どうやら、門前の平和なひと時らしい
美少女×2 登場!
(嘘吐き……嘘吐きぃ……っ!!)
突然のブサの泣き言だが、リュシアンは一切ブサに嘘は吐いていない。
「にゃんにゃん!」
「にゃんにゃ!!」
翌朝、ついに王都を出立するロラン達が受けたのは家族経営されている商会の移動。その護衛だった。
門前にて護衛対象と出会い、依頼内容と注意事項を改めて確認している。周囲を見渡せば、同じように護衛を引き受けたであろう他のギルド員達が自身の護衛対象と話していたり、さり気なくロラン達を警戒していたりする。いつもの光景だ。
いつもと違うのは、ロラン達の目の前で繰り広げられている光景と、今回の護衛対象に子供が含まれている事だ。
ブサの前にしゃがみ込んで、盛大にスカートの中身を曝け出しながらブサを撫でくり回しているのは二人の美少女。推定年齢六歳位と四歳位の美少女達だった。
「こーらぁ! 猫さんイジメちゃダメよぉ!?」
「いじめてないもん!」
「ないもんー!」
そんな美少女に声を掛けるのは、顔立ちは非常に整ってはいるのだが、幸せ過ぎた結果か推定体重◯◯キロオーバーと思われる少々ふっくらし過ぎた女性である。
恐らくは美少女達の母親なのだろう。顔立ちが非常に似通っている。顔立ちは。
(美少女……っ! 確かに間違ってはいないが……年齢ぃぃぃぃぃ!!)
「この度は護衛を引き受けて頂き、誠にありがとうございます。道中、妻子共々よろしくお願い致します」
「こちらこそ人相の悪い面々で申し訳ありませんが、道中の護衛は万全の体制で行わせて頂きますので、よろしくお願い致します」
(誰だ貴様!?)
アンリだ。
そういえば、会ったばかりの時はこんな感じだった筈なのに。何故ああなったのか。
「にゃんにゃー!!」
(あででででで!?)
幼子とは言え、容赦無くヒゲを引っ張られれば当然、その痛みは相応のものだ。普通の猫ならば痛みに耐えかねて逃げ出すか、爪の一撃が出そうなものだが、人の精神を持つブサは何とか耐えていた。
というか、逃げ出せない。ガッチリと両耳を掴まれている上に、両足も使って抱え込まれてるが故に。幼女、パンツ丸見えである。
「いぎょぉぉぉぉぉ……!!」
流石のブサも、幼子に手を上げないだけの分別は持っている。その為、悲鳴を上げながらも耐えるのみ。
そして美少女改め、美幼女達も自身の行いがあまり良いものでは無いと自覚しているのだろう。母親の目のあるところではブサを撫でるだけだ。目を離せば、この有様だが。
そんな美幼女達を父親である商人が窘める。
「こらこら、猫さんが痛がっているだろう? ……いやぁ、助かります。うちの子達は凄い猫好きでして。いつもなら、王都を離れる際には大騒ぎなんですよ。テオドールさんからの紹介だったんですが、あなた方にお願いして正解でした」
「それはそれは。お役に立てたようで何よりです。テオドールさんとはお知り合いで?」
「えぇ、私の娘達もテオドールさんには懐いておりまして。親としては、少々豪胆過ぎる娘達ではありますが……」
「それはそれは……」
ここは言葉を濁しておくのが正解だ。だが、その豪胆さ故に自分達を恐れないのであれば、それは非常にありがたい事である。
次回、王都に来た際にはテオドールさんにお礼を言わねば……と心のメモに書き記す。『テオドールさんのおかげで怖がられずに済みました』何の事かサッパリだ。
ブサをいじる幼女達を見てもニッコリ笑顔のアンリ。この機嫌の良さが知ってる者達には不気味でしか無い。普段なら幼女達にも嫉妬しかねないのに。いや、する。間違い無く。
ロラン達も、アンリから漂う不気味さに腕をさすっていた。ブサはそれどころでは無い。
「皆さんの荷物も良ければお預かりしますので、馬車に積んで下さい」
「あ、それではこちらの鞄だけお願い致します。それ以外は自分達で管理出来ますので」
「あぁ、はい。それでは、どうぞこちらに」
そんな会話を聞き流しながら、ブサはいつ終わるともしれない苦行に必死で耐えていた。本当に珍しい光景だ。
「グレース、リアーヌ。こっちにいらっしゃい!」
「はーい」「えー……」
母親の呼び声にやっと解放されてグッタリと倒れ込むブサをサミュエルが棒でつついている。なるべく無表情を保とうとしているのだが、口端は歪み、頬は引き攣り、と盛大に失敗していた。
「よぉ。随分と珍しい光景じゃねぇかぁ……。なぁ?」
「……うるせぇ」
「流石に、子供には手を上げないみたいだな。見直した」
そう言いながら頷くロランだが、その言ってる内容はなかなかに酷い。ブサの評価がどれだけ低いか分かるというものだ。
あまりの言葉に怒りに震えるが、幼子の力で散々にいじられまくった体は言う事を聞いてくれない。地面に力無く横たわりながら睨み付けるのが精々だ。
そんなブサを拾い上げて、さり気無く子供達の手の届かない場所に上げようとするリュシアンは良心の塊か。否、顔を窺えば彼も笑い出す一歩手前だった。
「てめぇもか」
ボフゥッ!
