どうやら、迷宮探索は無事に終了したらしい
引き続き衛生害虫のターンなので、苦手な方はご注意下さい。
「ひぎょぉぉぉぉぁぁぁ!?」
「てめぇはぁ! いい加減にぃ! 黙りやがれぇぇぇ!!」
「ぐべふっ!」
ブサの悲鳴に驚き、つられて悲鳴を上げたロラン達。カサカサカサ……! と近付いて来る五十センチを超えるゴ○ブリ達の姿に慌てて逃げ出す。逃走ついでにブサの悲鳴も止める凄腕ギルド員。驚かされた憂さも晴れて、少し気分もスッキリ。
途中で湧き出る死霊は全力で吹き飛ばし、一気に走り抜ける。背後からはブブブブ……ッと空を飛んでいるような音まで加わっていた。後ろは絶対に振り向きたくない。もはや、背後に何匹いるのかすら不明だった。
「この階に居座る女がいないのも納得だナ!!」
「同感だが、今はんな事言ってる場合じゃ無え!! アンリ!」
「分かってますよ!」
逃げながらもきっちり魔法の発動準備をしていたアンリ。ロランの言葉に振り返りざまに一気に魔力を解放し、ゴ◯ブリ共を焼き払う。
ゴウッ! と奴らが一斉に燃え上がり燃え尽き、炎が静まった後には息を荒げるロラン達しか残っていなかった。
「うぁ〜……そういやぁ、虫系は何処でも出るんだったなぁ……」
「おぅえ……っ!!」
「あ~、大丈夫カ?」
大丈夫じゃありません。
精神的なものから激しくえずくブサ。ただでさえ嫌悪感を催す者の多い害虫が巨大化して、しかも多数で襲い掛かって来るのだからトラウマものである。
(興味半分で見るんじゃなかった……!)
リュシアンに抱えられて逃げる最中、怖いもの見たさで振り返ってしまったのが運の尽きだった。地上と空中から襲い来るゴ○ブリの群れ。一度しっかり見てしまうと、もう目を離せない恐怖。数多のソレが焼け死ぬ瞬間までをきっちり見届けてしまっていた。連中に鳴き声は無かったのは幸いである。
ちなみに奴らは普通に人も食らう。死体であろうと、生きていようと。それを聞いてより一層吐き気の止まらないブサであった。全力で自業自得だが。
「おうえぇぇ……っ!!」
連中の焼けた臭いが漂う迷宮内。
パッと周囲を見た限りでは奴らの姿は見当たらない。全力で逃げながらも敵を引き寄せたのが幸いしたのか、この辺り一帯の掃除は無事に完了したようだった。……無事?
「とりあえず、依頼の品を探してみるか」
「……ふと思ったんだガ」
「何だ?」
「薬草って残ってんのカ?」
奴らは雑食である。
「……その時は……」
上の階で、と考えたがあの状態では薬草を得られる気はしない。可能性があるなら三階層目だが……。
「……権力をフルに使ってくれる事を祈るしかないな」
既に教会には今の迷宮の状況を報告済みである。無駄かもしれないが、一応ギルドにも。
美に執着する女性達が引き起こしている事なので、同じく美に拘る女性なら何とかしてくれるかもしれない。そう思ったが故の教会への報告である。
ロラン達としては依頼が達成出来ないのは普通に困るし、ギルドとしてもこれ以上薬草採取の依頼を放置し続ける訳にはいかないだろう。物凄く希少な薬草ならともかく、数もそれなりに取れている筈なのだ。……本来なら。
それに、商人からの採取依頼もかなりの数が受ける者が居ない為、塩漬けになりつつある。薬草の採取自体は難しくないのだが、ギルド員達が採取した薬草を依頼の為では無くほぼ私用化しているのが原因だ。ほぼ、と言うのは採取された薬草は見逃す対価として職員にも一部流れているのと、稀に極々少量が納品されるからだ。その極々少量を納品して来た男性ギルド員達も報酬に釣られて受けた依頼だが、「二度とやらない」と断言したというのが現状。他でも無いロラン達に教えてくれたギルド員である。
何はともあれ、薬草を探さなければ。ロラン達がここに来た目的はソレである。時々思い出したように襲い掛かって来る死霊を消し散らしつつ、薬草を求めて彷徨う。
「あ、なぁ。アレそうじゃね?」
「あン?」
ブサがチャイチャイ、と前足で指し示す先には縁が赤みがかった植物の姿。そして、それに高速で近付こうとするゴ◯ブリの姿。
「燃えなさい!」
ブサが見つけた草に近付くゴ◯ブリをアンリが焼き払う。そしてブサの方を振り向きドヤ顔。だが、誰もアンリの事など見てはいない。
ワサワサと草に近付き、聞いていた薬草と特徴を見比べ、調べる事に夢中だ。依頼の成否に関わるのだから仕方ない。
ションボリと肩を落とすが、やはり誰も気付かない。
静かに落ち込むアンリを放置し、一本目の薬草入手に沸き立っていた。
「よっしゃぁ! 一本目ゲットォ!」
「俺な! 俺のおかげだからな!!」
「おー、珍しく役に立ったな」
もう一人の役に立った人が全く報われていない件について。
普段役立たずの人間が、珍しく役に立つとそれが際立ちますね。もっとも、今のブサは人間じゃなくて猫だけど。
和気藹々とする背後で湧き上がるどろどろした怨念。すわ死霊か!? と振り返ればアンリである。
ジト目で地面を指で抉りつつ、非情に分かりやすく落ち込んでいますアピール。指先が石にガツガツと穴を開けていく……え?
