どうやら、護衛中の魔獣講座らしい
「にゃあたん!」
「にゃあちゃん!」
「おぐぇぇぇぇぇ……!!」
「「きゃ――――!!」」
日も昇り、街道沿いの休憩所で馬車を止めると、お昼寝から目覚めてお目々パッチリ、ついでにキラキラ。手をワキワキさせながら馬車から飛び降りて来たのは、他でも無い幼女達だ。
食事休憩だと言うのに、母親の用意したそちらには一切の関心を示さずに真っ先にブサに飛び付くのは、猫好きの面目躍如といったところだろうか。幼子の力とは言え、全力で抱き潰されるブサが哀れである。
猫とは思えぬ呻き声を上げるブサに苦笑いを浮かべるロラン達と、申し訳無さそうな依頼人とその妻との対比が見事なまでに正反対だった。もっとも、ブサへの迷惑料も受け取っているし、予め子供達の行動をある程度聞いていた以上はロラン達が文句を言う筈も無いのだが。
ちなみに、この時点ではまだブサは迷惑料の裏に全く気付いていない。多分、まだしばらくは気付かない。
「ほら、二人とも。ご飯が先よ?」
「「はーい!」」
母親の笑いを含んだ言葉に、元気に返す子供達。とても良い子達である。
幼女達がアッサリ離れてくれた事に安堵の息を漏らすブサだが、果たして気付いているのだろうか? かの母親は「ご飯が先」と言っていた事に。ならば、後に何が待っているのかは……お察しである。
そんな事とも気付かずに、のん気に自分達の食事を気にしているブサは大物というか阿呆と言うか……。もう少し裏を読んだ方が良いぞー? と思いながらも、ロラン達がそれをブサに言う事は無い。その方が面白いから。コレに尽きる。
もっとも、自分達に害が及ぶのであれば迷い無く忠告するのだが。今回に関しては自分達に迷惑が掛かりようも無いので放置一択。
無責任と言うなかれ。適材適所、ロラン達は護衛、ブサはおもc……子守である。おもちゃとか決して言ってはいけない。たとえ、そうとしか思っていなくても。
* * * * * * * * * *
今通っているのが街道で、ある程度の脅威は排除されているとは言ってもゼロでは無い。場合によっては魔獣に襲われることもあるし、盗賊が出没する事だってある。
いつぞやのように、何故か護衛では無く商人が盗賊を返り討ちにしてしまう事もあるが。アレは稀な例なので、普通の商人には不可能だと改めて言っておきたい。
食事休憩中は特に襲撃に遭う事も無かったのだが、休憩を終えて出発したら一度目の魔獣の襲撃があった。これは鳥型の魔獣で、空からの襲撃である。
軽くロランが打ち落としたものを間近で見せて貰ったのだが、鳥だと言うのに口の中には鋭い牙がびっしりと生えていた。そして、異様なまでに鋭い嘴。
如何にも異世界っぽい生物の姿に、最初こそ興味津々ではあったものの実際に見たブサはドン引きしていた。良く見れば嘴には得体の知れない肉片がこびり付いていたからである。
ちなみに、この鳥の舌はストロー状になっており、まず上空から急降下で襲い掛かって、獲物の頭蓋骨に穴を開ける。そして、脳を吸い尽くしてから肉を喰らうのだそうだ。エグい。
鋭く尖った嘴は、頭蓋骨に穴を開ける為だと説明され、嘴にこびり付いた肉片は被害者の物だろうと言えば全身の毛を逆立てて慄いていた。
基本的には単体で活動する為に討伐は容易であるが、特に肉が食える訳でも無く、使えそうな素材も無いので労力の無駄にしかならない。敢えて言うなら、一部の羽を矢羽として使える位だろう。
好んで討伐したいとは思わない。
そして、簡単に討伐出来るような魔獣は金にならないものばかりである。なんとも世知辛い。
ブサの知っている良くあるラノベテンプレのように、素材集めでガッポガッポと言うのは実際にやろうとするとなかなかに難しいのだ。
肉として食べられるものであれば、それなりの需要はあるが鮮度が重要となる。そして何より、持ち運ぶには肉は非常に嵩張る。それ故に、町の近くにある森や草原などに出没する魔獣が主にその対象となるのだが、無計画に狩り尽くしては今度は肉の確保に困る為、個体数はギルドできっちりと管理されている。すると、自然とライバルも多くなる為、毎朝の依頼争奪戦は非常に激しい。