半目でのたまったブサの言葉に、最後の抵抗も敢え無く決壊した。盛大に唾が掛かる。
それを見てゲラゲラと笑い出すサミュエルが本気でウザい。
「いやいや、大した光景じゃねぇかぁ。ブサちゃんよぉ? さては、てめぇ……幼女愛好家かぁ?」
「は?」
ニンヨリ、ニヤニヤ。悪意に満ちた笑みを浮かべながら、サミュエルの口から放たれた言葉はとんでもない内容だった。
幼女愛好家。
すなわち、ペドフィリアとかそれ系の意味である。ロリコン、と言った方が聞き覚えはあるだろうか。
この場にいる彼女達は十にも満たぬ幼子なので、そう呼ぶに相応しい対象だ。
(ヨウジョアイコウカ……?)
残念な事にブサにそれは通じていないが。
「あー……つまり、ダ。ああいう小さい子供にも興奮してるのかって事だナ。……性的な意味デ」
何故自分がこんな説明をしているのか、と思いながらもリュシアンはブサに説明していた。周りの視線が痛い気がする。顔が盛大に引き攣っているのは自覚していた。
その説明を受けて、少しずつブサの頭にも言われた内容が染み渡る。次第にプルプルとヒゲが震え出したが、俯いたその表情は窺い知れない。
もちろん、彼らの話している内容は依頼人達の前で話すには不適切過ぎる内容だ。当然、その声は潜められていたが……。
「俺は、巨乳にしか興味ねーよ!!」
ねーよ!! ねーよ! ねーよ……!
ブサの叫びが虚しく、そして大きく響く。
突然大声で叫び出したブサの言葉に、素早く動いた依頼人がササっと妻の体の盾になっていた。色々左右からはみ出しているが。
妻もまた、そんな夫の行動にアラアラと呆れているが、その顔はとても嬉しそうだ。仲が良さそうで何よりである。
周囲にいた独身男共が『ケッ!!』とばかりに顔を歪めているが、仲良し夫婦にはそんな光景は目に入らない。
男ノ嫉妬ッテ、格好悪イヨネ。
そして、話題の渦中にいた美幼女達はと言うと。
「にゃんにゃん、しゃべったー!!」
「きゃ――!!」
ブサの発言を聞いて、甲高い声で叫びながらブサへと突撃して行った。ブサが叫んだ内容には一切触れられていなかったのは幸いである。
幼子故に、理解出来なかったのだとろう。本当に良かった。
突撃はしたものの、手の届かぬ場所にいるブサにその手は届かない。ピョコピョコと飛び跳ねるが、父親よりも背の高い野郎の肩に乗せられたブサは遥か彼方だ。
リュシアンもまた、目を輝かせながら自身の周りをピョコピョコ飛び跳ねる幼女を驚かせないように、そしてうっかり蹴り飛ばさないように身動きが取れない。
ロランは自分達に怯える様子の無い子供達という珍しい光景に傍観に徹している為、リュシアンに救いの手が伸ばされる事は無い。自分に害も無いし。
本気で困り始めたリュシアンを救ったのはこの男だった。
「はぁ〜い、猫ちゃんですよぉ〜」
「「きゃ――――!!」」
今の悲鳴は恐怖から来るものでは無い。念願の猫を手にして、興奮のあまり上げた歓声だ。
ねんがんの ぶさねこを てにいれたぞ!
ちなみに、選択肢は発生していない。
敢えて言っておくが、サミュエルの行動は幼女達への親切心からでは無い。偏にブサへの嫌がらせからだ。ニヨニヨと歪む口と目がそれを物語る。
幼女達の喜ぶ様に、止めようとしたリュシアンの手がパタリと落ちた。
……ブサは犠牲となったのだ。
神妙な顔で瞑目するが、目を向けようとしない方向には予想通りの光景が繰り広げられており、相変わらずの悲鳴が聞こえて来る。それと、歓声。目を閉じたままでも、どっちがどっちとは知れた事。
「「きゃ————!!」」
「ぎにゃるぺぉまびにぁぁぁぁぁ!!」
何を言っているのか分からん。
美少女()。間違ってはいない。
ちっちゃい子可愛いネー。
子供と動物のコンボは最強です。時々動物物凄い嫌がってるけど……グェッてなってるのは思わず合掌するレベル。
ブサはロリコンに非ず。お子様に興味はありません。そこは健常。そこだけは。
明日は猫又公開日なので、次話は29日となります。よろしくお願い致します。




