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どうやら、王都との別れも近いらしい

 夕食の後、部屋に戻ろうとするロランを呼び止め、昼間リュシアンから聞いた事を尋ねる事にした。一応、防波堤としてリュシアンも同席させる。

 親を同席させる子供か。


「で? 何の用だ?」

「こいつから近い内に王都を出るって聞いたんだけど、本当か?」


 こいつ、とは言わずもがなリュシアンの事である。チラリと視線を向けられたリュシアンが肩を竦める。


「嘘を言ってどうするんだ。お前は何が言いたい?」

「俺はどうなる?」


 そういう事か、と溜め息を吐く。正直なところ、深く考えていなかったというのが真相だ。が、それを言えばこの猫は思いっきりバカにしてくるだろう。

 こいつはそういう奴だ。自身を棚上げして、他人をこき下ろせる時はとことんこき下ろす奴だ。

 それは些か不快である、と考えたロランは逆に聞いてみる事にした。


 それに、付いて来ても来なくても、それなりの物は既に受け取っているし。


「お前はどうしたいんだ?」

「こっちの質問に答えろよ」


 質問に質問で返されるのはお気に召さないらしい。分かっていた事だがやはりムカつく猫だ。

 ピキリ、とロランのこめかみに青筋が浮かぶ。想定内のブサの態度にリュシアンは半笑いだ。もはや突っ込む気も起きない。無言で冥福を祈るだけだ。


「ぶっちゃけた話、お前次第だな。付いて来るも良し、残るも良し。ただし、残るってんなら残る先は自分で決めろ。選択肢はほとんど無いに等しいだろうがな。もし付いて来るってんなら、今後は俺らの指示に従って貰う。付いて来た後で俺らに指示されるのが気に入らねえってんなら、適当な魔獣の餌にする。アンリがどう言おうともな」


 ロランの言い分は間違っていない。ブサの事情を考えると、引き取ってくれる可能性があるのはテオドール、セヴラン、イアサントの三人だ。ブサの事情を知る人間としては枢機卿のヴィルジールもいるが、ブサはヴィルジールに本能的恐怖を抱いているから除外する。オレリア? 虚乳なので論外。

 人語を話せないままであればレアも可能性としてはあったのだが、今となっては不可能だろう。絶対に色々とポロリするのは間違い無い。


 だが、その三人の内セヴランがブサを引き受ける事は無いだろう。そもそも、仕事に忙しくて構っている暇は無いし、引き取る義理も無い。それに、職員達に迷惑が掛かるのは確実だから、絶対に引き取ろうとはしないだろう。

 テオドールに預けられれば、嬉々としてエルミーヌが突撃して来そうな気がする。ついでに、余計な事を話されては困るので、人語を話せないように声を封じられるのは確実だ。その手の魔道具も存在する。

 残るは一人。イアサントの元なら、贅沢という点では申し分無い生活が送れるだろうが、軟禁生活待った無しである。ついでに、王宮の猫達から狙われる事は確実。


 ロラン達と行動するなら、有象無象の猫達からのお誘いは避けられるだろうが、強面野郎共に囲まれた生活。限られた食事と安全の保障されない旅路となる。

 それに、ロラン達の指示に絶対服従というのは自身の無駄なプライドが邪魔をする。だが、従わねば魔獣の餌にされる。これは脅しでは無く事実なのだろう。目が本気だ。


 果たして残るか、行くか、どちらがマシなのか。


「まぁ、数日は準備もあるからな。せいぜい悩め」

「……おう」


 一応は選択肢を与えてくれる辺り、温情は掛けられている。ブサがそれに気付く事は無さそうだが。

 視線でやり取りするロランもリュシアンは互いに苦笑いだった。


 この分だと、恐らくは自分達に付いて来る事になりそうだ。


 何となくだが、ロランはそう確信していた。ならば、今の内にブサ用の食事(エサ)も準備しておいた方が良いだろうと、テーブルに向き直って今後の買い出しリストに加えておく。もちろん、ブサには気付かれないように。リュシアンにはバレバレだが。

 素直になれない大人である。


 ブサとリュシアンが部屋に戻った後、そういえば……と、リストを書き出しながらふと思い出した。

 何やら最近、アンリの様子がおかしい気がする。具体的には、先日ブサを飲み屋に連れて行った後からだろうか。

 だが、アンリの様子がおかしいのはいつもの事だ、と考えてサクッと意識から消す。安定のアンリの扱いである。一応は貴重な魔法使いなのに。


 先日の魔獣討伐で減った物で補充の必要になった物と、以前から要望の出ていた物、ブサを連れて行くのであればリードやハーネスも必要だろうか? などと考えながらロランの夜は更けて行った。


