どうやら、新しい町に到着したらしい
「それでは、依頼はこれにて終了とさせて頂きます。こちらが完了証明書ですね。今回は護衛を引き受けて頂きありがとうございました。またご縁がありましたら、よろしくお願い致します」
「いや、こちらこそ。それと、その……色々と騒がしくて申し訳無い」
「いえいえ! うちの娘達も大喜びでしたので! むしろ、こちらの方こそ色々とご迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。あ、それとこれは余り物ですが、良ければそちらの猫さん達に」
「これはどうも、ありがとうございます。良ければこちらをお持ち頂ければ……」
「いやいや、こちらこそ。では、これを……」
「いえいえ……」
「いやいや……」
どこかで見たような光景だ。主にブサの前世の日本で。
贈り物を貰って、返して、のループってどこで止めれば良いんだろうね? 止め時に悩みます。
門前でお礼合戦となっているのを他人事のつもりで眺めているブサを、想定されている悲劇が今まさに襲わんとしていた。リュシアンの小脇に抱えられたブサに近付く二つの小さな人影。
徐にガシリと掴まれ、そのまま小脇から引っこ抜かれてギュッと抱き込まれた。音だけなら可愛いが、抱き締められる側からすると全く可愛くない。
「「にゃぁ〜〜……!!」」
「おぐぅえぇぇぇぇぇ……」
アンリの肩に登って悠々と毛繕いをするジョゼの余裕とは対照的に、ブサは今まさに幼女達に抱き締められて苦鳴を漏らしている最中である。何故かお子様達は普通に触らせてくれるジョゼよりも、中身おっさんのブサの方がお気に入りらしい。
最後の方は幼女達も力加減を覚えてくれたのだが、いざ別れの時となって感極まってしまったようだ。背骨よ折れろ! 身よはみ出ろ! とばかりに渾身の力で抱き締められる。幼女達にそんなつもりは全く無いのだが。
「ほら、二人とも。そんなにぎゅってしたら猫さんが痛いわよ? あなた達だって、パパにおひげジョリジョリされたら嫌でしょう?」
唐突にディスられた父親ガチ涙目。
普段はきちんとひげを剃っているのだが、最後の方は色々とあったので少し放置してしまっていた。その結果、今の彼には無精髭が生えている。その状態で娘達にジョリジョリするとキャーキャー言われるのが面白くてついついやってしまうのだが、嫌がられていた事を知ってしまい本気で涙目である。
同じ経験のある門番が気の毒そうな目で見ている。ジョリジョリされるの、好きな子は好きなんですけどね。どうやら依頼人の娘達はそうでは無いらしい。
母親の言葉を聞いて互いに顔を見合わせた後、素直にブサから離れる幼女達。しかもブサへの謝罪付きで。それを見た父親である依頼人が崩れ落ちた。幼子故の残酷さ。正直が美徳とは限らない。
見ていただけの門番も胸を押さえている。良く見れば似たような反応をしているのが何人か。依頼人よ、仲間はそれなりにいるから元気を出せ。
そんな依頼人……元依頼人と、名残惜しげな幼女達と笑顔の妻に別れを告げてギルドへと向かう。依頼の完了報告と報酬を貰う為だ。決して逃げる訳では無い。
別れ際に、誰かから縋るような涙目で見られたけど華麗にスルーである。子供のいないロラン達に依頼人を慰める事は出来ないし。普段から涙目になりたくなる事はむしろロラン達の方が多いし。だから、これは決して逃げた訳では無い。誰への言い訳なのか。
ジョゼはサミュエルの肩に鎮座し、ブサの入ったカゴはリュシアンが抱えている。その事に文句を言いそうなアンリは宿の手配で別行動の為、この場には不在である。
実際に別れる時に文句は言われたが、ペット同室可の宿を探して欲しいとの言葉に目を輝かせて走り去って行った。この町での滞在中は大部屋になりそうだ、とロラン達が笑い合う。呆れたように溜め息を吐いているブサだが、ジョゼも同室という事に気付くのはいつになるのだろうか? 多分、部屋に入るまで気付かない。だってブサだし。
ちなみに、ロラン達が大部屋だと予想している理由は、個室だと間違い無くブサ達はアンリと同室になりたがらないだろうから。
歩きながら周囲を見渡せばあちらこちらに見える猫達の影。移動中は流石に野良猫も見なかったのでブサもわりと安心出来ていたのだが、やはり猫ホイホイはここでも有効なようだ。背後を見ればピャッ! と一瞬で散らばる猫達の姿。
周囲からのヒソヒソ声が痛い。
前を歩くリュシアンと抱えられたブサにそれを告げ、ギルドへの道を早足で進む。
雌猫達を威嚇するジョゼがシャーシャーとうるさい。ある意味で、ブサの護衛にもなるのでは無いだろうか? ただし、護衛の報酬は番になる事の一択のみ。
時折衛兵を呼ばれそうになりつつも、何とかかわしてギルドへと無事()に辿り着く事が出来た。安堵の溜め息を吐きながらそのまま扉を開けて中へ入れば、一瞬ザワッとホールがざわめく。
そんな周囲の反応も、ロラン達には慣れたもの。一般人にざわつかれるならともかく、ギルド員にざわめかれても鋼の心である。落ち着かないのはブサとジョゼだ。
(……ここのギルド、女の子が多い!!)
