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どうやら、念願の解呪薬が出来たらしい

 解呪薬()がログインしました。

 すっかり夜も更けた宿への帰り道。

 ブサにとって夢のような時間を過ごした場所を後にして――なお、店を出る際にブサが『帰りたくないでござる!!』と鳴き喚いたのはお約束である――余韻に浸りながらボンヤリと宙を眺めるブサにロランが話し掛ける。

 ちなみに、散々女性陣に可愛がられたリュシアンはぐったりとしていた。それでも行くのを断らない辺り、満更でも無いのだろう。多分。


「なぁ、ブサ」

「……ま゛?(……ぁ゛?)」


 余韻に浸っている最中に話し掛けられたブサは心の底から不機嫌そうだ。

 汚いおっさんの声などいらん。美人の美声のみを耳に残したいのだ、話しかけるなボケが! という気持ちが一文字に込められたブサの返答にロランのこめかみに、青筋が浮かぶ。


「明日、またテオドールさんのところに行くぞ」

「な゛(却下)」


 青筋一本追加。


「……そうか。ならしばらくテオドールさんのところに顔を出す予定は無いが、文句は無いな?」

「フンッ!(ある訳無ぇだろうが!)」

「へぇ~? ほ~ん? ふぅ~ん? 良いんだなぁ? それで、後悔はしねぇんだろうなぁ……?」


 青筋を少しずつ増やしながら静かに言うロランの言葉にビクッとし、サミュエルのニヤニヤと笑いながらの挑発するような言葉にイラッとする。何しろ猫なので暗い夜道でも表情はバッチリ見える。

 二人から言われた言葉に少し考え込む。だが、心当たりは無い。何かあっただろうか?


「……では、ブサは今のままで良いんですね?」


 何かを我慢するような、アンリからの問い掛け。


(あ? このまま? ……良いって、何が??)


「……おま……本気で忘れてんのカ? 解呪薬はどうすんのか、って聞いてんだヨ」


(……カイジュヤク? ……『解呪薬』!?)


 ババッ! とロラン達仰ぎ見るブサ。ニヤニヤしているサミュエルはさっきと変わらないが、アンリは——本音ではブサに人間に戻って欲しく無いが故に——苦々しげに、ロランは青筋増量、リュシアンは苦笑中だ。

 リュシアンから聞いたのは間違いでは無いらしい。やっと解呪薬が出来上がったのだろうか?


「おう、昼間てめぇが寝こけやがった後にテオドールさんが教えてくれてな」

「ぎにゃぁっ!!(起こせよ!!)」

「起こしても起きなかったのはてめぇだ」


(あ、そうなん?)


 ふすー、と口笛を吹く素振り。音は鳴らない。

 徹底的に自分に分が悪い事は誤魔化そうとするのがブサクオリティだ。そんなブサの反応は当然予測済みである為、全員溜め息しか出ない。

 ロランが深い溜め息をもう一度。


「んで? どの程度効果があるかは分からないが、試してみるか?」

「ぐにゃ!(当たり前だ!)」


 綺麗に忘れていた癖に、随分な物言いである。

 フンス! と鼻息を荒げるブサは、再び額に青筋を再発生させたロランにガッ! と下半身から伸びる簀巻きの布を掴まれる事となった。そのまま逆さに吊るされる。


「ぎにゃっ!? ぶなぁっ!!(うおっ!? 離しやがれっ!!)」

「最近ちょっとばかり飴が過ぎたようだな?」

「ぶにゃぁぁっ!!(離せぇぇっ!!)」

「……つか、気になったんだが」

「ま゛!?(あ゛ぁん!?)」

「てめぇ太ったろ」


 太ったろ、太ったろ、太ったろ、太ったろ、太ったろ……

 

 ロランのセリフが頭の中でリピートされる。『太った』それは禁断の言葉。中年という自覚のある男にとっては、聞きたくないセリフのトップファイブに入る言葉である。

 他には『ハ○』『メタ○』『○齢臭』がある。あと一個は何だ。


「え? まじデ?」

「おう、持ってみ」

「うォ!? まじダ!! 全然気付かなかっタ!」

「え、ちょ、ま。俺も持ちてぇ! ……ぶっは! おまっ、太り過ぎだろぉ!?」

「わ、私も……! 確かに……以前とは重さが違いますね。ですが、これはこれで……」


 何だと言うのか。


(そ……そんな筈は……!)