 ちなみに、ロランと別れて部屋に戻ったブサだが、どうするか考え始めた直後に寝落ちしたのはお約束である。見事なごめん寝を披露していた。

 ブサがごめん寝をした瞬間、何かを受信したらしいアンリがソワソワと隣の部屋を窺っていたのは余談である。



 **********



「あー、あー……」


 薬の効果が完全に切れてからの朝のブサの行動は、発声チェックから始まっていた。どうやら、今日も問題なく人語を話せるようである。

 その事に安堵の溜め息を吐きつつ、昨夜ロラン達に付いて行くかどうか考えていた最中に寝落ちした事に気付いて愕然としていた。


「おい、飯行くゾ」

「よっしゃ!! 飯!!」


 アッサリと食欲に負ける程度のモノだったようだが。


 朝から妙にご機嫌なアンリを気持ち悪く思いながらも、相変わらず美味な朝食を終える。朝食時に暴れるアホも居なかった為、非常に和やかな雰囲気だった。

 ちなみに、今朝は野菜たっぷりのリゾットと、皮がカリッと焼き上げられた鳥のハーブ塩焼き、ベーコンの散りばめられた温野菜のサラダと、野菜と果物のミックスジュースである。デザートとしてフルーツヨーグルトも付いていた。

 はっきり言って、人であった前世よりも余程良い物を食べている。前世で一番良く食べていたのはカップ麺だったと思う。あとコンビニ弁当。


 今ではすっかりロラン達と同じものを食べているブサを、同じ宿に泊まっていた誰かが通りすがりにモフって行った。が、そんな事にも気付かない程に朝食を終えたばかりのブサはご機嫌だ。単純過ぎる。そして悩みはどうした。


 ペロペロと食後の手入れをするのも随分と様になったものだ。猫に近付いている、と言えるかもしれないがその辺りの真実は闇の中である。

 基本的な行動は、特に意識せずとも出来るのは幸いだった。良い事も悪い事もあったが……。主に毛繕い的な意味で。毛玉おげー、は未だに慣れない。


 食後はギルドに顔を出して目ぼしい依頼を探すと言うロランと、ロランに付いて行こうとするブサの間で攻防戦が繰り広げられた。だが、昨日のレアからの接近禁止令がある為にブサの敗北で終了だ。ブワリと涙が浮かぶが、ブサを気の毒に思う人間は此処にはいない。

 サミュエルは、例の如く回復薬の調合を担当するとの事。リュシアンはロランに渡された買出しリストの中から日持ちのするものの買出しだ。


「あ、すみませんが、私は別行動でお願いします」

「「「「……っ!?」」」」


 ここでアンリから驚愕のコメント。ブサへの付き纏い(ストーカー)行為をしないと自ら言い出すアンリに、ロラン達から驚きの声が上がった。普段なら無理矢理同行しようとして、ロラン達に諭され、渋々諦めるのに。

 しかし、ロラン達はともかくブサまで驚いてどうする。お前は喜ぶ側だろうに。


「どうしたアンリ!? 熱でもあるのか!?」

「いえ、私は……」

「外、(ひょう)でも降ってねぇだろうなぁ!?」

「……いえ、あの」

「まさか、王都に魔獣の群れガ……!?」

「…………。……怒りますよ?」


 わ――! と一斉に散らばる野郎共。ブサもリュシアンに回収されて行った。

 一人残されたアンリが溜め息を吐く。


「……まぁ、好都合ですけどね」


 ニヤリ、と笑った顔をうっかり見てしまった食堂の客が盛大に肩をビクつかせていた。流れ弾の被弾した彼の一日に幸あれ。


「……ところデ」

「……ぎなー?」


 食堂を出た所でリュシアンがブサに話し掛ける。流石のブサも、外で人語を話すのはまずいと自覚したのか、外では今まで通り「ぎにゃー」と鳴く事にしていた。物凄く棒読みだけど。

 ちなみに、今のブサの位置はリュシアンの小脇に抱えられていた。足がブランと揺れている。


「お前は宿屋で待ってるべきだったかもナ」

「……? ……っ!?」


 じわり、と縮む包囲網。フルメンバーでいる時よりも猫達の距離が近い。

 ブワッ!? と尻尾を爆発させながら宿に戻ろうとジタバタ暴れ始めるブサ。じわりと輪が縮まる。リュシアンが視線をそちらに向ければ輪が離れるが。


「……回転しながら移動すれば、猫達を寄せ付けないで済む……カ?」


 方法としては有りかもしれないが、やったらただの変人だ。衛兵襲来待った無しである。

 本人は考えてもいないけど、王宮で飼われる場合は去勢待った無し。だって、王城で飼われるような猫ですから、血統書付きの由緒正しいお猫様達なのです。雑種混じりなんて……! となるのは確実。

 モギモギされます。


 そして仲良し野郎共&悪巧み中のアンリ。

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