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どうやら、秘められた過去へと近付くらしい

 まだブサの過去は明らかにはなりません。次話にて。

 建物の中に無事に通された二人は、寝たままのブサを取り出して首輪とハーネス、リードの三点セットを装備させる。

 もちろん首輪は魔道具だ。ただし、以前身に付けさせていた物では無い。流石に悪臭を此処で撒き散らすのはどう考えても打ち首ものである事が予想されるので、現在はペット用では無く小型魔獣の調教用として開発されたものが填められている。

 主導で電流を流すものだ。なお、電流の流れる対象は首輪を嵌めている者に限定されるので、ブサに触れていたからとてその人物にも電流が流れる事は無い。一応電流は本来の威力よりも弱めにしてあるが、それでもブサには効果覿面だろう。


 ソファに座ったロランとリュシアンが、黙々とブサに前述の品を取り付けていく様子を見守る守衛達には何が何だか意味不明である。

 誰かへの献上品にしては不細工過ぎるふてぶてしい猫。猫? ……多分、猫。モッサァ、としているせいで分かり辛い。そしてそれを持って来たのはやはり人相の悪い男達で、しかし上からは決して二人と一匹には不快な思いをさせないようにと厳命されている。


 ちなみに、今いる此処は守衛達の待機場だ。正式な客人は本来別の建物の、もっときちんとした控え室に案内されるのだが、そんな事を知りもしない二人である。ソファがあって、茶と茶菓子が提供されている以上は文句などあろう筈も無い。

 警戒されているのは理解しているが、自身達の顔立ちは理解しているので文句も言えない。

 

「……ン?」

「お? ……ん?」


 ……ぁぁぁ!


 何か聞こえた。


「ん? え?」


 ロラン達と同じく何か聞こえたらしい守衛達がざわめく中、段々と近付いて来る何かは人の声らしい事が分かる。

 どうやら、男の叫び声のようだ。


 ……ぁぁぁぁぁぁああ!!


 すわ、異常事態かと扉に張り付き、外へ出るタイミングを窺う守衛の一人。他の守衛達はロラン達を護衛する者と、攻撃に備える者に分かれる。

 無言のハンドサインで扉を開けるタイミングを指示する上官。それを受けて扉に手を掛け、タイミングを計る守衛。

 緊迫した空気が流れる中、ポツリとリュシアンが呟く。


「……なあ、何か聞き覚えのある声じゃネ?」

「……あ?」


 耳をそばだてれば、確かに聞いた事のある声の気がする。それもわりと最近に。


「ぉ……せし……たぁぁぁぁあああ!!」


 どうやら、ただの叫び声では無く何か言っているらしいが、上手く聞き取れない。


「あ。ギルドでの」

「……アシルっつてたっけカ? あの男カ?」

「こんな声じゃねえっけか?」

「言われてみれバ……」


 二人で顔を見合わせて、扉を注視する。

 そうする内にも声はどんどん近くなり……


「ぁぁああああ!!」


 ドバンッ!


「「「「「…………」」」」」


 勢いが付き過ぎて止まれなかったのか、勢い良く扉に激突する音と共に沈黙した。最後は叫び声と言うより、悲鳴のように聞こえた気がする。

 室内にも気まずい沈黙が漂っていた。


「……開けろ」

「……よろしいのですか?」

「構わん。扉を開くと同時に目標を確認。場合によっては取り押さえろ!」

「「「ハッ!!」」」


 上官の言葉に、扉脇で待機していた守衛が警戒しながら勢い良く扉を


 ガッ!


「開きません!!」


 開けられなかった。外で何かが引っ掛かっているらしい。何かと言うか、誰か(・・)だが。

 上官を振り返りながらきっぱりと答える守衛が男らしすぎる。上官は頭が痛そうだ。

 ガツガツ! と繰り返し扉を開けようと奮闘する度に、ゴヅゴヅと鈍い音と共に呻き声のような音が聞こえる。


「おぐっ! ちょっ!? やめっ!」

「開きません!!」

「「……誰か止めてやれよ(ヨ)……」」


 意地でも扉を開けようとする守衛と、微かな扉の隙間から聞こえる呻き声。カオス。


「……ぎにゃ?(……何だぁ?)」

「お、起きたカ」


 周囲の騒動に、流石のブサも目を覚ましたらしい。フラフラと不安定に体を揺らしながら呟く言葉に、外から聞こえていた呻き声が止んだ。


「「「「「……お?」」」」」

「今のお声はブサ様!? ブサ様ですよね!! そちらにいらっしゃるんでしょうか!? よろしければ中へ入れて頂けませんでしょうか!! そろそろ、私の脳細胞が死滅しそうです!!」