 ロランからリュシアンへ、そしてサミュエル、アンリへと手から手へとバケツリレーのように次々と渡されていく。

 それも一周だけでは終わらず、二度目のリクエスト、三度目のリクエストが出る。他でも無いアンリから。いい加減にやめて差し上げろ。


 ブサにとっては堪ったものでは無い。ずっと上下逆さまのせいで頭に血が上るし、振り回されるせいで胃の中がシェイクされまくって気持ちが悪い。

 必死に耐えていたものが、遂に決壊した。


 オボロロロロロ……


「「「「ぎゃ――――!?」」」」


 本当に迷惑極まりない連中である。



 * * * * * * * * * *



「やぁ! ゆうべはお楽しみだったようだね!」


 何故その言葉を知っている?

 いや、恐らくは偶然だろう。偶然である、筈だ。流石にテオドールが転生者というのはあり得ないだろう。そもそも、今回の転生者が生まれてくる時期は同じな筈なのだから。

 テオドールが転生者である可能性を思い付き、ブサが密かに戦慄する。

 こんな覇王な元日本人は嫌だ。漫画ならば覇王キャラは色々といるが。現実にいるのは嫌過ぎる。


「まぁ、店では(・・・)楽しめました、ね」


 そう、店では。帰り道では散々である。


「実は、あそこも私が出資している店の一つでね。経営者夫妻には会ったかい? 若いけどなかなかのやり手なんだよ」

「あー……はい、会いましたね。ブサが迷惑を掛けていましたが、文句を言われる事はありませんでした。むしろ喜ばれていたような……多分、気のせいかと」

「ぎなっ!(んだと、ごるぁっ!)」

「それは良かった。やぁ、ブサ君。今日此処に来たと言う事は、解呪薬の事を聞いたんだね。君の意思は、『人に戻る』という事で良いかな?」


 テオドールの言葉にブサの目が輝く。どうやら、昨夜聞いていた言葉は嘘では無かったらしい。猫の姿である事の利点は大いにあるが――特に、女性に触れても嫌悪感を持たれ難いというのが何よりも大きい。この姿ならラッキータッチも可能であるが故に――色々と楽しむにしても、人型で無いのはやはり不満がある。

 何より、猫は人間よりも寿命が大幅に短いのだから。


「ぐにゃ(頼む)」


 キリッとした顔で覚悟を決めているが、頭の中は妄想で一杯である。人に戻ったら、昨夜の店に行く気満々だ。金も無いのに、どうする気なのか。


 ブサの覚悟を見て、テオドールが静かにテーブルに小瓶を置く。

 恐らく、これの中身こそが解呪薬なのだろう。

 素焼きの小瓶に入れられている為、中の薬は全く見えない。匂いを嗅いでも薬特有の臭いは無い。開けようと思ったが、猫の手では密封された蓋を開ける事は不可能である。


「な゛う(開けろ)」


 ズイッと小瓶をロラン達へと押しやる。すかさずアンリが手を出そうとしたが、前足で瓶を手繰って引き寄せた。貴様は信用ならぬ。

 苦笑いを浮かべたリュシアンが瓶を受け取り、蓋を開けて逡巡する。


「……これ、どうやって飲ませりゃ良イ?」

「ん~、受け皿があった方が良いかな? ……これを使うと良いよ」


 受け取った皿に薬を注ぐ。

 注がれた薬をじっと見るが、色は無いようだ。濁りも無い。フンフン、と鼻を鳴らすが特に臭いも感じられない。


「それで、その薬についての説明なんだけどね……」


 男は度胸。


 そんな言葉を胸に宿し、一気に薬を舐め尽くす。完全なる無味無臭。ただの水と言われても違和感は無い。無味無臭だったおかげで、薬を飲んだという自覚は無い。

 自身の体にも、何の変化も無いように思う。


 驚きに目を瞠るテオドールと、呆れた様子のロラン達を尻目に不満気に尻尾を振り回す。

 本当にこれが解呪薬なのかと、よもや騙されたのでは無いかとテオドールを見上げたところで、異変は唐突に訪れた。

 毎日食っちゃ寝してたら、そりゃ太ります。モフモフでプニプニとか、最強過ぎます。あの腹の弾力よ……!

 先日お会いした子の、中に水でも詰まってんの? と聞きたくなるようなデブ猫のお腹でした。実際に聞いてみたら「に゛ゃ――」と返って来ました。何て言ってたんでしょうね?



 おや? ブサの様子が……

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