それと重要な事だが、きちんとした殺し方をしないと食肉としては使えないような物になってしまう。
肉を獲る為に毒を使えば当然食べる事など出来ないし、内臓を傷付けてしまえば汚染された肉となるのでやはり食用には使えない。切り傷が多ければ、そこから雑菌が入る事になるのでこれまた食用には向かない、など気を遣う事が多い。
それなら食肉では無く、素材として使う物であれば……と思うが、それはそれで大変なのだ。
毛皮などは傷付ければそれだけ価値は下がるし、むやみやたらと剣を振るってズタズタになった甲殻などは何の価値も無い。なるべく原型を保って欲しい爪や牙もまた然り。
素材として買い取ってくれるような魔獣は倒すのに危険を伴う為に、下手したら収入と支出がトントン、あるいは支出の方が多くなり兼ねない。死ねば丸損である。
そういった類の事をブサに話せば、ブサは今さらながらに感心しつつドン引きしていた。
王都滞在中、特にロラン達が討伐に出ている間にテオドールから聞いてはいたのだが、実際の危険から離れた王都内では現実味も薄かったのだろう。生で見る魔獣の鋭い牙や爪、魔獣の生態に興味津々だった。
ツンツン、と興味深そうに前足で既に死んでいる鳥の魔獣を突くブサだが、魔獣の中には爪や牙、下手をすると羽にすら毒を持つモノもいると聞いて慌てて前足を引っ込めている。
その慌て振りにロラン達から思わず笑いが漏れた。ギャイギャイと抗議をするブサだが、子供らが起きるぞーとの言葉に慌てて口を閉ざす。その様子に再び笑う。
「そちらのブサさんは随分と賢いんですねぇ」
「猫にしては随分と頭が良いと私達も思ってますよ。おかげで楽な所もありますが、大変な事も多いですね。こいつの前では下手な事は言えませんしね」
ブサとの一連のやり取りに感心したように話しかけてくる商人。それに答えるロランだが、内心では『まぁ、人間だし』という気持ちで一杯である。
猫としては賢いが人としては色々と駄目出しが多い、とも心の中で呟いていた。
「いやぁ、うちの子達も猫は大好きなんですけどね……こうして外へ出る事も多い身でして、なかなか猫を飼うという事も難しいのですよ。外で逃げられでもしたら魔獣に食べられてしまいますし、そんな事になれば二人がどう思うか……。それで、ですね。その、もし良ければ……なんですが、ブサさんを譲って頂く訳には……」
「あ~……申し訳無いんですが、私達も直接の飼い主という訳では無いんですよね。その、ちょっと訳有りでして……」
「あ、そうなんですね。では、これ以上は失礼でしょうから諦めます」
そう言えばアッサリと引く辺り、商人の引き際は見事と言うべきだろう。
面倒事は誰だって負いたくないものだ。あまりにもアッサリとした引き際に、逆に残念に思ってしまう位である。
いや、譲らないけど。
チラリとブサの方を見れば、相変わらずの様子でサミュエルとやり合っていて、それを止めようとリュシアンが無駄な努力を重ねている。
姿の見えないアンリは? と思えば、馬車の後方を歩いていた。だが、気になる事にその視線は馬車の内部……正確には荷物を載せている辺りへと向かっていて、特に気になる物を載せた覚えの無いロランは首を捻っていた。
むしろ、幼女達に嫉妬心メラメラ燃やしていた方が、余程安心出来るのだが。いや、それは果たして『安心』と言えるのだろうか? 何かが間違っている気がしてならない。
お昼寝した後でも、ご飯食べると寝ちゃう子供可愛い。そんな子供に抱き締められて迷惑そうな猫可愛い……!
異世界魔獣講座でした。
綺麗な倒し方をしないと、まともな稼ぎにはなりません。
ボロボロで穴だらけ&焦げだらけの毛皮と、綺麗な毛皮。どちらに価値を高く付けるかと言われたら、普通は綺麗な毛皮に付けますよね、という事です。
お肉も同様に。内臓ぶち破れて、腸や胃の内容物に塗れた肉を食べたいか? と問われたら、全力で断りたいです。まぁ、気にしない方は気にしないのかもしれませんが。
そんな私は臓物系が食べられない人間です。レバーも苦手。小さい欠片にチャレンジしては、涙目で丸呑みしてます。いつか美味しく思う日は来るのでしょうか……。




