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どうやら、初めての迷宮は恐ろしいらしい

 色んな意味で恐怖。

「……まぁ、思ったよりも教会の用事は早く済んだ訳だが……この後どうするか」

「まだ日も高いですし、様子見がてら迷宮に入ってみるのも良いのでは?」


(え゛)


 ずっと黙ってるの疲れたー、やっと帰れるーと思っていたブサに非情な発言。

 もちろん、ロラン達にブサに対するイジメなどといった感情は欠片も無く、どうせ明日から迷宮に入るなら軽く様子見してみるかー、という軽い気持ちからの発言だ。雰囲気だけでも分かっていれば、対策も取りやすくなるし。


 固まるブサをよそに、ロラン達の意見は纏まっていく。装備は常に身に付けている。消耗品の類も十分。そもそも、奥深くまで入るつもりは無いから手持ちのものでも十分だろう。

 ブサが固まっている間にサクサクと歩き出し、正気に戻った時には既に迷宮の目の前だった。


(いやだぁぁぁぁ!! ゾンビとか、グールとか、レイスとかいやだぁぁぁぁ!!)


 前世の知識が珍しく役に立つ。死霊系MOBについてはゲームやラノベ知識の通りであった。だからと言って、何が出来ると言う訳でもないのだが。

 補足として『ゾンビはガチグロ系なので要注意。匂いもキツイよ☆』とサミュエルから忠告されたが殺意しか沸かない。てめぇ、語尾忘れてんじゃねぇよ! そこじゃない。


「うーい、んじゃあ軽く入ってみるかー」

「「「お(オ)-」」」


 様子見なのでダレダレである。ただ一匹、ブサだけは異常な程に緊張しまくっていたが。

 そして迷宮へと変じた廃屋へと足を踏み入れるロラン達。ブサからしたら初迷宮である。

 そして足を踏み入れた一行は、目の前に広がる光景に揃って硬直する事となった。


 明らかに外から見た建物よりも広い空間。だが、驚いたのはソレでは無く……。


「ちょっと! ソレあたしが目を付けてたのよ!?」

「何よ! 手に入れたのはアタシの方が先なんだから!!」

「この一帯は私達のパーティーの縄張りなんだから、手を出さないでって言ってるでしょ!?」

「ハンッ! 勝手に自称する縄張りなんて何の意味も無いね!」

「早く育て早く育て早く育て早く育て早く育て早く育て……」


 目の前にはバーゲンセールで目当ての商品を奪い合うかの如く、一本の薬草を奪い合う女性二人。その奥には草の生えている辺りの土地を縄張りと主張する女性パーティーと、そこに留まる別のパーティー。

 そして入り口のすぐ脇。ロラン達が入って来た場所のすぐ横には、まだほんの小さな……親指の爪位の大きさの、薬草と思しき芽を血走った目で見つめながら呪文のように呟く少女。手が白くなる程に握り締められた鎌が非情に怖い。


 パキッ


 眼前に広がる異様な光景に、思わず後ずさったアンリの足が一本の枯れ枝を踏む。その音は騒々しい筈の迷宮内に何故か響き渡り、その音に気付いた女性達がギロリと振り返る。


「「「「「ヒィッ!?」」」」」


 掠れた悲鳴が全員の口から漏れる。もちろんブサも例外では無い。


「……男?」

「男ね……」

「男だわ」

「何しに来たのかしら? まさかとは思うけど……」

「「「「「薬草が目当てなのかしら?」」」」」


 一瞬でホラーへと変貌する空間。

 ギラギラと目をぎらつかせた女性達の目がロラン達を射抜く。誰一人としてロラン達に気後れする者はいない。むしろ、ロラン達の方が怖じ気づいている。

 それもその筈。この場に見える女性ギルド員と思しき面々は総勢二十数名。その全員から血走った目で睨まれてみて欲しい。普通に嫌だ。ブサでさえも、今この場にいる女性陣に飛び付こうとは考えられない。


「(ほら、お前の大好きな女だろぉ? 遠慮無く気を惹いて来て良いんだぜぇ?)」

「(ふざけんな! 流石にコレ(・・)は俺も嫌だ!!)」

「(遠慮するなよ。女好きの根性見せてみろ)」

「(ブサ、私に気を遣わなくても良いですよ?)」

「(ぜ――ったいに、嫌だ!!)」

「(ちっ、へたれガ……)」


 小声で言い合う男達。ちなみに、ブサがアンリに気を遣うなんて事は有り得ない。


 今の女性達は、ゲームのリポップ待ちのような状態だろうか。

 薬草の生えやすい場所、あるいは薬草の芽が出ている場所に陣取り、目当ての大きさまで育ち切ったところで一気に刈り取るつもりのようだ。こうしてロラン達が立っている間にも、育った薬草を巡って誰が刈り取るかで争っている場所もある。この空間においては同じパーティーのメンバーであろうと敵らしい。刈り取った薬草を手に、本気の殴り合いを始める女性達が怖い。


 どう言えば正解か。女性たちからジワリと滲み出す殺気に身が竦む。ワイバーンを相手にするよりも余程恐ろしい。威圧感が半端無い。

 だんまりを続ける内に、ロラン達は女性達から完全にライバルとして見られていた。

 間違ってはいないのだが、今日は様子見で~……などと言える雰囲気でも無い。どちらにせよ、明日になれば本格的に迷宮入りする予定だったのだから、明日になれば女性達がライバルとなるのは確定である。今この場にいる女性達を見て、ライバルになろうと考えられるかは別にして。


