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第5章 最終話

 土曜日が来た。

 もう後戻りは出来ない。


 ホットパンツにお気に入りのTシャツ。覚悟を決めて家を出る。

 明日は卓球の県大会、お兄ちゃんは朝から10時まで学校で練習。だけどその後は練習できないらしい。体育館を他の部が使うからだ。


 そこで……


「お兄ちゃんこっちだよ!」


 わたしは大きく手を振ると彼らの方へ駆け寄る。

 今日はこの公民館を夕方まで借りた。勿論卓球部のみんなに練習して貰えるように。


「ありがとう桜子さん。本当に助かるよ。翔夜のヤツこんないい場所があるのに教えてくれないしさ」

「いや、気付かなかっただけだって!」


 公民館の卓球台は4台。

 充分な数とはいえないけどまあまあ事足りそうだ。

 男子部員と女子部員、用事があって来れない人もいるから全部で10人くらいがわたしの後から公民館に入ってくる。


 そうして練習が始まった。

 わたしはみんなの後ろで球拾いをした。


「悪いよ。そこに座って休んでていいよ」

「いえいえ、ヒマですし。それに最近運動不足なんですよ」


 一輪先輩はわたしに気を使ってくれる。


「お昼になったらサンドイッチもありますからね。皆さんで摘んでくださいね」


 ここは女子力アピールのチャンスカードだしね。

 グッと一輪先輩の心を掴んでしまわなきゃ。

 パンもハムもトマトだって厳選したんだから。

 そうしてみんなが汗をかいて。

 昼になったらランチボックスを広げる。


「うん美味いよ! 星乃さん何から何までありがとう!」


 わたしのサンドイッチを頬張りながら、部員の皆さんが喜んでくれる。

 女子部の八坂キャプテンも頭を下げてくれて。


「次からは分担しなくちゃね。いいとこ全部星乃さんに持って行かれちゃうし」


 そう言いながら笑ってくれる。

 六条院さんは今日はいない。出場メンバーに入っていないとかで。


「一輪先輩もどうぞ! お口に合えばいいですけど」

「あ、じゃあひとついただくよ」


 遠慮していたのか、メンバーたちが食べるのをずっと見ていた一輪先輩は玉子サンドに手を伸ばすと一口で頬張る。


「…… うん。凄く美味しいね」

「ありがとうございます」


 そう笑ってくれた。

 だけど、彼が食べたのはそれ一個。


「お兄ちゃん食べ過ぎ! 何個食べてるのよ!」

「だって腹減ってるじゃん」

「他の人もお腹空いてるのよっ!」

「はは、俺なら大丈夫だよ。おい翔夜、ちょっとジュース買ってくるわ」

「それならわたしが!」

「いや大丈夫」


 出口に向かう一輪先輩を追いかける。


「せんぱいっ!」


 公民館を出て追いつくと彼の横に並んだ。


「自販機よりすぐそこにスーパーがあるんで、そっちが安いですよ」

「じゃあ一緒に行ってくれる?」

「はい」


 ふたりっきりって初めてだ。

 どうしよう、何喋ろう、黙ってちゃいけないわよね、えっと、えっと……


「さっきのサンドイッチ、すっごく美味しかった」

「本当ですか? でも、足りなくてごめんなさい」

「みんなよく食べるからね。育ち盛りだから」


 大らかに笑った一輪先輩は少し俯いて。


「今度はさ、その、ふたりの時に作ってくれたらゆっくり食べられるかな」

「えっ……」

「な、なんてね」

「ぜ、ぜひっ! 明日の試合が終わったらぜひっ! ってか、明日応援に行きますから、お弁当はわたしにお任せをっ!」

「桜子さん……」


「お任せをっ!」


          ◆ ◆ ◆


 よく晴れた日曜日。

 大きなランチボックスを持つと朝から市民体育館に向かった。


 体育館の広い二階席は応援席なのにガラガラで、ほとんど人がいない。

 卓球の県大会なんて誰も注目しないのかな。

 まあ、中学の市の大会もそうだったけど。


 と。


「あらっ、桜子ちゃん!」

「り、理子先輩っ!」


 突然のことに思わず席を立つ。


「おとなり、いいかしら?」

「勿論ですっ! どうぞっ!」


 ははあ~ん。

 お兄ちゃんにもサンドイッチも作ろうかと言ってあげたのに、いらないって拒否ったのはこういう訳だな。


「桜子ちゃんはお兄さんの応援?」

「いえいえ、まさか。わたしは……」

「じゃあ、一輪くんの応援!」

「どうしてそれを?」

「そんなの、すぐに分かるわよ!」


 わたしってばそんなに分かりやすいのかしら。

 理子先輩は誰にともなく微笑みながらじっとコートを見ている。


 聞きたいことがいっぱいある。

 理子先輩のこと、お兄ちゃんとのこと、そして……


「桜子ちゃん、ありがとう」


 突然、理子先輩はわたしに頭を下げた。


「な、何ですか? 何のことですか?」

「実は最初に会ったときね、演劇と軽音の強引な勧誘に遭っている桜子ちゃんを見て、もしかして? と思ったの。翔夜さんの妹さんじゃないかって思ったの。気が付くと大声で叫んでた」

「そんなに似てますか?」

「もち、そっくりよ」


 彼女は悪戯っぽく微笑んで。


「だから文芸部に来てくれたときは本当に嬉しかったんだ。ありがとう」

「何言ってるんですか! 助けて貰ったのはわたしの方ですよ!」

「じゃあ、おあいこ、だ。アタシは今すっごく幸せだから」

「…………」

「…………」


 午前の試合、一輪先輩は1セットも落とすことなくベスト8に勝ち上がる。

 お兄ちゃんも何とか勝ち残っている。


 そうして昼になって。

 お弁当箱を持って待つわたしのところに一輪先輩がやってきた。


「お疲れさま。はいおしぼりです!」

「ありがとう、って、あれっ?」


 理子先輩の姿に少し驚いたような一輪先輩。

 そんな彼に理子先輩は悪戯っぽく笑いかけた。


「良かったわね一輪くん、優勝したら桜子ちゃんが彼女になってあげるってよ!」

「えっ! それ、ホント?」


 なにを言うんですか、理子先輩!

 だけど、一輪先輩ったら真顔でわたしの目を見てて……


「はい本当です。こんなわたしでよかったら」




 ぶんげい? ~わたしのきらきらなJKライフが文芸部なんかにあるわけない!~ 完



【あとがき・ネタバレ注意】


 ご愛顧ありがとうございました。日々一陽です。

 北ヶ丘文芸部の活躍の中にふたつの恋愛を描いた本作、いかがでしたか。


 皆さまお気づきの通り、この物語がメインに描いている恋愛は主人公・桜子のものではありません。その真の主役、理子先輩と翔夜が二年後どうなるのかは気になるところですが、はてさてこれからどうなるか、実は僕にもよく分かりません。


 そこは皆さまの想像にお任せです。


 えっ、それは無責任?

 いえいえ、この幕引きは一応、当初予定通りなんで。


 ただ、よく練り込まずに書き始めたってのは事実で、そこは大変申しわけなく。

 もしかしたらこの物語は、エンディングからスタートしても良かったか?

 とすら思ったり。

 

 皆さまの忌憚ないご意見お待ちしています。


 尚、次作「才色兼備のナナ姫は、恋の作法が分からない!」はただいま絶賛連載中です。

 こちらもご愛顧願えれば、作者が小躍りして喜びます。


ではでは、ご愛読、重ねてありがとうございました。

2016年10月9日 記


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