どうやら、オアシスは儚く消えたらしい
人語を話すようになったブサ+女性=怒り
解呪薬の副作用で人語が話せるようになった途端、ブサがギルドに行きたい! と騒ぎ出した。目的は言わずと知れたエステルとレアが目的である。
渋るロラン達だが、ぎゃぁぎゃぁと喚くブサにフランシスが部屋に怒鳴り込んで来た結果、全員が部屋から追い出されてしまった。しばらくは宿に戻る事は不可能だろう。
外に追い出されてもなお、喚こうとするブサに青筋を浮かべるロラン。さり気無く離れる他三人。
このまま黙らせてもブサは決して諦めようとはしないだろう。女に対する執着心だけは大したものだ。もちろん、褒めてはいない。
このテンションのブサをギルドに連れて行けばどうなるか……。エステル達には迷惑にしかならないだろうが、この女狂いには良い薬になるのでは? と考える。ニヤリ、と笑って一言。
「んじゃ、行くか」
どこへ? とは、誰も聞かない。
ロラン達に連れられてギルドに着いたブサが真っ先に向かったのは、エステルやレア達受付嬢の元だ。ギルド入り口の扉を潜るなり、大声で叫びながら突撃する。
「エステルちゃぁ~ん! レアちゃぁぁ~ん!!」
「「っ!?」」
突然名を呼ばれた事に盛大に肩を揺らす二人の受付嬢と、馴れ馴れしく二人の名前を呼ぶ不埒者に掣肘を加えようとしたギルド員達は、次の瞬間唖然として口を開ける結果となった。
「エステルちゃぁ~ん! レアちゃぁぁ~ん!!」
一直線にこちらへ向かってくる毛の塊、声の出所はそこからだ。その正体は言わずと知れたブサである。エステル達はソレをキチンとブサだと理解しているし、ギルド員達も同様に。だが、理解出来ないのは、何故ソレが人の言葉を話しているのか? と言う事である。
ギルドの中は疑問符に満たされていた。
「エステルちゃんっ! レアちゃんっ! 俺が誰か分かるか!?」
わからいでか。そもそも、見た目は全く変わっていないのだから。
「えぇと……ブサさん……ですよね?」
「そうだぜっ!」
「「「「「…………」」」」」
見た目は猫、ただし聞こえる声はおっさんの破壊力よ。せめて、声だけでも可愛らしい……は無理か。元々だみ声だった。
それはさておき、猫の姿のブサとはそれなりに交流のあったエステルとレアの二人も真顔になる程である。それ以下の人間達の心情や如何に。ギルド員の一部にはさり気無く己の得物に手を掛けている者すらいた。
それ程に今のブサは胡散臭い生物なのである。
「……ロランさん、すみませんが説明をお願い出来ますでしょうか?」
そしてエステルは考えるのをやめた。
「お、おう……。ま、ちょっとした薬の副作用でな……こうして人の言葉を話すようになっちまったんだよな。正直、俺らも戸惑ってる最中なんだよ」
そう言いながら頭を掻くロランの顔は、本人の言う通りに困惑していた。主に、今まで以上のブサのうるささに。この件について一番楽観視しているのはブサだろう。
今現在もブサは、鼻の辺りを膨らませながらレアにマシンガントークをぶちかましている最中だ。話し掛けられているレアは困惑しっ放しである。ついでに、若干腰も引けていた。
それどころか、ブサが話せば話す程に段々と表情が死んでいっているように見える。
「だからね、レアちゃん!」
「あの」
「ん? 何かな? レアちゃん?」
「申し訳ありませんが、私は現在仕事中ですので用が無いのであれば話しかけないで下さいますようお願い致します」
「え? や、だってさ……「申し訳ありませんが、私は現在仕事中ですので用が無いのであれば話しかけないで下さいますようお願い致します」……えと」
完全に表情を消したレアが、ブサに最後通告を突き付けた。
この口調になったレアを、これ以上無駄話に付き合わせる事はその人物だけで無く、その場にいる他の者にも被害が降り掛かる事になる。それを知っているロラン達を含むギルド員全員が慌ててブサを確保し、そのまま口を塞ぎ、ついでにレアに近づけないように拘束していた。ちなみに、拘束担当はいつもの人である。ロープ強し。
ムガムガと喚こうとするブサを鞄に放り込み、レアの視界から(物理的に)消す。
それを確認したレアがニコリと笑うが、その目は決して笑ってはいなかった。かなり本気のお怒りである。
ブサの性格は知っていたのだが、先日の首輪矯正である程度自重というモノを覚えたと考えていたロラン達のミスだ。うっかり拘束せずに来てしまったが故の事故。そう、これは事故である。
間違っても、ブサに痛い目を見せようと思ったという訳では……。
「それで?」
「「「「すみませんでした(タ)」」」」
受付嬢を敵に回す事は、ギルド員にとっては死とも同義である。些か大袈裟に思うかもしれないが、ギルドの受付嬢の影響力は大きい。冷たい視線を向けてくるレアには全力で謝罪するしか無い。
関係無いが、冷たい目で見据えられるロラン達を、羨ましそうに見て来るギルド員がいるのは何なのだろうか。良く見ればいつぞやの変態である。相変わらずか貴様。
しばらく冷たい目でロラン達を睨んだ後、軽く溜め息を吐いて一言。
「今後、私には近付けないようお願いします」
「了解した」「絶対に近付けさせません」
ロランのセリフは保身の為だが、アンリは自らの欲望の為に言っている気がする。ブサの元の姿を見たにも拘らず、未だに執着しているのが不思議でしか無い。見た目が猫ならそれで良いのだろうか?
