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第1章 第3話

シャンプーしたてのショートヘアをドライヤーで乾かすと気分もスッキリ。

家の居間兼食堂に入ると食卓の上にはお母さんが用意してくれたトーストと目玉焼き。


「おはよ!」


 パジャマを着たままのお兄ちゃんはトーストにべったりブルーベリージャムを塗っていた。


「今日は卓球部の体験入部をやるんだけど、桜子は来ないか?」

「うん、行かない。だってわたし才能ないし卓球のウェアって可愛くないし、地味だし」


 わたしは薄くいちごジャムを塗る。カロリーの摂りすぎには注意しなくちゃ。


「ひどい言いようだな、全国一千万の卓球フリークに謝れ!」


 お兄ちゃんは卓球部だ。そう言うわたしも中学の三年間は卓球部だった。

 面白かったけど全然強くはなかった。

 それより何より出会いがなかった。

 ううん、出会えなかった……


一輪いちわ先輩も卓球部だったよね」

「そうだよ、あいつも桜子が来たら喜ぶんじゃないかな」

「そんなことないよ。それに今日は放送部と新聞部をチェックする予定なんだ」

「そっか。卓球は捨てられたか……」


 少し残念そうにジャムだらけのパンを頬張るお兄ちゃんは、ふと思いついたように。


「で、文芸部は候補にないのか?」

「昨日も言ったじゃん、ないよ。文芸ってなんとなくイメージ暗くない? それにわたしにそんな才能ないしさ。あっ、理子先輩は好きだけど」

「…………」


 理子先輩ごめんなさい。妄想書くのは面白いけど、だけどわたしは華やかなメジャーどころがいい。頑張って成功したときの達成感とか高揚感を味わってみたい。それに素敵な出会いだってあるかもだし……


 身支度を調えると、お兄ちゃんより先に家を出た。

 五分くらい歩いた停留所からバスに乗ると学校までは三十分。


「おっは~、桜っち!」

「あ、おはよう沙耶さやっち!」


 赤毛のポニーテール、元気印の山中沙耶やまなかさやは席がとなりだ。面白くってノリが軽くて入学早々いきなり意気投合しちゃった。


「昨日はどうだった? 部活決まった? やっぱ演劇?」

「それがまだなんだ。実はね昨日、かくかくしかじか……」

「へえ~っ、格好いい先輩いるんだ~。沙耶もなんか部活しよっかな~」


 昨日は「帰宅部にするよ」とか言っていた沙耶っち、気まぐれ子猫成分が120%だわ。


「じゃあ、今日の放課後一緒に回ろっか!」

「そうね。そうしよう!」


 と、そんな軽い成り行きで。

 授業が終わって、彼女と出向いた新聞部は運動場を望むプレハブ部室棟の二階、そう、文芸部のすぐ隣だった。


「決めた、わたし新聞部に入る!」


 あっさり入部を決めた彼女は北ヶ丘ウラ新聞とやらがいたく気に入ったらしい。


「自由な視点で校内のあること無いこと面白可笑しく書き立てる、ってポリシーが最高じゃない! ねえ桜っちも入ろうよ!」


 確かに面白そうだけど、わたしは入部しなかった。

 ひとり新聞部を後にするとグラウンドで練習する野球部を見ながら考える。


 やっぱり軽音にしよう。

 別にギターに固執しなくてもいいんだし。昨晩、妄想小説を書きながら考えた。ボーカルだってベースだってパーカッションだっていいんだ。軽音ってやっぱカッコイイし部員多くて出会いとかいっぱいありそうだし、きっと楽しいに違いない。


 よし……

 わたしは軽音部がある別館三階の第二音楽室へ向かおうとして、ふと足を止めた。


 だけど、昨日の事があるんだ。

 軽音に行ったら、また演劇部が噛みついてくるんじゃないかな。それでなくても第二音楽室は演劇部のひとつ先にある。絶対また捕まってしまう。


 困ったな、どうしよう……


「あれっ、桜子ちゃんじゃないの? どうしたの?」


 煌めく黒髪をサラリ揺らして、文芸部室から出て来たのは理子先輩。


「あ、実は……」


 だけど、これ以上迷惑は掛けられないわ。

 帰ってお兄ちゃんに相談しよう……


「はは~ん。その顔はやっぱり演劇か軽音がいいけど今更どのツラさげて行こうかって思案してる顔だな~」

「ど、どうしてわかるんですか?」

「アタシは人の心が読めるんだ」

「すごい! 超能力ですかっ?」

「単にカマ掛けただけだ」

「……」

「まあまあ、そう脹れるなよ」


 と言うわけで。

 また文芸部にお邪魔して、紅茶を入れて貰った。


「なるほどね~ 軽音と演劇の仲が悪いと困るわけだ~」


 わたしの話を聞いてくれた理子先輩と久里須先輩、ふたりは顔を見合わせる。


「ねえ久里須、演劇と軽音の仲が悪い理由って知ってる?」

「噂だけど……」


 久里須先輩の話によると、原因は演劇と軽音の部室がとなり同士であることに起因するという。演劇部は軽音の演奏がうるさすぎて練習が出来ないと言い、一方軽音部は演劇部の大声や効果音が練習を妨げると怒っているらしい。お互い相手の出す音がうるさい、騒音公害だ、静かにしないのならとっとと出て行けゴラア! と言い張っているのだとか。


「だけど~、不思議なのよね~……」


 ノートに何やら描き込みながら久里須先輩は首を傾げる。


「第二音楽室ってさあ、ちゃんと防音されているはずなのよねえ~」

「言われてみればそうね」

「あたし、思うんだけどお~……」


 彼女はノートに書いた別館校舎の間取り図らしきものをテーブルに広げる。

 北ヶ丘高の校舎は大きく分けると本館と別館があって、音楽室や美術室、理科実験室や家庭科室などの特殊な教室や部活動の部室は別館に集中していた。


「きっとね~、軽音も演劇も~、通路と反対側の窓を開けているんじゃないかな~ って思うの。そうでないと音は漏れないはずなのよね~。それにあたしが入学した頃は仲が悪いって話はなかったわ。仲が悪くなったのは確か、去年の二学期からなのよお。何故その頃からかってのも謎なのよね~っ。建物の構造的に隣の音がうるさいのなら、大昔から仲が悪いはずだよね~」

「おおっ、久里須の灰色の脳細胞が働き出したな!」


 面白そうに身を乗り出す理子先輩。


「暑いからって窓開けてる訳じゃないよね~、まだ寒いくらいだし~。可能性としては……」


 自らが書いた校舎の間取り図を眺める久里須先輩。わたしも一緒に考えてみるけどサッパリわからない。


「なあ久里須、別館の窓側にあるのは……」


 その言葉に久里須先輩は間取り図の窓側に大きな長方形をよっつ書き入れる。


「ああ、なるほどね~っ」

「こうなったら徹底的に調べよう。先ずは現場検証だよな!」

「そうだけどお。理子、いつにも増して張り切ってるわね~」

「よかったら桜子ちゃんも一緒においでよ。ああ見えて久里須の推理はすごいんだから。なんたってヒステリーの女王だからな」

「ミステリーの女王って言ってるでしょ~っ!」


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