どうやら、俺は決断したらしい
「まぁ、ブサの妄言は置いといテ」
「そろそろ本題に入ってくれないか?」
「……へぁい」
生贄という言葉的にも、人間の精神を持っているブサを発情した猫の群れに放り込むのは流石にどうかと思ったので、その代わりに散々に猫の本能を刺激して無理矢理運動させまくってみた。強制的に運動させられるのはブサにとって苦痛でしか無いからだ。あと働く事。
その結果、ブサは人としての思考よりも猫の本能が勝っているという事が判明する。
ただし、その本能も女性を前にしたらどうなるかは不明だが。何となく、猫の本能を利用しつつ女性に近付くという狡い手を使う気がしてならない。
汚いなさすがブサきたない。
猫じゃらし的な物、紐、狭い箱、ボールのような物……猫の飛び付きそうなものを駆使して、散々に弄り倒した後のブサはボロ雑巾のような有様であった。デロリと床に垂れ広がりながら、ビクビクと痙攣している。
対するセヴランとリュシアンはスッキリとした良い表情であった。特に、ストレスの溜まりまくっていたセヴランには良いストレス解消になったようだ。まさしくアニマルセラピーである。
(くやしい……! でも……反応しちゃう……!!)
意外と余裕だったようだ。
諸々のブサの醜態を華麗にスルーして、セヴランは大きく溜め息を吐いていた。
「……で、ブサ殿は何しに来たんだったか?」
「……相、談?」
「確か、その積もりで来た筈ダ」
「……王都を出たらブサ殿の好みの女性がいない、というのが相談の内容か?」
「……すみませんでした」
全力土下座。
「それは、人の仕事を妨害してまで、聞かねばならない事か?」
「「すみませんでし(タ)」」
土下座一名追加。
ブサと一緒に騒いでいたので同罪である。ギルティ。
最後の方はセヴランもノリノリでブサを弄りまくっていた気がするが。仕事を終えてからなのでセーフ……か?
「……結局のところは『ロラン達に付いて行くか否か、悩んでいる』という事だろう?」
「出発は明日だからナ」
「……とりあえず、王都には居たいんだよな。エステルちゃんとか、レアちゃんとかいるし。けど、雌猫に絡まれるのは嫌なんだよ」
「アンリなら狂喜乱舞するだろうけド」
「アレと一緒にすんな」
ブサに言われたくない……と言いたいが、全力でその通り。アレとは一緒にされたくない。
「猫が身近にいなきゃ、普通にマトモなんだけどナ……」
「つまり、俺が居る限りアレはあのままか?」
「……何とか別の執着対象を見つけてくれれば、どうにか出来るかもしれないガ……」
「心当たりは?」
「「…………」」
かけらも思い付かない。
そもそも、アンリに近付こうとする猫がいないのが大問題だ。ブサと、ブサに近付こうとする雌猫達を除けばアンリに近付こうとする猫はいない。雌猫達も視線を向ければ逃げ出す位だ。
「アンリには呪いでも掛かってんじゃないか? と思う時もあル」
「お前ら全員な」
「お前こそがナ」
「「…………」」
ラウンドツー、レディ……ファイッ!
カーン! と鐘の音が高らかに聞こえそうになった瞬間、セヴランが視界に入って正気に戻った。コメカミに青筋が見えた気がする。
「つまり、アンリをどうにか出来れば、付いて行くのも吝かではないと?」
「……まぁ、そうだな……」
ブサの個人的感情はともかく、自身の現状を考えると王都を出た方が良いという事はブサも理解している。あくまでも、感情が納得してくれないだけで。何より美人が大好きだから。不確定要素の大きい王都外よりも、美人が確実に存在している王都に居残りたい……!
とは願えども、ブサが自身の能力を自覚した後から、ブサのソレはどんどん強くなっている気がする。後一月もあればバリアを乗り越えられるのでは無いかと思う程に。
しかも、段々と雌猫達のフェイントが上手くなって来ているのだ。一部隊がロラン達の気を惹いている隙に、別働隊がブサの入ったカゴを強襲するという戦術まで使い始めていた。昨夜などは宿の屋根から部屋に入り込もうと、窓に逆さになった猫が張り付いていた事もある。
窓の鍵をしっかりと掛けていたのは幸いだった。
猫って一体何だっけ?