「ぶにゃ(死滅しろ)」

「……お客人、知り合いだろうか?」

「……多分?」


 しばしの沈黙の後、一気に捲くし立てて来る不審人物の言葉にロラン達に尋ねる上官。表情が消えている。思わず疑問系になってしまったロランを責められる者はいないだろう。多分。


「お見苦しい所をお見せして、真に! 申し訳御座いませんでした!!」

「だから、その土下座をやめろっつーに」


 建物に入って早々に、きっちりと土下座を披露する(アシル)

 入って来たばかりの時は土と血に塗れてボッコボコになった顔を晒していたのだが、懐から出した布で一拭きした後は汚れも怪我も綺麗さっぱりどこかへと消えていた。謎過ぎる。

 ついでに、『お見苦しい』という言葉が、ボコボコになった顔の事か、あるいはそれ以前の珍問答の事か。どちらを示しているのかは不明である。

 もはや敬語を使う事すら意識の彼方へと追いやったロランもまた、非常に頭が痛そうだ。

 リュシアンは無言で、先程ブサに取り付けた品々のチェックをしている。どれが外れても大惨事になりかねない。


「はいっ! それと、お待たせしてしまった事についても申し訳ありません!」

「いや、だから土下座を……ハァ、それより案内ってのはあんたについて行けば良いのか?」

「はい! 私が責任を持って主様の所まで案内させて頂きます!」

「お、おぉ。なら、頼む」

「お任せ下さい。守衛の方々もこの度は私の不手際により、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」

「い、いや……不手際というレベルでは無かったような気が……」

「今後はこのような事が無いように留意致しますので、お許し頂きたく……!」

「「「「「聞けよ」」」」」


 グッダグダである。



 * * * * * * * * * *



「それにしても、先日お会いした時よりも素敵な毛並みですね。まるで、大臣のかつらのような艶で……」

「それ、褒めて無いだロ」

「いえいえ、本当に良い艶なんですよ! 大臣のかつらは」

「いや、それ褒めてんのかつらの方じゃ無ぇか」

「ぎなー(大臣のかつら、すげぇ気になるわー)」


 アシルに案内されるままに敷地内を行く。どう見ても王城とは別の方向へ向かっているのだが、ブサは全く気付いていないらしい。大臣のかつらを気にしすぎだ。まさか、作戦か? そんな筈は無い。単にブサが単純なだけだ。

 純粋にこれから向かう先にメイドさん及びお姫様がいると信じて、ワクワクしながら胸を高鳴らせている。そんなブサの期待を裏切るのは、すぐ後の事……。


「こちらの建物の中に私の主がいらっしゃいます」

「「ほー……」」「ぎにゃぁ……(でけぇ……)」


 案内された先の建物、明らかに城とは違う建物だが、周囲には厳重に敷かれた警備体制。人目に付かない場所に配置された兵が至る所に隠れている。

 どう考えても、中にいる人物が面倒そうな存在である事を察したロランとリュシアンは深く溜め息を吐いていた。もちろん、全く気付いていないブサは期待に尻尾を高々と掲げていたが。


「どうぞ、お入り下さい」


 建物の入り口に立つ守衛に身分証のようなものを提示し、扉を開けてロラン達を中へと促す。

 いよいよこの先に、ブサの事を知る異世界人がいる筈だ。これまで殆どが不明だったブサの過去などが、やっと明らかになる時が来たのかもしれない。

 果たしてどんな人物なのか……。

 守衛さんテンパリ中。真顔。


 ちなみに押し扉です。アシルは扉にへばり付く形でうつ伏せに崩れ落ちました。ガツガツ当たっているのは頭。

 そして安定の土下座。流石マイスター。


 イメージは、電車発車間際に駆け込んで来たが間に合わず、跳ね返される人。あれ凄くビビるのです。

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