます」

「よろしくお願い致します」


 とりあえずはこれで依頼は仮終了となる。後は教会側からの連絡待ちだ。


「それでは、私達はこれで……」

「はい、依頼完了の有無はもうしばらくお待ち下s……」


『大変です! 教会の入り口に、死霊に憑かれたと思しき女性が多数押し寄せています!!』


「「「「「…………」」」」」


 ドアの向こう側から聞こえる叫び声。途端に騒がしくなる廊下。誰かが走り回る足音と、武装した衛兵達の金属音が響く。


 残念ながら、入り口にいる彼女達は普通の人間です。ある意味で取り憑かれてますが、美に。


「……裏口をお使い下さい」

「……是非、そうさせて下さい」


 顔を見合わせた彼らは、今、通じ合った。これを放置し続けたらガチでヤバい……!!


 出来るだけ早急な対処をお願いします。了解しました!!

 ロラン達が裏口へと向かうのを見届け、職員は表口へと全力ダッシュして行った。超頑張れ。薬草を奪われないように気を付けろ。護衛はしっかり付けるように、もちろん薬草の護衛は男性で。


 裏口へと回ったロラン達は素早く周囲の様子を探り、誰もいないのを確認してからコッソリと教会から出て行く。まるでこそ泥のようだ。もしも今、誰かに見られたら衛兵を呼ばれて冤罪待った無しだろう。


「んで、そういう事を言ってると、通行人に見られたりするんだよな」

「マジでそういう事言うのやめロ」

「そういうのをフラグって言うんですよね、知ってます」

「だからやめロ……!」


 仲良しさんめ。

 ちなみに、フラグはへし折られました。


「……チッ」

「ジョゼに捧げるゾ」

「ごめんなさいゆるしてくださいそれだけはやめてくださいなんでもしますから」

「ん? 今何でもって言ったかぁ?」

「あ、いえ、何でも無いです」

「何でも……」

「おい、アンリ。今、何を想像した」


 仲良しさん共め。

 念の為に、アンリの妄想は妄想のままで終わった事をお知らせしておきます。ついでに、ブサがジョゼに捧げられる事も無かった事もお知らせ致します。


「ヴニャァァァァァン!!(お帰りなさぁぁぁぁい!!)」


 わざわざブサを捧げずとも、ジョゼの方からやって来たので。


「ひぎゃぁぁぁぁぁ!?」


 流石は野良猫。見事なアンブッシュである。ドアを開けた瞬間の頭上からの奇襲。完璧に気配を消した上での行動、殺気はもちろん出す筈も無いので、ロラン達も全く気付いていなかったのだ。ブサは当然気付く筈も無いので、見事に奇襲を受けた形になる。

 ズリズリと顔をすり寄せるジョゼをギャァギャァ叫びながら引き剥がそうとするブサ。

 もう、お前ら結婚しちゃえよ。


「絶対にいやだぁぁぁぁぁ!!」

 さっくりと迷宮探索は終了。


 ちなみに、教会に押し掛けて来た群れはロラン達の入手した薬草を追いかけてきた模様。

 全員きっちりと追い返されました。ちなみに、一般人女性が多く混じっていたり。自力で手に入れるのは不可能なので。お店からも買えないし。

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