どうやら、二度目の盗賊の襲撃らしい
大歓迎!
「「「「「……は?」」」」」
「良く来たな!!」
盗賊さん達、自分達の聞き間違いかと思いきや、まさかの聞き間違いでは無かったでござる。聞き返したら同じコメントが返って来た。しかも、本気で嬉しそうに見える。
ポカンとしてしまった上に、思わず隠れていた筈の人物までもが怪訝そうな声を上げてしまっていた。痛恨のミス!
だが、そんな油断バリバリの盗賊達を強襲する事も無く、ロラン満面の笑顔。盗賊達が一斉にドン引いた。どんだけだよ。
「いや、俺達は盗賊で……」
「良く来たな!」
「とりあえず、命だけは助けてやるから無駄な抵抗は……」
「本当に助かった!」
「「「「「聞けよ!!」」」」」
本気で盗賊達に感謝しているロランと、たじろぐ盗賊達。ここに、新たなカオスが誕生した。誰か止めて。
「……うぅん、ママぁ……?」
「ぅ~……」
あまりの騒々しさに、眠っていた幼女達も目を覚ましてしまったらしい。そして母親がいない事に気付いて、外に出てしまったか。
目を擦りながら馬車の外へ出ようとする二人を、慌てて止めようとした依頼人の商人だが、一歩遅かったようで幼女達の姿はしっかりと盗賊達の目に入ってしまっていた。二人の幼女を見た瞬間、盗賊達の目がギラリと光る。
「……予定変更だ。金だけで勘弁してやろうと思っていたが、そっちの嬢ちゃん二人も貰ってくぜ? 高く売れそうだしなぁ。大人しくしてりゃぁ、さぞ可愛がって貰えるだろうよ!」
「「ひっ!?」」
生々しい悪意に晒された子供達の身が竦む。幼女達が思わず漏らしてしまった悲鳴を聞いて、盗賊達の顔が厭らしく歪んだ。
この言葉にはロランも捨て置く事が出来ず、盗賊達の意識が逸れた隙に自分の得物を手にする。サミュエルとリュシアンは言われずとも殲滅体勢に入り、嫉妬に狂っていたアンリもまた然り。盗賊達に気付かれぬように魔法を密かに発動させようとしていた時の事だった。
「あぁん……?」
その瞬間、場を一瞬で殺意が支配した。
盗賊達も思わず身が竦んでしまう程の殺意。か弱い得物が牙を剥く。
「うちの娘達に何する気だ貴様らぁぁぁぁぁぁ!!」
地の果てまで響きそうな怒声を上げ、盗賊達に襲いかかろうとした商人が一瞬で地に沈む。
「「「「「……は?」」」」」
これには盗賊達だけで無く、ロラン達も愕然とする。
商人を地に静めたのは盗賊達では無い。もちろんロラン達でも無い。
他に残っているのは愛らしい幼女達と、商人の妻しかいない。幼女達は二人、身を寄せ合って怯えている。とてもじゃないが、父親を静める事など出来そうも無い。つまり、商人を地に沈めたのは……。
「……う、うぅ……。うるせぇ……」
その時、さらに面倒な事に白目を剥いて眠っていた筈のブサまでもが起き出して来てしまった。
呻きながら、よろめく足取りでロランに近付こうとする。今この瞬間、この一行が盗賊に襲われている事など知りもせず。
全く空気を読まないブサの行動に、場の殺意が薄れた。
殺意が薄れた結果、盗賊達の欲も戻る。まさかの人語を話す猫の登場に盗賊達のソレが一気に肥大した。
ほんのついさっき謎の殺意にその身を怯えさせていたばかりだというのに、金になりそうな獲物が追加された事で恐怖を欲望が塗り替えてしまった。その結果……決して言ってはならない言葉を口にする。
「……へ、へへ……っ! ついでにその猫も寄越して貰おうじゃねぇか! 金は奪う。ガキも奪う!! それと、びびらせてくれたお礼だ。てめぇら全員、殺してやるよぉ……っ!!」
その言葉が響いた瞬間、ロラン達の脳裏に浮かんだ言葉は「あ、こいつら死んだわ」である。
この場合、もちろん禁句は『殺す』では無く、『猫を寄越せ』の方だ。誰にとっての禁句かは……今さら言うまでも無い。
直後に盗賊の一人が一気に燃え上がり、全身を炎に包まれながらバタバタと暴れ、悲鳴を上げている間にも地に伏して動かなくなった。
それと同時に、風が吹いたと思った瞬間、盗賊の一人が大きく吹き飛んでいく。そのまま数メートル離れた場所に顔面から着地し、地面に赤い筋を付けて動かなくなる。これで、二人。
