どうやら、知り合いとの再会らしい
今話で手紙の差出人の正体が判明します。
建物の中へ案内され、とある一室のドアを開いた中にいた麗人。金色の長い髪と華奢な体。特徴的な形状の耳。そして平らな胸。
手に持った書物に視線を落とし、風を起こす魔道具によって乱された髪を撫で付ける姿は何とも神秘的なものであった。
ドアの開く動きに反応し、こちらへと顔を向けた麗人の顔がみるみる高潮する。目を潤ませながらブサを見つめる姿はまるで恋する乙女のようで……。
「ぎなっ!?(エルフ!?)」
「お前、エルフに知り合いなんていたのか?」
「いや、ブサ自身がめっちゃ驚いているんだガ」
「……そういや、そうだな?」
ロラン達を案内し終えたアシルは主と称したエルフの麗人へと駆け寄り、ブサ達を無事に連れて来た事を報告する。それに落ち着いた声でアシルを労うと、その次の瞬間に神秘的なイメージは一瞬で崩壊した。
「せんぱぁぁぁぁぁぁい!!」
何とも間の抜けた絶叫である。どこか、アシルに似ている気がする。
冒頭の神秘的なイメージは何処へやら、今の姿は誰がどう見ても『ヘタレ』にしか見えない。エルフのイメージ何処行った。
絶叫を上げたかと思うと椅子から立ち上がり、両腕を広げてこちらへと駆けて来た。
背後にバラの花を満開させているのが見えた気がする。あまつさえ、謎のスローモーションエフェクトまで付いている気がするのは気のせいだろうか。一歩進む度に目尻から涙を後方へと煌めかせながらロラン達の元へと辿り着くと、感極まったようにブサを抱え上げ思いっきり抱擁する。
(うひょぉぉぉぉ……!)
麗人からの抱擁で、歓喜に全力で顔を緩ませるブサ。
とてもじゃないけど、お見せ出来ないよ!!
歓喜のブサとは違い、ロラン達はドン引き+訝しげだ。
何しろ、ブサの首には魔道具がしっかりとセットされている。魔道具の起動条件は以前の首輪と同様、ブサと女性の接触だ。これには女性からの接触もしっかりと含まれている。
だが、現時点でブサの魔道具が発動している気配は無い。という事は……麗人は女では無い。
それにブサが気付くのは何時になるのか、恐らくそう遠くは無いだろう。
とりあえずあちらは放置して、自分達はどうしたら良いのかをアシルに尋ねる。すると、すぐさまソファへと案内されて茶と軽食を提供され、ブサの様子を見ながら舌鼓を打つ事となった。流石に軽食のレベルが違う。見た目にも凝っているし、味も格別だ。こっそりと焼き菓子を自身のバッグに仕舞うリュシアンは、恐らくサミュエルの希望を覚えていたのだろう。あるいは、自分用か。
キャッキャウフフと、ブサを抱き締めたままクルクルと回り始める麗人。非常に見目麗しい光景だ。ブサの中の人とか、麗人がブサを『先輩』と呼んでいた事とかを忘れ去る事が出来れば。
どう考えてもブサの関係者です。本当にありがとうございます。
「……あれ、いつになったら終わるんダ?」
「主様にこんなにお喜び頂けるなんて……!」
「「聞けよ(ヨ)」」
全くリュシアンの問いに答える事無く、自身の胸の内を熱く語り続けるアシルに堪忍袋の緒が切れたロランがファイト一発。
「ふんぬっ!」
「ひょあぁ!?」
膝裏への膝カックンでアシルの暴走を止められて、思いがけずアシルの主のクルクルも止める事が出来た。一石二鳥である。
もっとも、麗人との戯れを邪魔されたブサは心底不満そうだが。
コホンッ
「大変失礼しました。思ってもいない場所で先輩を見掛けまして、それ以来先輩に再会出来る事を心待ちにしていたんですよ。やっと居場所が突き止められたんですが、なかなか僕自身が外出するのは難しくて……。どうしたものかと考えていたら、アシルが先走ってしまったんですよね……。その節は皆様にも大変ご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした」
「あ~、いえ。俺……いや、私達も当時は魔獣の討伐で前線におりまして、ブサの事は知人にお願いしていたんです。戻ってから聞いて驚きましたが、すぐに訂正と追記の手紙を出して頂けたようで助かりました」