「あ~……お邪魔シマシタ……」


 これは逃亡では無い。勇気ある撤退なのだ。

 そそくさと後退するロラン達の背中をジッと見続ける女性達。本気でホラー。


「様子見が様子見にならなかった件についテ」

「言うな……」

「なぁ……あそこ(・・・)で薬草採れってかぁ?」

「正直なところ、とてもじゃないですけど不可能そうですよね……」


(何か、お化けみたいなの出たけど一瞬で消されてたぞ……)


 ブサも含めたロラン達が硬直している間、薬草の取り合いをする女性パーティーの後ろの方でさり気無く死霊が発生していたのである。だがそれは、そちらを見向きもしないままに女性達に一瞬で蹴散らされていた。出現、即、消滅。

 はっきり言って死霊よりも女性達の方が怖い。美にかける執念は怖いと思っていたが、これ程までとは誰も考えていなかった。


「……とりあえず情報集めるか。一旦宿に戻って、ジョゼを拾ってギルド。その後に飯だな」


 迷宮に居たのは、ほんの十分にも満たない程度の時間だった筈なのにやたらと疲れた。何とも濃すぎる時間だった。

 ロラン達が迷宮から出て来たのを見て近くにいた女性達が一瞬ざわめいたが、手ぶらなのを確認してから舌打ちしていた。もしも薬草を持っていたら直接交渉する積もりだったのだろうか?


 もはや女性の執念には溜め息しか出ない。重い足取りで宿に向かう。


「ヴニャァァァァァァン!!(待ってたわ、ダーリィィィィィン!!)」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 あ、なんか凄いホッとした。


 部屋のドアを開けた瞬間にブサに飛び掛るジョゼの姿に、ロラン達がホッコリした気持ちになる。もちろん、誰もブサを助けようとはしない。ぎゃぁぎゃぁと悲鳴を上げるブサの姿すらも癒しである。

 それだけ迷宮内での光景が衝撃的だったのである。

 だけど、そろそろブサの貞操がマッハでピンチなので助けてあげろ下さい。


「ぶはははははっ!! 兄ちゃんら、知らないでここの迷宮入ったのか!!」

「……そんなに有名なのか?」

「もちろんさ! 何せ、この町がこんだけ賑わっているのは迷宮があるからだからな。前はもっと落ち着いてたんだぜ? けど、迷宮は期間限定だし、それなら今の内に……って考えるのは誰だってそうだろうよ。特に、女はな」

「……っぷはぁ。正直、俺らはその薬草の効果を知らねぇんだがよぉ? どんだけのもんなんだぁ?」

「ん? んー……薬草を使って美容液っちゅーのを作るらしいんだがな? それを顔に塗った翌日から皺が減り、シミが減り……と効果は絶大らしいぞ。俺も又聞きなんで、ハッキリした事は言えないんだ。悪いなぁ」

「いえいえ、私達は全く知らない状態なので十分助かってますよ。ありがとうございます。……あ、このソーセージの盛り合わせも追加でお願いします」

「あいよっ! 他にも聞きたい事があれば、答えられる事なら答えるから聞いてくれよ!」


 ジョゼと合流し、昨夜と同じ看板ペット盛り沢山な食堂での一幕。相変わらず元気一杯の店員に尋ねてみれば、アッサリと返って来る迷宮についての情報の数々。ギルドでも情報は集めてみたが、ロラン達が迷宮に入ろうとしているのを察した女性ギルド員や女性職員に詰め寄られそうになったので、情報収集の途中だったが撤退するしか無かった。そう、撤退である。

 はじめから此処で聞けば良かったと思わないでもないが、ギルドでの情報収集も成果が皆無では無かったので良しとする。


「ま、俺らが狙うのは下層だな。女共の少ない階層で薬草収集だ。良いな?」

「異論は無イ」

「それが無難だろぉなぁ」

「下手に女性を敵に回すのもどうかと思いますしね」

「うっし、んじゃ飯食って早めに休むか。明日は早くから入るからな」


 そう言うと各自食事に戻る。


(とても、美味しそうですね)


 ブサの前に置かれたのは相変わらずの野菜中心のダイエット食。それを憎々しげに見つめるブサの頭上には看板鳥が『ホロッホー』と間が抜けた鳴き声を響かせる。


(焼き鳥にして食ったろか、貴様ぁぁぁぁぁぁ!!)


「ホロッホー(無理やでー)」


 襲い掛かろうとした瞬間にパサパサと飛ばれれば、もうブサには手出しは出来ない。鳥にも馬鹿にされているブサであった。遥か頭上で『ホロッホホホホ』と笑う鳥が憎い。

~補足説明~


 リポップ……ネットゲーム用語で「倒したモンスターが再び戦闘可能な状態で発生する事」ざっくり言うとこんな感じ。


 一部のゲームでは特定の場所に同じモンスターが沸きやすかったりす事がある為、常にその場でリポップするのを待って即狩るという人もいる。時として争奪戦になったりもする。殺伐してたりもする。


 

 ついでに、作中の縄張り発言。すなわち狩場独占あるいは狩場占拠について。

 これは『自分ルール』です。オンラインゲーム中の効率の良い狩場を自分達の『縄張り』と称して、他者がその場で狩りをすると邪魔したり、暴言吐いたり。ネットゲームでは嫌われますのでご注意を……。

 もちろん、この世界でも普通に嫌がられます。やる人はやるけど。どうしてもそれをしたかったら、土地の権利書持って来い!

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