どうやら、思いもよらない事が起こったらしい
人型は期間限定キャンペーンです。
猫に戻るまで残り三日と宣言されて絶望に項垂れるブサと、あと三日で猫に戻ると聞いて喜色満面のアンリ。見事に正反対な反応を示す二人に苦笑いを零しながら、ロラン達は今の内に聞けそうな事を聞いておく事にする。
まずは、想定よりも早く薬の効果が切れそうなのは何故か。
このままブサの薬の効果が切れていくとして、どのように切れていくのか。
再度解呪薬を使えば、その分効果を伸ばす事は出来るのか。
ブサの呪いは通常の呪いを比べて、何か違いはあるのか。などである。それ以外にも細かい事をいくつか聞いてみる。
さり気無くサミュエルも、調薬関係について色々と質問をしていた。
質問の結果、ブサの薬の効果が切れるのが早いのは、恐らくブサの行動が原因だろうという予想された。例の一気飲みが原因だ。
本来なら薬の効果を少しずつ体に慣らして行く筈が、慣らす間も無く薬が効果を発揮した為、体が薬の効果を排除しようとして薬が想定よりも早く効果が切れてしまう事に繋がったのだろうと。ついでに、言葉が話せない事もソレが影響しているのだろうと。
それを聞いたブサは四つん這いで絶望していた。説明を聞くのは大事だと判明した瞬間である。なお、ブサがそれを覚えていられるかは保障はしない。
薬の切れ方に関しては、現在確認されているように少しずつ猫に近付いていくとの事だ。こうして話している間にも少しずつ毛は増えている。
ちなみに、戻り方に関しては通常通りの戻り方である。この逆再生バージョンが通常の薬の効き方だ。体が変化して行く際にミチミチ、ゴキゴキ鳴る事は本来はあり得ない事なのだ。現に少しずつ戻っている今は静かなものである。もう少し経つと痛みも出てくるだろうが、あの時のように悶え苦しむ事は無い。
それと、解呪薬を飲み続ければ効果は伸ばせるが、金銭と材料的な問題で不可能だった。それならば諦めるしか無い。もちろんブサからは文句が出たが、なら自分で金と材料を何とかしろと言われて黙った。
ブサの呪いに関しては、通常のモノよりも掛かり方が深いように感じると。エルミーヌは人物鑑定は出来ないが、調薬師として様々な症状の人を見て来ているのである程度は診断も可能だ。経験則にはなるが、正確性はそれなりに高い。
エルミーヌは知らない事だが、ブサの呪いは神の力によるものだ。通常よりも掛かり方が深くなるのは納得だろう。ロラン達は神にあった訳では無いので半分疑っていた事だが、エルミーヌの言葉のおかげで信憑性が増した形となる。
「ただし、彼の場合は呪いの掛かり方がちょっと特殊に思えるから、解呪薬の効果が切れた後も何かしらの影響が残るかもしれないわね。本来なら、こんな事はあり得ない筈なんだけど……」
「何らかの影響……ってどんなだ?」
「申し訳無いけど、今の時点では何とも言い難いわ。彼のような症状は始めて見たんだもの。……もしも、何日かこちらに預けて貰えれば、観察してもっと彼に適した解呪薬を作れるかもしれないけど……」
そう言いながらエルミーヌがブサを見る目は肉食獣らしくギラギラと輝いており、言葉の裏側には始めて見る『研究対象』への好奇心に満ち溢れていた。それと同時に、ブサを預けたが最後何をされるか分からない恐怖を感じる。
もっとも、本人は全くそれらに気付いていないようだが。警戒心がダルダル過ぎる。
エルミーヌの表情に気付いていたロランが何気無い素振りでテオドールの方を見ると、声には出さずに『断れ』と告げて来たのでそれに従う事にしておいた。……小さく舌打ちが聞こえて来た気がするが、気のせいだろう。気のせいだと、思いたい。
だが、相変わらず全く気付いていないブサが再び騒ぎ出そうとしたので、すかさずアンリの巨体でエルミーヌからの視線を遮り、その影で首をキュッとしておいた。見事な連携プレー。
視線を遮っていたアンリが元の位置に戻った時には、ブサの意識は既に落とし済みだ。クタリ、と倒れそうになる体を、不自然に見えないようにリュシアンとサミュエルが支えている。ちなみに、意識を落としたのはサミュエルのロープワークである。跡は残さないのが匠の技だ。
