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どうやら、魅惑()のお風呂タイムらしい

 おっさんだらけのお風呂タイム。誰得にもならない。

「ふぅ、不快にしかならない報告はこの位で良いか? それよりも、お前達が来たのは別件がメインだろう?」

「……まぁ、そうなんですがね。一応は俺らも関与してただけに、どういう結果になったのかだけは聞いときたかったんですよ」

「ぎなー……(思ったよりも重かった……)」


 部屋の雰囲気が重くなったところで、セヴランが手を叩いて切り替える。

 げっそりとした様子のブサだが、空気を変えるついでとばかりに出された酒に、あっさり乗せられていた。ちょろ過ぎか。


 酒で喉を湿らせながら、最後の話題を切り出す。


「あー……ブサ宛てなんですが、ちょっと厄介なところから呼び出しが来てませんかね? もしくは、俺ら宛てで」

「ん? 今のところは何も無いが……まさか、また、何かやらかしたのか!?」


(ひでぇ!?)


 ロランの言葉に、迷い無くブサを見つめて眉を潜めるセヴラン。その信頼が、とても痛い。直接言葉を交わしたのは回数も無いというのに、理解され過ぎである。

 だが、今回に関してはブサにも覚えが無い。もちろん、ロラン達にも。

 それ故に厄介であり、それ以上に厄介なのが手紙の出し手だ。


「それで? どこから呼び出しされたんだ?」

「あ~……その、王城……か、王城の関係者……ですね」


 酒が霧になった。


「……ゲホッ! ん、んん゛っ! ロラン……その、今、何て言った!?」

「手紙の出し手は王城か、王城関係者、と言いました」


 尋ねるセヴランも、答えるロランも、両者とも目が据わりきっている。ブサとしては非常に居心地が悪い。霧を正面で受けたロランの目がとても冷たい。

 だが、この件に関しては自身の落ち度は無い筈で……多分、無い、筈だ。霧に関しても。


『おれ の せいじゃない』

「そう思いたいんだがな……」

「てめぇは、今までの行動をキッチリ思い出しやがれぇ……」


 プイッ


 過去は過去。都合の悪い事は思い出したくありません。

 そう言わんばかりのブサの態度にロランとサミュエルの額に青筋が浮かぶが、残る二人が宥める。その繰り返しで何とかセヴランにも事の経緯を説明する。

 その甲斐あって、ギルド宛てに手紙が届いたらすぐにロラン達に知らせると確約が出来た。もっとも、知らせないという選択肢はそもそも存在しないのだが。


「で、届いたという手紙がこれか……。ん? テオドールのところに届いたのか?」

「後から確認したら、宿にも届いていましたネ。ですので、ギルドにも届いているかと思ったんですガ」

「つか、見せていいのか? これ」

「……あまり良くない、と思うんですが……ブサ本に……本猫が見せてしまいましたし」


(あん? 見せたら何か悪いのか?)


 ブサに自覚は無い。

 自分が考えるのが苦手……否、嫌いなだけに、他人に押し付けられそうなモノは遠慮無く押し付けるスタンスだ。機密情報は決して教えられないだろう。

 そして、深く考えようとしない性質は変わっていない為、その場のノリと気分でサラッと見せたり話したりする。猫なのは幸いだ。人間だったらベラベラ、ベラベラと言わんでも良い事を話しまくっていたに違いない。


「まぁ、今の時点で出来る事は無かろうな。お前達は討伐の疲れも残っているだろう。しばらくは休暇と思って休んでおけ。後の事はこちらでやっておくのでな。報酬は後日、間違い無く渡そう」

「お願いします。それでは、俺らはこれで……」

「うむ。ご苦労だった」


 セヴランの言う通り、討伐の疲れが残っているのは事実だ。ブサも病み上がり――というには少々情けない理由だが。珍しく真面目に悩んだ結果の発熱だからだ――なので、しばらくは骨休め的な意味でノンビリ過ごすのも悪くないだろう。

 キャイキャイと今後の予定を話し合う。飯だ飯! とはしゃぐのはサミュエルだ。

 彼らが話している内容は極普通なものだが、顔のせいで良からぬ事を相談しているようにしか見えない。残念な男達だ。


 ブサを小脇に抱えてロラン達が部屋を出た後、何やら考え込んでいる様子のセヴラン。


「手紙の送り主は『日本人』……か……」



 * * * * * * * * * *



「んじゃ、しばらくは休暇だな。久しぶりに湯屋にでも行くか」

お、賛成。なるべく体は拭いてるが、いい加減しっかり体を洗いてえナ」


(湯屋って、風呂か? 風呂なのか!? 異世界って事は……混浴だな!?)


