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第4章 第4話

 部室に着くと久里須先輩が小説を推敲すいこうしている真っ最中だった。


「あれっ、遅かったね王子ちゃん。ほら見てよ、またブックマーク増えたのよお!」

「最近絶好調ですね、これで3日連続増えてるんじゃ?」

「そーなんですよお! だけど王子ちゃんのんでる小説の半分ってどう言うことなのお!」


 最近久里須先輩は筆が絶好調とかで毎日更新を続けている。読者さんもじわじわ増えているみたい。だけどわたしの妄想小説よりブックマークが少ないことがすごく不満足らしい……


「ところで百代は?」

「ああ~、取材と称して体育館へ行きました~ ハッキリ言うと男捜しです~」


 百代も積極的よね、沙耶っちみたい。

 でも、と言うことは、いま久里須先輩とふたりっきり。

 疑問を聞くなら今だわ!


「あの~久里須先輩、ひとつ教えて欲しいんですけど」

「えっ、なに? ブックマークの増やし方以外なら~」


 根に持たれてるわ……


「以前、理子先輩のことを「愛することを殺された」って言いましたよね。あれってどう言うことなんですか?」

「ああ、あのこと。あれは…… まあ王子ちゃんには教えておくべきかなあ……」


 少し考える久里須先輩はやおら口を開く。


「彼女のご両親は理子が小学生の時に別れたみたいなのよ。それで……」


 がらがらがら……


「やあ、遅くなった!」


 入ってきたのは理子先輩だった。

 いつものように笑顔で入ってきたけれど、わたしと視線が会うとすぐに逸らされた。


「あ、紅茶入れますね!」

「そうか…… じゃあ頼むよ」


 部室に入ると本の物色を始める理子先輩、わたしはひとりで水を汲みに行く。いつもなら自分も一緒に、と言い出す彼女なのに。


 もしかして、バレたかな……

 そうして。


「はい、どうぞ」

「ああ、ありがとう」


 紅茶を入れたマグカップを差し出す。

 だけど、今日は会話が進まない。

 何だか気まずい時間が過ぎていく……

 そんなふたりを眼鏡の奥から観察していた久里須先輩がわたしを手招きした。


「…………」


 彼女は無言のままでパソコンの画面を指差す。

 それは「ノベルメイト」の自分のユーザーページにある「お気に入りユーザー」の一覧だった。「お気に入りユーザーの一覧」とは、好きなユーザーさんを登録したもの。その、彼女が指差す先にある文字を見てわたしは息を飲んだ。


『四つ葉』


 昨日、お兄ちゃんが聞いてきたペンネームだ。久里須先輩のページからリンクされていたんだ……


「何してるんだ? おふたりさん」

「あ、あたしのブックマークが増えたって話を~」

「そ、そうなんです。久里須先輩の小説が今大人気で……」

「そうか、そりゃあ良かった」


 がらがらがら


「今、戻りました!」


 と、そこへ百代も戻ってきた。

 よかった、何とかごまかせた。


「体育館に行ったんでしょ? 好みの男子はいた?」

「えっと、まあそれなりに。バスケ部とか。だけどさ、わらわはいい男を勧誘に行ったのに、逆に女子バスケ部に勧誘されて大変だった……」


 彼女の手には女子バスケ部員募集のビラ、朝わたしが受け取ったのと同じ物だ。


「バスケは得意だって口を滑らせたら攻撃がすごくって困ったぞ」


 ビラをテーブルにおいて百代。


「ははっ、大変だったな……」


 百代に笑いかけながらそのビラを手にした理子先輩は、やがてじっと考え込んだ。

 そうして。


「なあ、みんなでバスケやらないか? 女子バスケ部と組んで試合に出てみないか?」

「えっ、ええ~っ!!」


          ◆ ◆ ◆


 家に帰るとお兄ちゃんはまだ帰ってなかった。

 私は自分の部屋に入ると今日の事を思い返す。

 結局わたしたち文芸部は女子バスケ部に全面協力して、次の試合に出ることになった。


「これって面白そうじゃないか! それに百代の気になる人もいるんだろ、男子バスケ部の方だけど」


 理子先輩は急にそんなことを言い出した。

 百代は中学時代バスケ部だったらしいし理子先輩に出来ないスポーツはなさそうだ。


「ちょっと待ってくださいよ! わたしバスケなんて全然ダメですよっ!」


 運動神経に自信がないわたしの抗議は、しかし久里須先輩によって封じられた。


「多分あたしの方がもっと下手だわ~。だけど面白そうよね~」


 この一言で決まった。


「いいじゃないか、今できることを精一杯やる。それが文芸部のポリシーだ!」


 勝手にポリシーまで追加した理子先輩。

 わたしは心底遠慮したかったんだけど。

 結局、みんなで体育館に行きそう伝えると、女子バスケ部のふたりは涙を流して喜んでくれた。いや、あんなに泣かれたらこれで良かったのかなって思ってしまう……


「はあ~っ」


 大きく溜息をつくとパソコンの電源を入れた。

 だけど、理子先輩があんな事を言い出したのはお兄ちゃんにも関係あるんじゃ。

 何となく、そんな気がして。


 パソコンが立ち上がると真っ先にブラウザを立ち上げて、そして久里須先輩に教えて貰った「四つ葉」って人が書いた小説を開く。

 女性が書いたってわかる優しい文体、丁寧に作り込まれたテンポの良い文章。


「…………」


 これって……



 母の再婚先は伝統ある名家の一族。

 高校を卒業すると縁談が待ち構える主人公・樹理亜じゅりあは思いがけず高校入学初日に頼斗らいとと再開する。両親の離婚の際に転校し離れ離れになっていた幼馴染みの頼斗。彼のことが今でも好きだと自覚する樹理亜は、しかし3年後に待ち構える確実な別離わかれの前に彼への想いを胸の奥に押しとどめて、それでも精一杯に今を生きる……



 と、そんな話。

 およそ一年前から連載されているその小説はもう数ヶ月間全く更新がなかった。


 理子先輩のことについて尋ねたわたしに久里須先輩が教えてくれた「四つ葉」ってペンネームの人。そしてそれは昨晩お兄ちゃんが尋ねてきた名前。

 この物語が何を意味するのか、わたしに思い浮かぶ推理はただひとつ。


 これは理子先輩の私小説……


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