一瞬で自分達の仲間が二人も倒された事に驚き、沈黙が支配したその場に、ふしゅー……と呼気が二人分響く。
片方は言うまでも無くアンリで、もう片方は幼女達の母親だ。力強く足を開き、地を踏み締め、右手のこぶしを前に突き出した格好のままゆっくりと顔を上げる。
そこに現れたのは羅刹女の姿。子を守る為に、一人の女が今、修羅の道に足を踏み入れた。
そして、アンリもまたゆっくりと顔を上げ、血走った目で次なる獲物を睨み付ける。
「「殺す」」
そして始まる惨劇。人が燃え、空を飛び、地に埋まり、飛び上がってから後に燃える。
途中で我に返ったロラン達が依頼人の妻を止めて自分達が盗賊を退治しようとするが、裏拳でリュシアンがアッサリと地に伏したのを見て、「あ……コレ、手を出したらダメなやつだ」と理解した。とは言え、何もしない訳にもいかないので、地に倒れた盗賊達の中で息のある者にトドメを刺していく。ついでに、鼻の辺りを赤くしたリュシアンも回収しておく。
次の町が近いならば連れて行くのもありだが、遠いのであれば殺した方が楽だからだ。それに、基本的に盗賊への対処は生死不問だし。
ちなみに、お子様には刺激が強すぎるので、盗賊の一人が燃え上がる瞬間にサミュエルが幼女達を馬車の中に押し込んで、外の様子が見えないようにしている。念の為にと、ブサも幼女達の精神安定剤として放り込んでおく。
そしてふと、もう一匹の猫は……? と周囲を見回した時、盗賊達の中を走り回る小さな影に気付いた。その影は、時に盗賊の足元を走り回って移動を妨害し、時に体をよじ登っては武器を持つ手を攻撃し、時に人から人へと飛び移っては敵の視界を塞ぎ……と一丁前に討伐補佐を行っていた。
「……なぁ、ロラン?」
「……何だ?」
「……『猫』って何だっけなぁ……?」
「……俺に、聞くな……」
この時点で、ブサはジョゼ以下に役に立たないという事が判明した。猫以下である。万に一つ希望を持たせるとするならば、ジョゼが猫ではないという可能性だが……その場合はジョゼは一体何なのかという疑問が浮かんでしまう為、ロラン達は考えない事にした。
ブサが役に立たないのは分かっている事だし。そっちの方が精神衛生上、遥かに良いからだ。『ブサは役立たず』うん、知ってた。
手荒く回収されたリュシアンが呻き声を上げる頃、盗賊達の蹂躙も終わろうとしていた。
炎に照らされるアンリの顔は、怒気も相まってオーガもかくや、と言わんばかりの形相である。片手を赤く染めた母親も、また然り。
アンリはまだ分かるのだが、母親の無双っぷりは何なのか。
腕を振るう度に二の腕がブルリと震え、同時に盗賊が大きく吹き飛ぶ。足を蹴り上げれば太ももがブルンッ! と震え、盗賊がくの字になって崩れ落ちる。掌底を前に突き出せば、腕のみならず腹肉までもがブリュン! と揺れる。その癖、動作は物凄く機敏なのだ。
優しそうでふくよか()なかーちゃんという最初のイメージは、もはや微塵に、綺麗に吹き飛んでいた。今の彼女への印象は、母親という仮面を被った覇王二号である。
「あー……お宅の嫁さん、何者ですカ?」
盛大に目を泳がせながら、リュシアンが依頼人に問うてしまったのも仕方のない事だろう。戦い方が、テオドールに良く似ている。それが故の問い掛けであった。
「彼女の祖父が、テオドールさんの所で働いてるんですよ。その縁で、結婚に至りました」
やはり、関係者だった。微妙に遠いが。
照れ照れと恥ずかしがる商人だが、少し前に当の彼女から地に沈められた事には何の他意も持っていないらしい。その言葉には、ひたすらに妻への愛情と、誇らしさが満ち溢れていた。
商人からそんなピンク色の感情を向けられている妻は、今もなお、ドス黒いオーラを纏いながら盗賊達に蹴りを叩き込んでいる最中なのだが。盗賊達の様子は『お見せ出来ないよ!!』となっている。
自業自得とは言え、悲惨の一言である。
一応言っておきますが、ロランが盗賊達の襲来を歓迎している裏で、きっちりとサミュエルとリュシアンは戦闘態勢を整えていました。
ちなみに、今回の依頼は裏取引モリモリ。依頼人達も危険は承知、故にロラン達が護衛に付けられました。何故か、依頼人の妻が無双したけど。弾ける贅肉!