(……ここのギルド、雌が多い!!)
考えている事はほぼ同じだが、その意味合いはかなり違う。ブサは興奮のあまりウィスカーパッドがぷっくりと膨らみ、ジョゼは鼻筋に皺を寄せて、敵を見るような目で周囲(の女性ギルド員)を睥睨していた。
猫連れという異様なパーティーを揶揄する者はいない。賢明である。
ギルドホールの状況に、ブサをカゴに入れて来て良かったとこれ程までに思った事は無い。チラリと横目で窺えば、王都よりも多いと思える女性ギルド員の数。中には女性だけで構成されたチームもある程だ。
以前この町を訪れた際には、普通に男の方が多かった筈だと違和感を感じつつ受付へ向かえば、そこにはやはり美人揃いの受付嬢達。ブサの鼻息が一気に荒くなり、ジョゼの毛が逆立つ。
そんな二匹を適当に宥めつつ、ロランが依頼の達成報告と盗賊討伐の報告(半数は依頼人の妻が手掛けた事も)をすれば、魔道具を何やら操作した後に報酬が支払われた。
と、ここまでは良くある依頼達成後の光景なのだが、今日はさらに手紙を手渡された。封に押された印は教会のものである。コレは何かと問えば、間違い無くロラン達宛ての手紙であると言われ、可能な限り余人の入らぬ場所で開封する事を求められた。
この時点で嫌な予感がゴリゴリしているが、受け取ってしまった以上は無かった事にも出来ない。むしろ手紙に興味津々のブサを黙らせる事に必死である。こんな場所で猫が人語を話せば大騒ぎになりかねない。
ホール内にいる女性陣に興奮するブサがこれ以上暴走しない内にギルドを退出し、宿屋の集まっている地区へと向かう。そちらに向かっていればアンリとも合流できる筈だ。
「フシャ――――ッ!!(近付くんじゃないよ、雌猫共!!)」
「落ち着けぇ」
「相変わらずの猫寄せ具合だナ」
「お前はまだ黙ってろよ。人語しゃべったらジョゼをカゴにぶち込む」
(絶対しゃべりません、サー!!)
前足でビシッと敬礼。ジョゼと密着は勘弁して下さい。ブサの弱点がどんどん増えていく。
途中でギルドへ向かおうとしていたアンリとも無事に合流し、たった今確保したばかりの宿へと移動する。部屋に入ってみれば案の定大人数用の部屋で、自分達の予想が当たっていた事にロラン達が含み笑う。アンリは何故ロラン達が笑っているのか理解していなかったが。
そしてジョゼもまた、ブサと同室である事に気付いてニヤリと笑い、そんなジョゼの笑顔から身の危険に気付いたブサが凍り付く。
場所は移っても彼らは平常運転です。
7月中には完結に……!
だが、可能な限り誤字は無くしたいし、うごごごごごg……!! 色々と時間がやヴぁいのデス。