何にせよ、明日にはロラン達はいなくなるので、その時点でブサの未来は確定している。
つまり、今日決めないと本気で色々ギリギリだった。
「(個人的にはお前達に引き取って貰いたい)」
「(残したら残したで、絶対何かやらかすのは間違い無いですネー)」
「(実際問題、問題を引き起こしているしな)」
「(それについては全力で謝罪しまス)」
何とか冷戦状態は脱したとは言え、ブサがレアを怒らせた後に一部の業務が滞り掛けたり、冷たい視線にハァハァしているギルド員が気持ち悪いと苦情が上がったりと、実際にギルドにも影響は出ていた。
後半ブサは関係無い気がする。
ブサはいざとなったら後輩に……と軽く考えていたが、本来秘匿されている真偽官の、それもその中でも特級の能力保持者の関係者ともなれば、陰謀渦巻く王宮で良いように利用されるのは間違い無い。
ただでさえブサには危機察知能力が欠如しているのだから、自衛出来るなどとは考えるのも無謀。
王宮にも汚職に手を染めている者は存在しているのだ。完全にクリーンな国家運営など不可能と考えた方が良い。もちろんそれに気付いている人間もいるが、敢えて目を逸らす事も身を守る為に、時として必要となる。
だが、ブサの場合ならば他者の秘密をペロッと、それこそ何の考えも無しにそれを口にするだろう。下手をしたら、それをネタに強請ろうなどと考えかねない。
想像の中でさえも死亡フラグを乱立させている。特級フラグ建築士の称号を授けよう。
それを考えると、ブサをイアサントの下へ送り届けることはしたくない。必要以上に面倒な事にしかならない気がする。
イアサント自身は、完全なる好意で申し出てくれた事なのだが。
「……やっぱり、こいつらに付いて行くしかねぇのかなぁ……。けど、行きたくねぇなぁ……」
セヴランは直球で相談される事をかわしながら、ブサの思考をロラン達に付いて行く事に誘導していた。単純なブサはすっかりセヴランの術中に嵌まっている。もちろん、リュシアンはセヴランの協力者だ。
ちなみに、ロラン達も既にブサが同行するものとして動いている。買出しも万全だ。
後はブサの一言があれば、何の愁いも無く王都から連れ出す事が出来るのだが。
ちなみに、ブサを連れて行く事にロラン達には何の利も無いのではないか? と思うが、実はそうでは無い。ロラン達にもしっかりと利益は発生している。
実は、ロラン達は先日イアサントに呼ばれて王宮にいった際に、さり気無くイアサントから援助金を受け取っていた。ちなみに、これはブサを保護している間は継続的に支払われる事になっている。
だが、それにはブサの意思でロラン達に付いて行く事が必要不可欠である。だからこそ、ロラン達はブサの意思で「付いて行く」と言わせなければならない。必要と有らば、禁じ手を使ってでも。
「そういえば、ロランが依頼で受けた隊商には物凄い美少女がいたって言ってたナ……」
「行く」
「それも二人」
「絶対行く」
はい、決定。
その即決振りにセヴランが肩を落としていた。前半邪魔されまくったのは何だったのか。
「ワシの所に来る必要は無かったのではないか?」
「いやぁ……いざとなったら証人になって欲しかったんデスヨネー。俺らが強制した訳じゃ無いっテ……」
「笑顔がわざとらしいぞ。まぁ、ワシならあちらの御仁に繋ぎを付けられる可能性もあるしな」
「(ついでに、ブサの思考を誘導してくれる事も期待してましタ)」
「(やはりか)」
悪い大人達だ。
そんな悪い大人にアッサリと騙されたブサは、ご機嫌に尻尾をくねらせていた。明日から同行する事になる美少女との触れ合いを期待して。
ブサを釣るなら『女』が一番。下衆い。




