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第5章 第3話

 お兄ちゃんがあんな事を言うからわたしまでムカついてきたじゃない!

 一輪先輩はあんなチャラ子に落ちないわよっ。絶対!

 ……って、言い切れるかな?


 わたしは自分の部屋に入るとパソコンを立ち上げる。

 最近、わたしの妄想小説は少し停滞気味だ。理由は簡単、主人公のモデルである理子先輩のイメージがわたしの中でぐらついてしまっているから。弱きを助け強きを挫き、優しくてカッコイイ、そんなイメージで書き続けてきたけど、それは虚勢じゃないかって思えてきて。


 四つ葉って人の小説を見に行く。

 と、思いがけず数ヶ月ぶりの更新がされていた。


「……」


 そこにはヒロインが高校生活を精一杯生きる様が生き生きと描かれていた。

 突然降って湧いた苦難に、正々堂々立ち向かうヒロイン。

 だけどその裏で、彼女を支えるひとりの男が登場する。

 その始まりの描写はまるで恋文だった。


 

  ふたりはどちらからともなく手を繋ぎ、そして目が合う。

  言葉はひとつもない。

  だけど壊れそうに不安な気持ちを嬉しさが覆い尽くしていく。

  ありがとうございます。



 これがふたりの出会い、と言うか再開のシーン。

 ってか、ああ、もう勝手にやってよ、お兄ちゃん!


          ◆ ◆ ◆


 翌日の放課後。


 新聞部の沙耶っちは授業が終わるや生徒会室へと向かった。

 お兄ちゃんの事を気に入ってくれてた彼女だけど。

 もう理子先輩とのことは知っている。

 今日、彼女は吹っ切れたように言った。


「だけど神湯御前だったら仕方ないか! 女のわたしですら惚れちゃいそうだし、祝福しなくちゃだよね。一部には元サヤって言ってる人もいるし。うちの部長も取材でトラブったときに助けて貰ったことあるらしくってさ。だから、ねっ……」


 笑顔でそんなことを言う彼女は、いつもより妙にハイテンションだった。

 だからか、今日の取材にも力が入っているようだ。

 そう言うわたしもすっごく気になる。

 急いで教科書をカバンに詰めると沙耶っちの後を追うことにした。

 沙耶っちがぽつんと立っている生徒会室の前の廊下、わたしも彼女の横に立つ。


「なに? 桜っちも来たの?」


 やがて世能会長がやってくる。

 わたしたちをチラ見した彼女は苦々しそうに視線を逸らせ鍵を開け入っていく。

 アニ研の4人衆がお兄ちゃんと一緒に来たのは10分後のことだった。


「何してるんだ? 桜子」

「いいじゃない、廊下に立ってるくらい」

「山中さんは取材なんだよね。情報早いね」

「勿論です! 全クラスに特派員と言う名のスパイがいますからねっ!」


 お兄ちゃんは苦笑いを浮かべると他のみんなと一緒にドアの前に並んだ。そうして深呼吸をするとノックする。


「どうぞ、空いてるわよ」


 ドアを開けるとお兄ちゃんとアニ研のみんなは中に入っていく。その後ろから堂々と沙耶っちも入っていく。待ってよ、わたしを置いてかないで!


「失礼します。実は今日はアニメーション研究部の設立について……」

「分かってるわよ!」


 お兄ちゃんの言葉をさえぎると世能会長は書類を机の上に投げ置く。



  バサッ!



「おめでとう、アニメ研究部は学校にも承認されたわ」


「「「「「ええっ?」」」」」


「部室は廃部になった無線部の跡を使ってね。掃除は自分たちですること。来月には活動状況を確認に行くから真面目にやってよね。それから……」


 みんなは目を点にして彼女の話を聞いている。

 お兄ちゃんは世能会長の机の上から書類を手にすると目を落とす。やおらその中から数枚の紙をアニ研の新部長に見せると顔を見合わせる。


「……と言う訳よ。予算申請書、活動報告書その他の必要書類は星乃くんが持ってる書類の中にあるわ。何か質問は?」

「これは一体誰が……」


 アニ研部員の言葉に世能会長は小さく嘆息すると。


「星乃くんよ。星乃くんとその仲間たちよ」

「ありがとう星乃、さすがやること早いな!」

「いや、そうじゃなくって……」

「分かったら早く部室の掃除にいったらどう? 鍵はここにあるわよ」

「ありがとうございますっ、みんな、行こうか!」


 アニ研4人衆は大きく一礼すると書類と鍵を手にわいわいと生徒会室を出て行く。

 と、世能会長がお兄ちゃんを呼び止めた。


「星乃くんはちょっと残ってくれないかしら」

「はい」


 言われるまでもなくお兄ちゃんはそこに立ったままだった。一旦戻りかけた沙耶っちも足を止める。わたしはずっと動いていない。

 アニ研のみんなの声が聞こえなくなると真っ先に口を開いたのはお兄ちゃんだった。


「これは神湯さんの根回しですね」

「そうよ。相変わらず手際がいいと言うか悪知恵が働くわよね。私の意向なんか無視して設立要望書まで作って校長先生に話を付けてたんだから。全く手に負えない困った子だわ」

「…………」

「私はアニ研なんかまともな活動すると思えないし、そもそも漫画研究部と一緒でいいと思ったのだけどね。まあ、決まったものは仕方がないわ。そんなことより……」


 さっきから世能会長は立ったまま、ずっとお兄ちゃんだけを見ている。


「どうしてなのっ! 分かってるんでしょ、神湯さんの事情! あと2年もないのよ! 終わることが分かっていて! 将来きっと後悔するわよ!」

「いや、後悔はしない」

「悲しい思いをするのよっ! それを…… あ」


 世能会長が沙耶っちに視線を移す。今頃気がついたのだろうか。遅い。

 さすがの沙耶っちも軽く会釈をすると部屋を出る。

 わたしも続くと扉を閉めた。

 そうして沙耶っちと顔を見合わせるとふたりで部室棟の方へと歩いて行った。


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