 謎の思い込み再び。何故混浴と思い込んでいるのか。


「ぎなっ!!(俺も行く!!)」


 前足を限界まで高く上げて、俺も連れて行けと猛アピール。

 合法的に覗き、いやガン見を出来る機会を逃したくない。


「あん? ……湯屋ってペット連れてって良かったっけカ?」

「ん? ん~……どうだったか……」

「ぎなぁっ! ぎなっ!!(絶対行く! 行くったら行く!!)」


 ブサの必死の形相にロラン達も呆れ顔だが、中身が人間なら風呂に入りたがってもおかしくは無いと納得する。まさか、風呂が混浴になっていると思い込んでいるが故とは思うまい。


「んじゃ、お前も行くか」

「ぶにゃっぉ――――ん!!(いぃやっほ――い!!)」


 ぎーにゃ! ぎーにゃ! と高らかに鳴いてご機嫌のブサを見て、アンリもご満悦である。

 ただ一人、サミュエルだけは腹を満たしてからにする、と言ってどこかへと消えて行った。満腹になるか、ある程度満足するまではしばらく戻って来ないだろう。


「あの建物ダ」

「ぶにゅっ(うほっ)」


 リュシアンに湯屋の建物を指差され、ブサの鼻の下が伸びる。

 ちなみに、現在のブサの魔道具は外されている。テオドールに預けて、無差別テロ機能を改善して貰っている最中だ。

 つまり、触り放題(・・・・)である。

 まだ見ぬ理想郷に思いを馳せ、ニンマリと笑みを浮かべる。

 その時、ブサの前を女性達が横切って行った。遠目にも分かるスタイルの良さ、チラリと見えた顔は綺麗と可愛いが絶妙なバランスで成り立っている。

 きゃらきゃらと笑いさざめきながら湯屋に入って行くのを確認したブサの鼻の下がますます伸びていく。


「「「……なるほど(ナ)」」」


 一瞬でブサの狙いが読めた。同時に、何故あれほどまでに湯屋に行く事に固執していたのかも。

 もっとも、ブサの願いは決して叶わないのだが。


「……んじゃ、行くか」

「はい」「だナ」

「ぶにゃーぅ!(混浴ー!)」


 ブサをがっちりと抱え直して湯屋の入り口を潜る。

 期待に目を輝かせるブサの目の前にあったのは……


「いらっしゃいませ。湯屋のご利用でしょうか?」

「おう。三人と、ペットもいるんだが構わないか?」

「はい、大丈夫ですよ。ただし、他のお客様方の迷惑にならないようにして下さいね」


 番台と思しき受付と、その奥にある二つの扉だった。


(あ、あれ? ……そうか! 着替える場所は多分別なんだな! んで、風呂はきっと一緒に……)


 ならなかった。


(どうして……? 俺の、桃源郷は……どこ……? 異世界なら混浴はお約束だろぉぉぉぉぉぉ……!?)


 華やかな女性の声は聞こえるが、男風呂は女風呂とは完全に分断されていた。

 上部には若干の隙間がある為、頑張れば覗けなくも無いのだが、覗く事が出来そうな空間の前にはムキムキしい半裸の男達が監視として仁王立ちしている。彼らを出し抜いて覗きが出来るとは思えない。

 何よりブサを唖然とさせたのは、広々とした浴槽の壁。銭湯ならば富士山などの絵が描かれている場所にはこう書かれていた。


『覗き野郎は、男しか愛せない体にします』


 何をされるというのか。想像すらしたくない。

 そして今、虚ろな目で虚空を見つめるブサは、裸の野郎共に非常にモテモテだった。


「おー、ぶっさい猫だなぁ!」「猫? こいつ、猫なのか?」「大人しいなぁ。躾が良いんだな」


 などなど、好き勝手言われてはワシャワシャと頭を撫でられている。

 そして、最後の男。それだけは決して無い。

 虚脱感に苛まれているのでされるがままだ。自分がどういう状況になっているのかも気付いていない。


「……ロラン、あれ(・・)良いのカ?」

「アンリへの約束も守れたし、良いんじゃね?」

「気付いた時に発狂しないと良いナ……」


 湯に使って寛ぎながら語る二人の視線の先にはブサの姿。

 脱力しきった、と言うよりも虚脱しきった状態でアンリに体を預け、ワシャワシャと全身を洗われながら、大勢の男達に囲まれていた。触れ合いの念願叶ったアンリはとても良い笑顔だが、ブサの表情は『無』であった。

 問われたロランは湯の心地良さに身を委ねて適当に答えていたが、問うたリュシアンは気の毒そうにブサを見つめていた。野郎同士の裸の付き合いは、ブサにとっては拷問でしか無い時間だから。

 異世界の風呂が混浴とは誰も言っていない。


 日本の江戸時代は混浴だったらしいです。

 ちなみに、お風呂は過去の異世界人の働きにより現代版お風呂です。覗きは死すべし。色んな意味で。


 そしてモテモテなブサ。喜べ、ハーレム()だ。


 明日は猫又公開日なので、こちらはお休みです。次話は6月3日となります。


 

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