どうやら、奴との再会らしい
ブサの元気のバロメーターは毛の弾力。
元気一杯!!→モフヮサァッ
わりと限界 →フンワァッ……
弱る程に毛の弾力が減っていったり。そんな性質、普通の猫にはありません。
いつか、激怒したら超反発素材になるかもしれないデスネー。
「……おい、アンリよ」
ビクゥッ!?
「な、何ですカ!? ロラン?」
「いや、お前が何ですかと言いたい。声裏返ってんぞ」
「いえ、それは、その……何でもありm「何でも無いっつったら毛を植えんぞ」何故ですか!?」
植えられるのは、別に構わないのではなかろうか。むしろ喜ばしいのではなかろうか。何気に耳に入っていたブサ達が心の中で呟く。
と言うか、それは果たして脅しなのか?
そして、どうやって植えると言うのか。是非とも見てみたい。
「毛があった方が威圧感が減るんじゃねぇか?」
「そういや、以前は毛はあったらしいよナ?」
「ん? そういや、そうだったなぁ。……何で毛を剃ったんだったかねぇ?」
「あん? アレって剃ってんのか? ハゲじゃなく?」
「今はもう、毛根も死んでんじゃねぇかなぁ」
「そういえば、眉毛ハ?」
「多分死んでんじゃねぇ?」
好奇心と悪意に満ち満ちた会話に、次第にアンリのこめかみがピクピクと動き出す。その手の話題は本気でヤバイ。
そんなアンリの様子を観察しながらも、ロランが冷静に視線を送る先は馬車に詰まれた荷物の辺りだ。その内の一つが、明らかにモゾモゾと蠢いているのが見て取れる。
何となく見覚えのある気がしたので思い返してみれば、それを積み込んだのはアンリで、荷物の持ち主もまたアンリであった。少なくともロランは関与していない。
「……なあ、アンリ? お前、何を積み込みやがった?」
ビクビクッ!?
「ナ、何モ積ミ込ンデマセンニョ!?」
「噛み過ぎだ」
語尾がどこかの萌えキャラみたいになってんぞ。
半目でのたまうロランの言葉に、焦るアンリが自身の体で蠢く荷物を隠そうとする。が、既に目を付けられている以上無理があるだろう。
何となく聞いていたブサ達も、蠢く荷物に興味津々だ。ブサと違って二人は周囲への警戒も怠っていないが。ブサは守る対象もいないので、好奇心の赴くままにガン見している。
「次の、休憩で、全て、吐け」
「……はい」
ロランに詰め寄られてションボリと落ち込むアンリ。
空気を読んだのか、荷物も蠢くのをやめる。蠢く荷物って、本当に何だそれ。
何となく嫌な予感を感じつつも、荷物から無理矢理に視線を逸らす。すると、ブサの耳に何処かで聞いたような音が聞こえた気がした。ゾワリと首筋の毛を逆立てながら、必死に気のせいだと自身に言い聞かせる。
(あいつが、こんな所に居る筈が無い……!)
さて、ブサの願いや如何に。
「「にゃん~……」」
「げっ!?」
それよりも先に、身近なピンチが訪れたらしい。しかも、今度は誰も止めてくれない。食事は先の休憩で既に終えているから、母親も子供達の好きにせよ、と言わんばかりの慈愛の微笑みだ。
幼女達の寝ぼけ眼がカチリとブサにロックされた。
「「にゃぁ~!!」」
「ぎにゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
慌てて幼女達の手の届かない所へ逃げようとするブサだが、やはり止めたのはサミュエルである。ご丁寧にも両足を縛るオプション付きで。
「ほぉ~ら、猫ちゃんだよぉ~」
「「きゃ――――!!」」
どこかで見た光景再び。ただし、今回の方が色々と絵面が酷い。そしてサミュエルの満面の笑みも漏れなく付いて来ます。怖い。
ブサは、犠牲になったのだ……。スッ、と無言で目を逸らすリュシアンの驚きの白々しさよ。ロランは最初から止める気も無い。
撫でられ、揉まれ、引っ張られ。流石に毟られそうになった時だけは止めて貰えたが、それ以外は基本的にスルーである。
外見だけなら何とも将来が楽しみだと言えるのに、その中身はブサからしたら悪魔に等しい。
幼女達には全く悪気は無いのだが。ただ、自分達の欲望のままに動いているだけで。現に今も、ブサの肉球をプスプスと突きながら満面の笑顔である。……段々と肉球が痺れて来た気がする。