レアの口からキッパリと拒絶の言葉を聞かされたブサは、鞄の中で密かに涙に濡れていた。だが、それははっきり言って自業自得である。
先程のレアに無遠慮に話し過ぎたが故だ。まだ言葉を話せない内は良かったのだが、言葉を話せるようになって浮かれた挙句、デリカシーの無い発言を繰り返せば嫌がられるのも無理は無い。
それに年頃のお嬢さんからしたら、自分が抱き締めたり撫でたりしていた猫の中身がおっさんで、自分に色々と邪な感情を抱いていると分かったら近付きたくないと思うのも当然だろう。とうとう、ブサの下心がレア達にばれたのである。
よく見れば、レアだけで無く他の女性職員達の目も冷たかった。
やはり、どう考えても自業自得である。
「話せるようになった以前、毛並みを快く触らせて頂いた事には感謝していますが、先程のような事を考えていたと知ってしまっては以前と同じように接する事は不可能です。他のギルド職員にも、同様に近付けさせないで下さいね。万が一にも、本人が望むのであれば近付いても構いませんけど」
「重ね重ねすまん」「すみません」
「えーと、よろしいでしょうか……?」
キッパリ、ハッキリと宣言するレア。他の受付嬢や女性職員達への接近禁止令も申し渡されて、ブサの数少ない心のオアシスが一つ減った瞬間である。
レアの静かな怒りに謝り続けるロラン達に、恐る恐る小声で声を掛けて来たのはエステルだった。チラチラとブサの詰まった鞄を気にしながらも、手元のメモを確認すると奥へ続く扉を指し示す。
「ギルド長宛に手紙が届いたのですが、ロランさん達にも関係ある事のようで……ギルドに顔を出した際に顔を出して欲しいとの事です。今日は来客もおりませんので、もしロランさん達が良ければこのままギルドマスターに挨拶頂ければ、と思いまして……」
「ん? んー……まぁ、俺らとしては特に今日は予定も無いしな。もうしばらくすりゃ、また適当な依頼を受けて出立する予定だし」
「でしたらなおの事、顔を出して頂けると助かります。今日の予定が無いのでしたら、この後お願い出来ませんか?」
エステルの言葉に少し考えるが、他の三人も異論が無さそうなのでこのままギルドマスターの元に顔を出す事にする。ちなみに、ブサの意見は最初から無視だ。そもそも、口をきっちり塞がれた状態で鞄に詰められているので、異論を申し立てる事が出来る筈も無い。
ムゴムゴと暴れる鞄を担ぎ直すと奥へと進む。途中で暴れ出したブサの足が脇腹に食い込むという事故があったが、こちらもウッカリブサの入った鞄を落としてしまうという事故があったのでお相子である。事故とは怖いものデスネ。
「ギルドマスター、何か俺らに関係がある手紙が届いたとの事ですが……?」
「まぁ、正確にはブサ殿に関係があると言えるのだがね。ある意味では私にも関係ある事なのだが」
部屋に通されてすぐに話を切り出したロラン達に苦く笑うと、セヴランが一通の封筒を取り出す。つい先日にも見た覚えのあるモノだ。
ソファに腰掛けながらブサの拘束を解く。騒ぐならアンリに抱かせるぞ、と脅せば一発で大人しくなった。だしにされたアンリは不満そうだが。むしろ騒げという目でブサを見ている。
目を合わせようとしないブサと、ギラギラとした目で見つめるアンリ。謎の攻防戦がここに勃発していた。
「ギルドマスターにも関係がある、とは?」
「うむ、お前達にはこれまで言っていなかった事なのだがな。実は、ワシも元異世界人なのだよ」
自称『女性に人気のある』男性の独り語り程うざいものは無い、と時々思います。
良く分からない自慢話聞かされても「ハハッ……」としか返せません。今のブサはそんな状態。自分だけが、俺って面白いでしょ! 面白いでしょ!? と盛り上がってます。女性陣ドン引き。
それと異世界人とハッキリした四人目。