何かと理由を付けて引き止めようとするエルミーヌを何とかかわして部屋を後にする。そこから急いで離れ、テオドールの私室に戻って全員で深い溜め息を吐いた。
「いや、悪かったね。まさか、こんな事になるとは思っていなくて……」
「あ~、いまいち状況が理解出来て無いんで説明して貰えますかね?」
「うん。私も途中で気付いたんだけどね? エルミーヌがどうも、ブサ君に発情してたみたいで」
「「「「はぁっ!?」」」」
驚愕の一言である。まさか、あのブサに嫁候補が出来るとは。
今の大声につられて目を覚ましたブサ。目を覚まして自分達が既にエルミーヌの部屋にいない事を知るや否や、もっと効果の高い解呪薬を手に入れられる可能性を潰された事について早速文句を言い始めた。が、事情を聞いてすぐに土下座しながらロラン達に感謝し始めた。
ブサに複乳を愛する気概は無い。獣耳と獣尻尾だけなら許せるどころかウェルカムだが、エルミーヌのような獣に近い獣人は女性であっても拒否感の方が遥かに強い。
そして人型であっても、美人以外はお断りなんですよね。知ってる。
* * * * * * * * * *
想定していた以上の解呪薬の効果の低さに落ち込んでいるブサ。あっという間に人の姿でいられる三日間は過ぎていった。もっとも、貴重な三日目は体を襲う痛みに部屋でダラダラしている内に過ぎ去ったので、落ち込んでいたとは言い切れない。ちなみに、痛みとは言っても筋肉痛程度のものなので大した事は無いので心配無用である。
この三日間で一番問題があったのは、三日目の薬がほぼ切れかけている時ブサの外見だ。
考えてもみて欲しい。中途半端に人間の面影を残した、全身に毛がもっさりと生えている大型犬程の大きさの生物を。そして、それが得体の知れない鳴き声で喚いている様子を。ちなみに、一番近い外見は毛の生えたチュパカブラである。どう考えても新種の魔獣として討伐対象です。
その危険性を回避する為に、三日目は部屋に缶詰状態だった。
もっとも、二日目までは外出も一応はしていた。だが、同行していたのがロラン達である事と、ブサ自身の外見の微妙さのおかげでヒソヒソ案件だった事を報告しておきたいと思う。
同時に、女性に声を掛けようと近付いたが全力で逃げられた事も報告しておきたい。しかし、ブサがどう女性に声を掛ける積もりだったのかは永遠の謎と化している。
ついでに、道を歩くブサ達の背後をぞろぞろと猫が列を成して歩いていた。その中に、とある人物からジョゼと呼ばれている猫が混じっていた事も付け加えておこう。
猫達にアンリが近付こうとすると全力で逃げられるのはお約束である。何度も同じ事を繰り返し、最後は手の届かない屋根の上から猫達が見下ろしながらブサをストーキングする結果になったのだが、それもまたヒソヒソされた原因の一つだろう。怪しい事この上ない集団だ。
そして薬が完全に切れた四日目の朝、ブサの姿は完全な猫に戻っていた。人の名残はどこにも残っていない。
その事を知っていたにもかかわらず、ブサは拗ねて不貞腐れながら宿のベッドを占拠していた。食事の時間になっても部屋から出ようとしない。
「おい、ブサ。いい加減に出て来いよ」
「…………」
「おい」
「……うるせぇ」
さて、今の会話は誰と誰の会話であろうか? 答えはロランとブサだ。
今の二人の会話が普通に通じていた事からお分かり頂けたと思うが、解呪薬の副作用……とも言えるのだろうか。解呪薬の効果が切れて猫に戻った瞬間から、突如人の言葉を話す事が出来るようになっている。ずっと拗ねていたブサも知らなかったのだろう。
その瞬間、ロラン達とブサの双方がフリーズした。
「キェェェェェェアァァァァァァ シャァベッタァァァァァァァ!!」
「「「「お前がな(ナ)(ぁ)!!」」」」
これを入れたかった第○段。
「キェェェェェェアァァァァァァ シャァベッタァァァァァァァ!!」
猫がしゃべるようになったらびっくりですよねー。ちなみに、声はおっさん。
人の姿の時には話せず、猫に戻ってから話せるようにしたのはわざとです。
(`・ω・´)b
もちろん、話せるようになったのは解呪薬の副作用。




