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第5章 第1話

 第五章 悩んでたって意味ないねっ!

 


 70対83。

 女子バスケ部は1回戦で惜しくも優勝候補の名門・西高に敗れた。

 しかし、その善戦は女子バスケ部復活をアピールするには十分だった。


「ホントは西高、一部レギュラーを温存してたんだけどね」

「それでもすごいじゃん。桜子もスリー決めたでしょ!」

「あ、アレはまぐれ。理子先輩なんか何本決めたか……」


 女子バスケ部には更に数人の入部希望者がいるらしい、理子先輩の作戦は大当たりだったわけだ。

しかし。


「御前はやっぱり凄いよね……」


 彼女はふっと小さな溜息を吐く。

 バスケの取材にも来ていたのだから当然気が付いたのだろう、理子先輩とお兄ちゃんの関係。

 放課後一緒にアイス食べよっか、とか誘った方がいいのかな?


 でも相手はわたしのお兄ちゃんだし何の話をしてよいやら……

 とか考えていると沙耶っちは気を取り直したように身を乗り出してきた。


「だけど知ってる? 女子バスケ部の復活に影響を受けてアニオタ達が動き始めたって話」

「アニオタが動き出したって?」


 キンコンカンコ~ン


 休憩時間終了の合図に沙耶っちは「後でね!」とだけ言い残し自分の席へと戻る。

 しかし、アニオタが動き出したってどう言うこと?

 北ヶ丘にアニメ研究会とかはないし…… まさかお兄ちゃんが何か変なことを始めたとか?


「じゃあ教科書85ページを開いて!」


 先生の言葉通り教科書を開きながら考える。

 最近お兄ちゃんは毎日が楽しそうだ。

 わたしにもよくポテチを分けてくれる。

 多分、その原因である理子先輩はバスケの試合が終わると、次は文芸活動に本腰を入れよう、とか言い出した。部誌の発行をするらしい。何か新しいアイディアを考えないと……


「じゃあ次の問題、星乃解いてみろ」

「あっ、はいっ」


 やばっ。次の問題ってどこ?


          ◆ ◆ ◆


 放課後、


「なんか面白いことないのか~?」


 椅子にしな垂れかかって脱力状態の百代。


「小説書けばいいじゃないの、小説~」


 パソコンに向かって執筆絶好調の久里須先輩。


「あ~あ、バスケ部の倉本くんには彼女いたし~……」


 放心状態の百代。


「小説書きなさいよ、小説!」


 パソコンから顔を上げて突っ込むわたし。


「理子先輩はいいですね~、桜子のお兄ちゃんがいるし」


 ジト目の百代。


「つべこべ言わずに小説書きなさいよ、小説!」


 理子先輩も苦笑するしかない。



  暫時しばらくは 殻に籠もるや の始め



「百代、久しぶりに詠んだわね」

「そんなことより何か面白い話はないの? ポリポリ……」


 ポテチの袋を開けると両手交互食いを始める百代。


「う~ん、面白いことって、丘の下のバーガーショップでシェークが半額になってるくらいかな?」

「それはいいぞ! 予想外の出会いがあるかもだしな。よし行こう!」


 幸せな性格してるな、百代。


「あの、理子先輩と久里須先輩もどうですか?」

「そうねえ、たまにはいいかも~」


 乗ってきたのは久里須先輩、だけど理子先輩には用事があると断られた。

 執筆が一段落付いたところでわたしはパソコンを閉じる、そうして3人で一緒に部室を出た。理子先輩は笑顔で手を振ってくれた。


 五月晴れとはこう言う日を指すのだろうか、

 まだ暖かな日差しが注ぐ通学路を並んで歩く。


「理子先輩の用事って何なんですかね?」

「そんなの決まってるだろ、部活帰りに桜子のお兄ちゃんとイチャイチャすんだ」

「イチャイチャって……」

「あたしもそう思う~、しかし驚いたわねえ。理子の想い人は推理できてたけど、まさか付き合い始めるってね~」


 久里須先輩は「四つ葉」が書いている小説が理子先輩のものであるとずっと前から知っていた。だから彼女の家庭事情も知っていたはず。理子先輩には高校卒業と同時に次のレールが敷かれていると言うことも。


 店に入るとみんな半額のシェークを頼む。百代だけは半額だからとバニラとストロベリーを注文した。交互に飲むらしい。ったくよく食べるおなごだ。


 店は空いていた。

 わたしたちは二階に上がると眺めがいい窓際の席に陣取る。


「久里須先輩は、いつから理子先輩とお兄ちゃんのことに気付いてたんですか?」

「最近よ。王子ちゃんが入部してからだよ」


 先輩はストローを咥えて一気にシェークを飲むと。


「あんな理子は初めて見たなあ。理子はね、王子ちゃんが初めて部室に来たとき、緊張してたんだよ~。普段そんなことないのに~」

「えっ?」

「多分、王子ちゃんがお兄さんとそっくりだったからじゃない?」

「…… そんなに似てます?」

「気づいてないのお~?」

「実は、よく言われます……」


 ちょっと微妙な気分


「しかし驚いたわね」

「わたしもです」


 わたしと久里須先輩は顔を見合わせる。

 そんな様子を不思議顔で見ていた百代はやおらストローを咥えたまま窓の外に目をやる。そんなゆっくりとした時間が流れて……


世能せのうのやつ、設立を認めないってどう言うつもりなんだよ!」

「あいつアタマ固いからな。漫研があるでしょうって、マンガとアニメは違うっての!」


 後ろから聞こえる声にちらり振り返る。

 北ヶ丘の男子生徒が4人集まってシェークを手に後ろの席に陣取るところだった。

 わたしは目の前に座る久里須先輩を見る。眼鏡の奥に光る先輩の瞳はわたしの後ろを興味深く観察していた。


「ここは星乃に頼むしかないか。世能会長はあいつの言うことだけは聞くからな」

「あれだろ、世能会長は星乃に惚れてるんだろ」

「でも、さ。だったらまずいんじゃないか? ほら、星乃って御前と……」

「おっ、見て見ろよ。そのふたりだ!」


 その声にわたしは窓の外を見る。

 二階から見下ろした大通りには並んでこちらへ歩いてくる理子先輩とお兄ちゃんの姿が見えた。少しはにかみながらお兄ちゃんを見上げているその姿はいつもの理子先輩とは全く違った。


「御前って去年の空手部主将を瞬殺したんだろ。それを落とすなんて星乃すげえな」

「だけど美人だしスタイル完璧だし絶対いい女だよ。羨ましい」

「バカ、何言ってんだお前ら。俺らはアニ研を創るんだろ! 三次元なんかに目が眩んでどうする!」

「あ、そうだな。そういや星乃も二次元オタのはずなんだけどな……」

「えっ、そうなのか? だったらあいつも誘えよ!」

「おれ、ちょっと呼んでくる。星乃がいたら生徒会突破間違いなしだし」


 ひとりが席を立って階下へ駆けていく。


「ねえ久里須先輩、席移動しません?」

「そうだな。あっちの隅に行こうか」


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