どうやら、お説教されているらしい
リーダー頑張る、の回です。
「ふぅ……やっぱり猫って水が嫌いなんでしょうかね。物凄い悲鳴でしたよ」
((((((絶対に理由違うと思う……!!))))))
ギルドに入ってきた時と同様、グッタリとした猫を腕に引っ掛けた状態で扉から出て来たアンリは開口一番そう言った。その瞬間、ギルドの中に居た者達の心は一つになった事だろう。
「あ、あ~……なぁ、アンリ? 猫を洗った、んだよな? 余計ボロボロになってるような気がするんだが」
「濡れたから、じゃないでしょうか? 乾けばふっくらすると思いますよ」
布団を日に干せば良いじゃない、かのように軽く言わないで欲しいものだ。ちなみにびっしょびしょに濡れた布団を、自分の手でふっくら乾かすのはかなりの労力を必要とするのを知っておいて欲しい。乾燥機があれば別かもしれないが。
しかし、問題はこの猫である。一応洗うは洗ったようなのだが、何をどうしたらここまでボロボロになるのだろうか?
(……地獄だった)
……だ、そうですよ?
「と、とりあえず、猫さんを乾かさないといけませんよね! ここは私が「いえ、やはり私がこの猫を預かるものとして責任を持ってやりましょう」やりま、いえ、あの……っ!」
再び大人気ないアンリ。何とかして猫を救いたいエステルは、もはや涙目になりかけている。
そしてエステルを慕う、というか狙っている男達の視線が尖っていく。この男なら簡単に跳ね返せるどころか、簡単にへし折ってしまうのだろうが。
緊張感の高まる室内を案じてか、この男が口を開く。
「猫を預かる者の責任って言うんなら俺もそうだろうが。むしろリーダーの俺が、一番の責任を負うべきなんじゃないのかねぇ?」
「ぅぐ……っ、それは、そう、かもしれません……けれど」
本当に往生際の悪い男だ。ロランの目が段々と据わっていく。
「お前のは単に自分がやりたいってだけだろう。責任云々を理由にしてんじゃねえよ。いい加減、リーダーとして見過ごせねえぞ」
至極、正論だ。最初の冷静な男はどこへ行ったのか? そもそも、そんな男はいなかったのかもしれない。
「ついでに言っておくけどな、このままだとお前、完っ全にこの猫に嫌われるぞ。まぁ、もうすでに手遅れかも知れねぇけどなぁ?」
アンリの背後に雷が落ちた。完全に行き過ぎた男だが、本質はただの猫好きなのだ。だからと言ってソレを言い訳にして良い訳でもないし、自分本位に振舞っても良いという事もない。
「そ、そんな……。私は、どうしたら……」
「しばらく猫に近寄んな。まだ間に合うかもしれねえが手遅れだった場合、ちょっと近寄っただけでも本気で逃げ出すぞ。連れ戻すのは俺らなら簡単だろうがな? 二度と信用して貰えるなんざ思うなよ?(そもそも信用されてなかっただろうけどな)」
真剣な顔で何を話しているのか。ちなみに猫が男達を信頼していない、というのはその通りである。
「まずはエサで釣っとけ。テオドールさん止める時に言ってただろう。約束はまず果たせ。だけどな、エサをやるのはお前以外の人間だ」
「そんな! それじゃあ、エサをあげた人に懐いてしまうじゃありませんか……っ!」
「普通ならそうだろうけどな、どうやら猫は随分と頭が良いようだ。俺らの話を理解していたようなところもある。なら、誰がエサを買ったかぐらいは判断出来るだろうさ」
「しかし……」
「あぁ、補足だがな。猫の頭が良いってんなら、今までの会話や行動を全部理解してる可能性もある。アンリよ、お前猫に好かれそうな行動を一度でも取ったか?」
もはや言葉も出なくなったアンリ。全て正論である為、反論しようにも反論しようがない。自業自得とはこの事だ。
しかし、この男達は何を真剣な顔で話し合っているというのか。内容は「どうやったら猫に好かれますか?」だ。いや、どちらかと言うと「猫に嫌われているんですが、どうやったら好きになって貰えますか?」の方が正しいかもしれない。