「……あ、アンリ?」
ピタリ
「何かありましたか?」
無表情やめて下さい怖いです。さり気無く石を指が貫通していた。
ブサを犠牲……否、生贄……まぁ、そんな感じで何とか宥め、引き続き薬草を探して行く。今回の採取以来で引き続き役に立ったのは珍しくブサで、あっち、次はこっちと次々と薬草を見つけていく。障害物は遠くにいる場合はアンリかロランが、近くにいる場合はサミュエルとリュシアンが相手取る。
意外にも薬草はそれなりの数が見つかった。その多くはブサが発見した物だ。この上ないドヤ顔。
「俺のおかげだよなぁ?」
間違ってはいないのだが、全力で同意したくない。そもそも、ブサは薬草を見つけるだけで、奴らを排除するのはロラン達がいないと不可能である。ブサだけだったら、バリムシャァ……ッで猫生終了だろう。そんな事になればジョゼとアンリがうるさいのでそんな事はさせないが。
自分が薬草を見つけたおかげと言い張り、対価に酒と飯と女を寄越せと要求する。つまりブサが言いたかったのは飲み屋に連れて行けという事だが、圧倒的に言葉が足りない。一体、どこの蛮族だ貴様は。
それはそれ、これはこれ。
そんな事よりも、手に入れた薬草をさっさと納品するべし。騒ぐブサを黙らせ、地上へ戻るべく階段に向かう。
階段に到着して、何気無く上を振り仰いでドン引き。階上の入り口から覗き込む顔、顔、顔……。死霊では無い。生きている人間だ。ロラン達が階下に下りたのを知って、様子見に来たのだろうか?
「男?」
「……男ね」
「薬草を採りに来たのよね?」
「「「「「男には必要無いわよね」」」」」
いいえ、必要です。というか、依頼の品なので渡せません。だから目をぎらつかせるな。
「ねぇ、お兄さん達。薬草を採りに来たんでしょう? 私達に譲って……ヒィッ!?」
今度は女性の方がドン引き。薄暗い階下から上がって来たロラン達の相貌に面食らったようである。
ただでさえ極悪面なのが、精神的疲労と大量のゴ○ブリに襲われまくったストレスでさらに凶悪化しているのだから無理は無い……かもしれない、ね? ちなみにブサは既に慣れているので大丈夫だ。時々寝起きにびびるけど。
「悪いが、依頼の品なんで譲る訳にゃあいかないな」
「え……えぇ、無理言ってごめんなさいね……」
何度怯えられれば良いのか。もしかすると、自分達の顔も呪いではないだろうか。
どうせこの後教会に寄る訳だし、一度はっきり聞いてみるのも良いかもしれない。
書いてて背筋がゾワゾワ。虫が巨大化するなんて恐怖でしかありません。
ムカデやサソリ、クモに芋虫、ゴ……とか。毛虫もイヤだし、人の大きさの蟷螂とかも想像もしたくありませんね。ハリガネムシの恐怖も付いて来そうですし。
小型でもイヤなのに……!




