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どうやら、依頼終了が近いらしい

 幸いと言って良いのか、その日は盗賊の襲撃が最後であった。

 盗賊達の死体から使えそうな物だけは回収しておく。臨時収入になるからだ。折れた剣なども、鋳溶かせば使えるので回収対象である。流石に血塗れになった皮鎧などは売れないので、それらは回収する事無く盗賊達の死体と共に燃やして終了だが。


 結果から言うと、まともに戦ったのはアンリと依頼人の妻だけである。テオドールが関与した女性は、その多くが覇王の影響を受けるのだろうか? 考えてみれば、テオドールの姉もまた色んな意味で規格外だった。

 そして、今回の件に関してロラン達は、護衛という点では殆ど役に立っていなかった為に地味に凹んでいる。これでは、ブサを役立たずと笑えない。

 とは言え、ブサよりは余程役に立っているのだが。

 本来は商人もその妻も、殆どが戦闘力を持っていないという事を改めてブサに叩き込んでおく。何故、コイツを連れている時に限ってこんな規格外の人物が紛れ込んでいるのか。頭が痛い。


 ヒント:テオドールの関係者だから。


 セ○コ、それヒントやない。答えや。



 * * * * * * * * * *



 盗賊の襲撃のあった日以来、やたらと意気投合したジョゼと依頼人の妻の中睦まじさに、嫉妬する人間がもう一人加わった。アンリだけでなく依頼人の商人もである。アンリは漸く自身に対して怯えない猫を見つけたにも関わらず、依頼人の妻に奪われてしまった嫉妬から。商人は愛する妻をジョゼに奪われてしまった嫉妬心からである。どうしようもない男達だ。

 盗賊の襲撃に怯えきった幼女達の精神安定剤として与えられたブサは、その効果を存分に発揮し続けた結果、幼女達にトラウマが残る事は無かった。現在のブサの惨状にさえ、目を向けなければ。


「ぼへぇぇぇぇぇ……」

「……流石に同情すル……」

「正直、悪かったと思わないでも無ぇ……」

「子供怖い」

「うぇへはははは……」


 虚ろな目で何処とも知れぬ場所をボンヤリと見つめ、口は半開き、よだれは垂れ流し、口から漏れる言葉は意味の無い言葉か正気を失った笑い声のみ。

 今のブサの外見に普段のモフヮッサァっな膨張ぶりは欠片も無い。ペッソリと全身の毛が体に張り付いて何ともスレンダー……とも言い切れないが、体の輪郭がはっきりと分かるようになっていた。

 その顔を見るのが躊躇われ、チラリと視線をずらしてみれば不自然に腹が出ているのがハッキリと分かる。普段は毛で隠れていたが、明らかに以前と比べて太り過ぎだ。食事で甘やかし過ぎたかと考えてみれば思い当たるアレコレ。ダイエット決定である。

 ()で釣るのが一番楽なのだが、多用し過ぎていたようだ。反省。


 それにしても、今の状態を見るとブサの弱り具合にはアレよりさらに下があったようだ。スルリとブサの毛を一束(すく)ってみれば何の抵抗も無く指の間をすり抜ける。見事なストレート。癖毛に悩む女性が、さぞ羨ましがりそうなサラサラっぷりである。

 ついさっきまでは恒例行事として幼女達に遊ばれて、三つ編みやら、ポニーテールやら、編み込みやらと色々とオモチャにされていたのだが、いざリボンを結ぼうとしたらスルリとリボンが抜け落ちたのだ。瞬間ストレート、猫にそんな機能は無い。

 せっかくの渾身の作を台無しにされて拗ねた幼女達に、八つ当たり的に毛を切られそうになって慌てて救出したのだが、その時にはこの状態だった。流石に罪悪感が湧き上がる。


 ロラン達とて、ブサの状況を知っていて放置していた訳では無い。

 つい先程、魔獣の襲撃があってなおかつそれが珍しく素材の有用なものだったから、ついついそちらを優先してしまっていたのである。嬉々として角やら皮やら肉やらを解体し、珍味でもある内臓を使った夕食に思いを馳せて盛り上がっていたらブサの悲鳴が聞こえてきたのだ。