うっかりギルドから立ち去らずにいた男達も呆れ顔だ。
そして遂にこの男も動いた。
「なぁ、アンリ。流石に俺も今見てた限りじゃぁ、お前の味方にはなれないぞ? どう見ても行き過ぎだ。ちなみに俺は完全な部外者だからな。他人からは少なくともそう見えてるって事だ。ちったぁ自覚しろ」
「アベル……」
「大体はロランの言う通りだな。あぁ、念の為に言っておくが、近づけないからってひたすら見つめたりするのも止めておけよ? 逆にうざがられて余計に嫌われる」
どうやらアベルも友人のフォローは出来なかったようだ。逆に苦言を呈している。それにしても、やけに実感がこもっているように聞こえるのは何なのか。
「えーと、アベルさん? やけに実感がこもっている、と言いますか。その……」
「あぁ、娘がな……初めて出来た娘だったもんで、ついつい構いすぎてな。仕舞いには、完全に嫌われてなぁ……つい先日の事だが、面と向かって言われたぜ『パパきもい! パパなんて大っ嫌い!!』てな……。ハハ……ッ」
やけに実感がこもっていると思ったらまさかの実例だった。人間と猫、女と男の差はあるものの、内容は大体同じだ。
パパにとっては娘に一番言われたくないセリフだろう。「パパ大嫌い」は。
「んじゃぁな。俺はそろそろ家に帰るぜ。娘とは多分、顔も合わせて貰えないんだろうけど、な……」
そう言って立ち去るアベル。煤けた背中が哀れである。立ち去る背中を、その場に居た全員が神妙な顔で見送った。中には涙を流している者や、プルプルと震えている者もいる。
アベルの同士は意外に多いらしい。
「……へっ! ……っぶしゅ!!」
沈んだ場に突然響く盛大なくしゃみ。猫だ。
お忘れかもしれないが、現在まで猫は濡れたまま放置されていた。
「アンリ、とりあえずソレ寄越せ」
有無を言わさぬ口調で命令する。
「もう一度言う。寄越せ」
びしょびしょに濡れたまま、ぐったりと動かない猫の体がロランの手に渡る。気付けば扉から足元までには水が滴り落ち、水溜りが出来ていた。何気なく気付いてしまったエステルの顔が微妙に引き攣る。
「んで、エステル」
「は、はい!」
「休憩時間を潰してしまって悪いが、こいつ拭いてやってくれねえか?」
「「え?」」
綺麗に揃ったエステルとアンリの声。途端にアンリが慌て出す。
「ま、待って下さい! 責任を持つと言ったのは貴方でしょう!? だからこそ貴方にその猫を渡したというのに、何でエステルさんに! それなら私だって……!」
アンリの発言に震えるエステルと、アンリを睨み付けるロラン。一触即発の雰囲気が漂う。
ハァ……
「確かに責任を持つと言ったのは俺だ。だが、俺はそれほど器用じゃねえからな。だから信用しているエステルに頼んだ。何か間違ってるか? もちろん預けっ放しにする気はねえ。俺も立ち合う」
言葉に詰まるアンリ。だが、まだ何か言いたそうな雰囲気は変わらない。
「それと、俺の言った事覚えてるのか? 近付くなって言ったよな」
「ろ、ロランさん。流石にちょっと言い過ぎなんじゃぁ……」
「いや、悪いけど今回の件では譲れねえよ。ギルドに来る前から、コレだからな」
ちょっとだけフォローしようとしたエステルもその言葉にあっさり引き下がる。彼女もかなり思うところがあったようだ。周りの男達も頷いている。
この場にアンリの味方は誰もいなかった。
アベルは既婚者です。息子3人、娘1人で娘が末っ子。
溺愛しすぎて嫌われました。
やっとこの男の暴走を止める事が出来そうです。勝手に動くんですよ、指が。一応これでも修正して抑えた方なんです……。
Q,なぜこうなったんでしょうか? A,見切り発車をするからです
明日はこちらのお話はお休みです。
次話投稿は13日となりますので、よろしくお願い致します。
合わせて猫又転生もよろしくお願い致します。