「ぎな(誰だ、貴様)」
ロランだ。
それよりも、慌てて顔や態度を取り繕ったエルフの麗人だが、既に手遅れとしか言いようが無い。
とはいえ、必死に取り繕ったものをぶち壊すのも……と思ったロランの気遣いは、ブサの一言でぶち壊されかねなかった。ブサが猫で良かった、と心の底から思う瞬間である。
「…………? 『ブサ』というのは、先輩の事でしょうか?」
コテリ、と小首を傾げながら問う麗人に軽くうろたえながらも答える。
まず、ブサ自身には記憶が殆ど無い事。それによって、人であった時の名前も不明である事。だが、名前が無いと呼び難い事から、とりあえず『ブサ』と呼び始めたら思いがけずしっくりと来て、それ以来ずっと『ブサ』と呼び続けている事などなど……。
「……つまり、先輩は僕の事も……覚えていないんですか?」
「ぎにゃぅ……(すまん……)」
悲しそうな麗人の言葉に、目を逸らしながら素直に謝るブサ。
言葉は伝わっていないながらも、その行動でブサの発した言葉は理解したのか、俯いて震える麗人。
「ぎ、ぎなぅ……(あ、あー。その、なんだ……)」
「……でも、先輩は姿は変わっても雰囲気は昔のままですね」
「「前からこれか(カ)……」」
「ぎな゛(うるせぇ)」
意外と話が弾んでいるようだ。入りたいのに入れなくて、ソワソワしているアシルの存在がうざい。
ブサは麗人から離れようとはしない。膝の上でひたすらモフられっ放しだ。そして優越感に浸りながら、ドヤ顔でロラン達に視線を向けて来る。コイツも非常にうざい。
「そういえば、ブサの昔の名前って何て言うんダ?」
「あぁ。……そういえば、僕の名前も言ってませんでしたね。今世における僕の名前はイアサントと言います」
「ご丁寧にどうも。俺はロラン。こいつはリュシアンだ」「よろしくナ」
「はい、よろしくお願い致します。先輩の前世での名前は『猿渡 誠』と言います」
「……猿?」
「はい」
ここでブサの謎が一つ明らかになった。
前世での名前である。前世では『猿渡 誠』という名前であり、ブサの中身とはかけ離れた意味を持つ名前である。
もっとも、ロラン達はそんな事を知る筈も無いので、名字に入っている『猿』が気になるようだった。
「ちなみに、僕の前世での名前は『犬山 叶夢』と言います。子供の頃は名前で色々からかわれましたね」
「『犬』が原因で?」
「いえ、『叶夢』の方です。まわりの子供達の名前とは、かなりかけ離れてましたので……」
「「ほーん(ン)?」」「な゛ー(ほほぅ)」
何故ブサが感心しているのか。知り合いだと言うのに、知り合い甲斐の無い猫である。
そして、気付けばロランもリュシアンも完全にタメ口である。今さらながら気付いたロランが慌てて謝罪を入れるが、その方が気楽なのでと軽く流されていた。その方がロラン達も楽なので、遠慮無くそうさせて貰う。
途中で茶を飲んで一息。
その後はロラン達の番だ。ブサとの出会いから、これまでどう過ごして来たのか。聞かれるままに話していく。ところどころ内容を省いているのは内緒だ。聞き咎めたブサがベチベチと猫パンチをかましているが、そんなものを今さら気にするロラン達でも無い。
華麗にスルーしながら今度はロラン達から質問する。
「それで、元の世界はだいぶ平和だったようだが……ブサは血の臭いとか、痛みとかには慣れていないようでな。以前はどんな仕事をしていたんだ? ……仕事を、していたんだよ、な?」
普段のブサの言動から出た疑問である。堂々と『働きたくないで御座る!!』と明言するブサは、前世でどんな職業に就いていたのか。
そもそも、働いていたという情景すら全く思い浮かばない。
「あ、はい! 詐欺師です!!」
「「犯罪じゃねえか(カ)!!」」
職業ですら、無かった。
エルフな後輩登場。ヘタレ。もちろん男。
そして、ブサの過去も明らかになりました。ブサの前世はオレオレ詐欺グループです。
後輩はじいちゃん、ばあちゃんに泣き付く役です。
へたれ故に臨場感あり過ぎる。
明日は猫又公開日なのでこちらはお休みです。次話は9日の12時となります。