 慌てて飛んで行けば、ハサミを握り締めた幼女がブサの毛を鷲掴みにしていたのである。あと少し遅ければブサは毛を刈られていただろう。間一髪だった。

 そしてブサはスコ座りで真っ白に燃え尽きている。


 現在、幼女達は母親がお説教中だ。普通にアウトな行為なので。

 ちなみに、ジョゼはアンリが掻っ攫って行ったので今のブサは全力で虚脱出来ている。ある意味でアンリ、グッジョブ。珍しく褒められ案件だが、意識の無いブサがアンリに感謝する事は無い。多分、これからも。

 ブサ的にはグッジョブでも、この事でジョゼからも嫌われたようだが。ブサが虚脱状態の隙に既成事実を作ってしまおうと画策していたようなので。依頼人の妻よ、何をアドバイスした。良い子は真似してはいけません。


「うぼぁぁぁぁぁぁ……」

「ゾンビか」


 つん、と突っつけばパタリと倒れた。

 倒れた拍子に白目を剥いていたので、ソッ……とリュシアンが顔に白い布を掛けている。それ、人にやったら怒られるやつ。


「ターンアンデッド」

「いや、ゾンビじゃ無ぇからなぁ?」

「知ってる」

「安らかに眠レ」

「合っているような、合ってないような……?」


 ある意味、平和である。


 母親にコッテリと絞られて幼女達も反省したらしく、幼女達のブサへの当たりもかなりマシになった。流石に最近『おいた』が過ぎるとは思っていたので、叱るタイミングを計っていたらしい。ブサの犠牲が報われた瞬間である。


 今は幼女達に挟まれて馬車の中でお昼寝中だ。何とも平和な光景。

 ただし、猫の中身がおっさんという事は考えてはいけない。一瞬でおぞましい光景になってしまうから。ついでに事案も発生してしまう。こちらの場合は正当な事案だが。……正当な事案とは何なのか。

 寝ている間に少し疲労も解消されたのか、サラサラストレートだった毛が少しずつふんわりとし始めている。だから猫にそんな機能は……。

 アンリから強引に逃げ出したジョゼも、幼女とブサの間にムリムリと強引に収まっていた。少しでもブサの傍に居たいらしい。今の様子だけ見れば健気と言えなくもないのだが、その前に既成事実を作ろうとしていたという事を忘れてはいけない。


 ついでに、嫉妬心を燃やしていた商人も、御者台で妻と絶賛イチャラブ中である。リア充爆発しろ。


「何だか、コイツ拾ってから色々と無駄に疲れる事が多い気がするよな」

「それナ」

「仕方無いんじゃねぇ?」

「何で私は嫌われてしまうんでしょうか……」

「「「てめえは少し自重しろ(ロ)(ぉ)」」」


 顔にくっきりと爪痕と付けたままアンリが悲しそうにぼやく。爪痕から滲む赤が痛々しい。別の意味でも痛々しい。

 猫が嫌がっているのに、無理矢理抱き上げてはいけません。眠っている猫にちょっかいを出すのもやめて下さい。ひたすらに撫で回すのもやめましょう。ちなみにアンリは全部ダウトである。


 いちゃつく夫婦の奥に大きな壁が見える。依頼の終了も近いようだ。

 此処まで来ると、流石に魔獣や盗賊の襲撃もほぼ無いと言って良い。かと言って、全くのゼロという事も無いので警戒を緩める訳にはいかない。極稀にだが、あえて町の近くで襲い掛かって来る盗賊もいるのだ。警戒の緩んだ隙を狙うらしいが、諸刃の剣でもある。町の近くで襲う際には、周囲にいた移動中のギルド員達が総出でボッコボコにされる事もあるからだ。

 現に、周囲には他の商人やその護衛達の姿も見える。周りの彼らが気持ち警戒しているのはもはやお約束だ。


 いちゃつく依頼人に町への到着が近い事を伝えれば、いちゃつく事に夢中で全く気付いていなかったらしい。本気で驚かれた。

 周囲の男達の嫉妬の目が依頼人に集中するが、依頼人は何処吹く風だ。持つ者の余裕である。

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