フェイズ0 荒れる海へ
前2作がよーく考えずに書き始めた結果、どちらもどん詰まりになっております。
この為、最近思いつき骨組みもかなり出来ているこの作品を書き始めました。
前2作も、展開を組み立て次第書いて行こうと考えております。
2028年 8月11日 日本標準時 午前11時52分
小笠原諸島父島沖西海上
ひたすら青い海が広がっていた。水平線がぐるりと見回せる。
夏の日照りを受け海面は眩しく輝いていた。しかしながら海上波浪警報が出ている。その原因は南海上にあった。
そんな中を、3つの舳先が波を掻き分けながら進んでいた。
1隻は空母のような外見を持ち、1隻はクレーンなどの補給設備が付いていた。
そして残りの1隻。その船は、まさしく「未来の軍艦」を体現していた。
横須賀基地所属、海上自衛隊実験評価群TDE-3001、特殊実験艦「ゆきかぜ」であった。ステルス艦特有のフォルムを持ち、艦橋と2基の主砲以外の凹凸が見当たらない。そして、海上自衛隊初の三胴船、という詰め込められるだけ機能を詰めこんだ艦である。
全通飛行甲板を持つのは呉基地所属、第2輸送隊BST-4102、多目的輸送艦「さつま」。そして、補給設備を保有しているのは佐世保基地所属、BOE-4003「ましゅう」である。
なぜ、用途も所属も全く違う3隻が作戦行動を取っているのか。
彼らの目的は「沖ノ鳥島沖に待機しているアメリカ海軍第5艦隊第38空母打撃群への補給」だった。
普通ならば補給艦は護衛艦と行動を共にするが、なにしろ今は「戦時」なのだ。
地方隊も含むほとんどの護衛艦は東シナ海へ出払っており、護衛任務に就ける護衛艦はいなかった。そこで、ある程度の戦闘(といっても、その能力は実験段階のため未知数だが)が可能で、横須賀基地で留守番していた「ゆきかぜ」に白羽の矢がたった。
横須賀には巡洋護衛艦「あぶくま」がいたが、先の戦闘で右舷側に魚雷攻撃による開口部があり修理中のため、到底航海に出ることは出来なかった。
「航海長、前方20キロの海域に積乱雲。『スーパーセル』と見られます」
艦橋から前方を見ると、確かに巨大な雲柱がそそり立っていた。一部の積乱雲の雲頂部は成層圏に到達しており、鉄床を形成している。積乱雲の最盛期の姿だ。
「気象庁によれば間もなく台風16号がこの先の海域を通過します。当該海域は風速28m、予想最大瞬間風速は60mで、波高は11mです。かなりの荒れ模様ですし、後方2隻の積荷が崩れる可能性もあります。針路変更を具申します」
「ゆきかぜ」航海長、津田有希2等海佐の言葉が不気味な音と波の音以外は静かな艦橋に響き渡った。既にこの海域は波が高くなりつつある。ギシギシ、という音が響いていた。
だが、今回の作戦指揮をとる艦長の三島直輝1佐は首を横に振った。
「針路はそのまま、台風を突っ切るぞ」
艦橋が騒然とした。瞬間であれ、高速道路を走る車並みの突風が吹く海域に、輸送艦と補給艦を連れて突入する。前代未聞だった。
「今回の積荷は弾薬が多すぎます。万が一崩れるようなことがあれば「ましゅう」が吹き飛ぶ事になります。それに三胴船は高波にはあまりにも弱すぎるのでは....!」
「それを承知の上だ」
津田2佐の抗議を、静かな、しかし力強い声で制した。
「第38空母打撃群は台湾沖の一戦で疲弊しきっている。補給艦を失った現状、彼らは一刻も早い補給が必要としているんだよ」
さらに続けた。
「彼らが潜り抜けた戦場に比べれば台風なんぞ屁でもない。積荷はしっかり固定すればいい。いつもの2倍の固定具を使えと「ましゅう」と「さつま」に連絡しろ」
「は、はい!」
通信長が急いで無線機器の前に飛びついた。
「繰り返す。針路そのまま、第2戦速」
「は....」
「航海長、復唱は」
呆然としていた津田2佐に静かな声で促すと、彼女は慌てて声を上げた。
「は、はい! 針路そのまま、第2戦速!」
「津田2佐、台風16号に突入後は全てのこの艦の権限を航海長に委任する。任せたぞ」
「了解しました!」
こうして3隻は台風16号の渦中へ突入して行った。
だが、この3隻。台風16号の雲から出て姿を現すことは2度と無かった。
アメリカ海軍については2020年代に大きな艦隊再編があったという設定です。
第5艦隊は本来ならば中東に展開しているのですが、東シナ海での有事で第7艦隊が激しい損耗率のため急遽呼び出されたという状況になっています。