どうやら、王城へのお呼ばれらしい
大人気無い男 VS 土下座マイスター
勝敗は土下座マイスターの粘り勝ちです。
グイグイとアンリに押されてチワワのように震える青年に、何とか要望を押し通し、ブサがあちらへ伺う際にはロラン達も同行する事を約束させた。もちろん、アンリは留守番である。さり気無く自分も同行者に加えようとしていたが、ブサとロランによって同時に却下されていた。
うろたえるアシル青年に、アンリは無類の猫好きでブサに物凄く執着しており、青年の主――結局こちらについてはまだ不明のままだったが――万が一の事があっては困るからだ。
もしも、あちらの主が本当にブサの知り合いだった場合。なおかつブサと友好的であった場合に、ブサが主と共にいる事を望めば……ヤンデレが発動するかもしれない。そんな未来はお断りである。
前者が建前、後者が本音だ。これはアンリには絶対に言えないが。
「それでは、二日後に王城までお越し下さい。守衛には皆様がお越しになる事を伝えておきます。念の為に、こちらの入城許可証をお持ち下さい。万が一……守衛に止められた際にはそちらをお見せ頂ければ問題ありませんので(多分)。その後は守衛の案内に従って下さい」
「はい、それでは二日後に。時間は午前中でよろしいのですね?」
「はい! 午前中でしたらどの時間帯でも大丈夫です。ただ、あまりに早い時間は困りますけど……」
「それはもちろんです。それでは二日後の午前中にお伺いします。よろしくお願い致します」
ちなみに、話し合いにはブサもきちんと参加していた事を明記しておきたい。もっとも「ぎにゃ(はい)」と「ぶにゃ(いいえ)」位だが。
それだけでもブサには気力を削られる時間だったようで、今はうつ伏せの状態で、ぐったりと上半身がソファーから落ちかけている。かろうじてその場に留まっているが、ほんの少しの衝撃でも加われば床に落ちて、見事なしゃちほこを……。
ベチッ「ぶにっ!(いでっ!)」
「あ、わりぃ」
直後に見事なフラグ回収。サミュエルがソファに深く凭れた瞬間にブサのバランスが崩れ、絶妙なバランスでもってその場に留まっていたブサは、見事なしゃちほこを披露する結果となった。
「あ~、マジでわりぃ……。今のは悪気ぁ無かったんだけどよぉ……」
「…………」
「ブサ?」
「…………」
今のはという事は普段は悪意に塗れているのだろうか?
普段なら即座に突っ込みを入れて来る筈が、声を掛けても全く何の反応も返さないブサに不安になる面々。
ソッと覗き込んでみればフスー、と静かに息を漏らしながら目を閉じていて……
「寝てんのかヨ」
妙なポーズで安らかに、睡魔に導かれるままに夢の世界へと旅立っていた。
* * * * * * * * * *
ギルドにて使者との交渉から二日。ついにブサを王城に連れて行く日となった。
王城行きメンバーは最終的に、ロランとリュシアンの二人。それと当事者であるブサだ。アンリは当初の予定通り留守番で、サミュエルはギルドでの交渉の際に飯は出ないと聞いた瞬間行く気は失せている。その代わりに、持ち帰りの可能な茶菓子が出たら持って帰って来てくれ、などと寝言を抜かしていた。
王城メンバーは前日にもしっかりと風呂に入り、当日もしっかりと身嗜みを整えている。とはいえ、元が元なのでお世辞にも一般人には見えないのだが。
もちろんブサも前日にしっかりと全身を洗われ、今朝もしっかりと梳られている。おかげで今日のブサはいつも以上にモッサモサだ。モッファモファでは無い。『モッサヮモサヮ』だ。もはや発音不可能である。
(前が見えねぇ)
モッサモサ過ぎて視界を完全に奪われている。確かに毛並みは綺麗になったのだろうが、これはちょっとどうなのだろうか?
ちなみにブサを洗ったのと、毛並みを整えたのはリュシアンだ。アンリが立候補していたが、それは全力で却下されている。ブサが精神的ストレスで禿げかねない。
「……前髪、結ぶカ?」
「ふしゃぁっ!(却下する!)」
微妙な表情でリュシアンが申し出て来たが、フンフンと鼻息を荒げるブサに却下されていた。仕方なく、少しだけオイルを付けて毛を後ろへと撫で付け、視界を確保する。
「まぁ、微妙だが……仕方無いカ……」
(どうなってんだ?)