そして気になるのは、必死に我慢するブサの忍耐力。普段とあまりに違い過ぎる態度に、やっぱりロリコンじゃないのか? という疑問が浮かぶ。
ロラン渾身の慈愛の微笑み。両手足を縛られてるから、手は出せないしね。
「……その、本当にすみません」
「いえいえ、お気になさらず」
「おごぉぉぉぉぉぉ!!(気にしろやテメェェェェェ!!)」
「可愛らしいお子さんっすねぇ」
「そうでしょう!? 二人共、妻に似てくれたんですよ! この分なら、年頃になれば男の子からは間違い無くモテモテになるでしょうね!! 私を倒せr……私の代理人を倒せる位の男じゃないと許しませんが!!」
「何で言い直しタ?」
「私、弱いので!!」
それはドヤ顔で言う事じゃない。この男は間違い無く親バカである。それも、わりとタチの悪い方の。
幼女達が可愛いのは認めるが。
「そうでしょう!?」
おい、やめろ。こっちにまで反応するな。カオスが加速する。
「誰に言ったんダ?」
「さぁなぁ?」「知らん」
この反応が正解である。
「つきましては、ロランさん達に娘達に懸想する汚物が現れた際には、是非とも駆除をお願いしたく」
「おい、本音と建て前」
「何か間違いでも?」
「「「…………」」」
娘を溺愛する父親なんて、こんなものである。それにしても、大人気ない。
「ぎじゃぁぁぁぁぁぁ!!(俺をスルーしてんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!)」
「「きゃ————!!」」
父親のまだ見ぬ相手への怨念と、それにドン引く男達と、笑顔の母親、しょげるハ◯と、歓声を上げる幼女達。とってもカオス。
ちなみに、ブサの体は幼女達の腹の下にある為、外からは全く見えない。低反発毛が大活躍である。
だけど……流石に可哀想だから、ブサの上でポヨポヨ跳ねるのだけはもうやめて! とっくにブサのHPはゼロよ!!
「「きゃ————!!」」
あ、聞こえてませんか。そうですか。合掌。
* * * * * * * * * *
「さて、何を連れて来やがったのか、話して貰おうか?」
「……いつまでも隠しておけませんから話しますけど、私の行動はギルドマスターの許可を得ての事だと言っておきます」
夜営に入り、サミュエルとリュシアンに警戒を任せ、道中いじられまくってグッタリしたブサを撫でる……手が止まった。
普段のブサの毛は、手を沈めれば程良い弾力で跳ね返してくる低反発具合なのだが、今のブサは手を埋めればそのまま埋まる。何だこの柔らかさ。
モフヮサァッが普段のブサだとすれば、今のブサはフンワァッ……である。何だこの柔らかさ。大事な事なので二回言いました。
「……ロラン?」
「……っ、すまん。つい」
あまりの柔らかさに、思わず本気でモフっていた。何これ、モッフモフやぞ。
アンリに言われて正気に戻ったが、これでは普段のアンリを揶揄う事は出来ない。それ程の熱中具合であった。そして真顔だった。真剣にモフり過ぎである。
それもまぁ、仕方ない事だろう。何しろ、ロランも列記としたモフリストなので。モフラーよりも上である。
ブサが本物の、普通の猫だったら……恐らく全員がアンリ状態。衛兵さん、こいつらです。
「……ゴホン、んで? 何を連れて来やがった?」
誤魔化そうと咳払いを一つ。正面に座したアンリと、その膝の上に載せられた荷物を見つめる。相変わらず、モゾモゾと蠢く荷物。中身を知らなければ、非常に胡散臭い。
「もう一つ弁解しておきたいのですが、依頼人の方達も私の持ち込んだモノは了承済みです。とは言え、ブサ程は私達の言葉を理解していないので、移動中は鞄に入って貰ってるんですよ」
「……おい、待て。本気で何を連れて来た?」
「ロラン達がギルドマスターに言ったんでしょう? 私がブサに執着するのを何とかするように、と」
「まぁ、似たような事は言ったが……」
「なので、見つけました」
ドヤ顔でアンリが開けた鞄の中。もぞり、と蠢きロランの顔を見上げたのは……。
「……ブサが二匹?」
「この子はメスですよ」
「!?」
「ヴナァン」
手持ち荷物に入る大きさの生き物、なおかつブサへの対抗馬となり得て、それに加えてロラン達に怯えぬ胆力。
すなわち、此奴です。




