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第5章 第4話

 文芸部に戻るとみんなはグラウンドの脇でバドミントンをしていた。


「あら、桜子ちゃん遅かったわね」

「ええ、ちょっと生徒会室へ行ってたので。あの、ちょっといいですか……」


 わたしは理子先輩の元に寄り、羽根つきに熱中している百代と久里須先輩を横目に話を始めた。


「上手く行きましたよ、全て理子先輩のお陰です」

「えっ、何のことかしら」

「何のことってアニ研ですよ。理子先輩が手を打ってくれたんでしょ」

「あれは翔夜さんが考えてる通りにしてみただけよ」


 彼女はとても優しい微笑みを浮かべる。


「ねえ、理子先輩は高校卒業したらどうするんですか? 何か決まったこととかあるんですか?」

「あ、うん。そうなんだ。ホント、複雑な話だけどな」

「お兄ちゃんとは期間限定なんですか?」

「…………」


 否定してくれなかった。

 暫くうつむいていた理子先輩は、しかしやがて。


「翔夜さんはそれでもいいって言ってくれたの。アタシは今、世界で一番幸せ……」

「…………」

「あっ、ごめんね。電話!」


 着信が入ったのか、ポケットからスマホを取り出すと画面を確認した理子先輩はこぼれるような笑みを浮かべた。


          ◆ ◆ ◆


 その日家に帰ると部屋のベッドに横たわる。


 好きになればなるほど別れって辛く悲しいんじゃないのかな。

 分かっててそんなことをするなんて。

 わたしには出来ない。


「はあっ」


 目を瞑る。

 そうして、晩ご飯の声で起きるまで、ベッドの上で意識を失っていた。


「珍しいな桜子、寝てたのか?」


 今帰っていたばかりらしいお兄ちゃんに声を掛けられる。


「お兄ちゃんも遅かったね。理子先輩とイチャついてたの」

「違う違う」


 そう言うお兄ちゃんの顔が赤い。分かりやすいわ。


「理子先輩が彼女なんて、すっごい贅沢だもんね」

「あ、そんなことより来週は試合があってさ」


 話、逸らしたな。


「このところドタバタ続きで練習不足だなって一輪と話をしてて、体育館の使用延長を申請したけどやっぱダメだった」

「だからどうしたの?」

「ん、いやどうってことはないけど」


 もうちょっと上手に誤魔化そうよ、お兄ちゃん。

 食事を終えると母と一緒に後片付けをして、ゆっくり入浴する。


 だけど。


 一輪先輩が練習不足って、もしかしてピンチ?

 そりゃ毎日六条院さんみたいな子に色目使われてたら練習に身が入らないわよね。

 その点理子先輩はお兄ちゃんの邪魔とかしないだろうけど。

 アニ研の一件をみたいに、助けてくれることはあっても……

 ……


 その夜。

 わたしはお兄ちゃんの部屋をノックした。


「何だ? 入っていいぞ」


 部屋に入ると教科書を広げ勉強をしていた様子。


「珍しいね、勉強なんて。明日大雨だね」

「いや、どうせなら雪を降らそう」


 お兄ちゃんは教科書にまた目を落とす。

 わたしは聞きたいことをストレート果汁100%で聞いてみた。


「ところでさ、お兄ちゃんどうして理子先輩と付き合ってるの?」

「えっ?」

「高校卒業したら別れちゃうんでしょ? なのにどうして?」

「なのにって言われてもなあ。そんな先のことより今が大切だと思わないか」

「そうかな。嫌いな相手だったら秒読みしてサヨナラで清々するけど、好きなんだよね」

「あ、うん、凄く」


 のろけられた!


「じゃあ、最後は泣いちゃうんじゃない?」

「……だろうな」


 えっ、あっさり認める?


「気が狂うかも知れない……」


 やっぱこれは禁止ワードだったか?


「でも大丈夫。そんな気がする」

「どっちなんだよっ!」


 わたしはお兄ちゃんのベッドに腰掛ける。ベッドの上には何故か卓球のラケットが置いてあった。裏ソフト、ガンガンに攻め様専用の赤いラバーに触れてみる。ついでだから振ってみる。


「今度勝負してみるか?」

「へへっ。わたしの消える魔球を受けられるかな? そこの公民館だったら安く遊べるし…… そうだっ!」

「何がそうだ、だ? クリームソーダか?」

「面白くないよ。このラケット没収ね」

「あ、おい桜子! ホントに持ってくなよっ!」

「返して欲しかったら、わたしの言うことをきくことっ!」


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