前足で触ろうとするが止められる。
フルフルと背後で震えているサミュエルが非常に鬱陶しい。まぁ、似合ってはいないのだろう。
通りすがりにベシッ! と足先に猫パンチを食らわせてから大人しくカゴへと収まる。このカゴは、今回王城へ赴く為に新しく購入したブサ専用のカゴだ。流石に簀巻きで連れて行くのは外聞が悪い。
もちろん、外から鍵を掛けられるようにしてある特注品だ。蓋を閉められたらカゴを破壊しない限り、自力で外へ出る事は不可能である。逃亡防止と、暴走防止を兼ね備えた一品だ。
ブサがカゴに収まった後は蓋を閉められて、きっちり鍵も掛けて出かける準備完了。後は運ばれるのみ。
「んじゃ、行って来る」
「ブサを渡せ、という要求には応じないで下さいね」
「ブサが望むなら可能性はある」「なっ……!?」
どれだけ執着しているのか。
出かける間際に『やだやだ! やっぱり私も一緒に行くぅ……!!』と駄々を捏ね始めたアンリの意識を強制的に落として、その隙に王城へと出掛ける。おぞましいモノを見た。
道中通りすがりの人達に二度見されながらも、珍しく、珍しく誰に通報される事も無く王城まで来る事が出来た。そう、王城までは。
「んで、こうなるんだよな……」
「まぁ、想定内だよナ……」
思いっきり警戒される中、二人並んでホールドアップ。遠い目をしながら守衛に敵では無い旨と、ここに来た目的を告げる。
「……あ~、アシルっつー人から聞いてないか? 俺らは今日呼ばれて来たんだが……」
「……確かに、アシル殿から来客があるとは聞いていたが……足りないようだが?」
連絡は確かに行っていたらしい。だが、足りないとは?
「あ、こいつカ」
カゴを開けて、中で眠りこけていたブサをズルリと引きずり出す。運ばれるだけなので気楽なものだ。ガチ寝である。
フグー、フグーとブサの寝息が響く中、守衛がブサとロラン達を見比べる。
「……確かに(極悪犯罪者のような顔の男二名と、珍妙な顔の猫……猫? の筈だ……)。念の為に、入城許可証を渡して貰いたい。今取りに行く故、そこを動かぬよう」
小声で言っていたようだが、風のいたずらでロラン達には丸聞こえだった。遠い目が虚ろになる。自覚はしているが、他人からはっきり言われると地味に傷付く。
大人しくアシルから預かった入城許可証を手に持ったまま、ジリジリと近付いて来る守衛を見つめる。見つめる、見つめる……。
「いや、早く取りに来いよ」「ひぃっ!?」
「すまん。そいつは新入りなんだ……ほれ、さっさと行け」
「ついでにブサ仕舞って良いカ? 完璧に寝てるから地味に重イ」
「ん、んん゛っ。まぁ、構わんよ。その代わり、妙な動きはしてくれるなよ?」
「「しねーよ(ヨ)」」
ジリジリと近付いた若き守衛が許可証を受け取り、ダッシュで戻って行く。
そんなに自分達が怖いのか。凹むぞ、ごるぁ。軽くやさぐれながら守衛の反応を待っていると、許可証が本物と確認出来たか、門が開く。
「不快な思いをさせて申し訳無かった。許可証は本物だと確認出来たので、どうぞ入ってくれ。入ってすぐのところに小さな建物があるから、その中で待っていて貰えれば案内の人間が来る。くれぐれも、ウロウロと歩き回らないでくれよ?」
「言われんでも下手な事はしないさ。……そんなに、信用出来なそうな顔か?」
「……いや、まぁ……顔だけで人を見るのは良くないんだが、仕事柄どうしても他人を疑いがちになってしまうんだ。重ね重ねすまない。それと新人の事もな……。お前、交代になったら休憩後鍛錬場に来い」
「そんなっ!?」
「あぁ、こちらは構わず入ってくれ。あまり長時間開けておく訳にもいかないんでな」
「ん、それもそうか。なら、失礼する……で良いのか?」「俺に聞くナ」
始めて入る王城に興味津々。門が閉められてからブサを起こした方が良かったかと思ったが、起こせば起こしたでうるさそうなので寝かせておく事にする。
後から間違い無く文句は言われるだろうが。
「……んで、建物ってあれカ?」
「多分な」
門を潜ってすぐの建物。恐らく守衛が言っていたのは此処の事だろう。
二人顔を見合わせてから建物の前に立ち、その場で待つ事にした。すでに周囲は囲まれている。溜め息しか出ない。
ブサの体毛は低反発枕並み。洗ってから乾かして、念入りにブラシ掛けをすると通常の1,4倍位に体積が増えます。モッサヮモサヮです。どう発音すれば良いのか不明です。
移動中はブサはお昼寝中。暇になると良く寝ます。猫じゃらし位しか娯楽なんてありませんし……。
時折、『そんな餌に俺がクマー!』とか言いながらノリノリでじゃれたりしてます。正気に戻ってから八つ当たり。
実際の猫も、一人遊びしてるのばれた時に猫パンチかましてくるの可愛い。照れ隠しか。




